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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第二章:バレンタイン戦線!

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28/29

1月28日、黄金の火

 1月28日。水曜日。放課後。

 私は屋上で待っていた。

 冷たい風が吹いている。1月下旬の屋上は、やっぱり寒い。

 環さんにお願いして、3人を呼び出してもらった。

 早紀には「灯花が火の練習の成果を見せたいって言ってた」と。

 彩羽ちゃんには「灯花がサプライズを用意してるから来てほしいって」と。

 詩織さんには「灯花が詩の感想を伝えたいって言ってた」と。

 三者三様の理由。全部嘘だ。

 こんなことしていいのかな、と思う。でも、普通に呼んだら、きっとまたバラバラに私を誘ってくる。それじゃあ意味がない。

 だから、環さんに協力してもらった。

 屋上のドアが開いた。


「灯花?」


 早紀が来た。


「あれ、環から火の練習の成果見せたいって聞いたんだけど」

「うん、ちょっと待って。もう少しで——」


 また、ドアが開いた。


「灯花ー! サプライズって何ー?」


 彩羽ちゃんが来た。そして、早紀を見て固まった。


「……え、なんで早紀がいるの」

「私が聞きたいんだけど」


 早紀も彩羽ちゃんを見て、表情が硬くなった。

 また、ドアが開いた。


「灯花ちゃん、詩の感想を……あら」


 詩織さんが来た。そして、2人を見て足を止めた。


「……早紀ちゃんと彩羽ちゃんも」

「詩織も呼ばれたの?」


 早紀が聞いた。


「ええ。灯花ちゃんが詩の感想を伝えたいって」


 3人の視線が、私に集まった。


「灯花、これ……」


 早紀が私を見た。問い詰めるような目。


「ごめんね」


 私は正直に言った。


「環さんにお願いして、みんなを呼んでもらったの」

「……どういうこと?」


 彩羽ちゃんが聞いた。


「私が普通に呼んでも、みんなに逆に誘われちゃうと思って。早紀には一緒に帰ろうって言われて、彩羽ちゃんには遊びに行こうって言われて、詩織さんには図書室に誘われて……そうなったら、また今みたいにバラバラになっちゃう」


 3人は黙っていた。


「だから、環さんに協力してもらって、みんなを同じ場所に呼んだの」


 私は3人を見た。


「話したいことがあるの。みんなに」


 3人は顔を見合わせた。気まずそうな空気が流れる。


 でも、誰も帰ろうとはしなかった。


「……まあ、ここまで来たんだし。聞くよ。灯花の話」


 早紀が諦めたように言った。


「私も聞く」


 彩羽ちゃんも言った。


「私も」


 詩織さんも頷いた。


「ありがとう」


 私はほっとした。


「じゃあ、まずは暖まろう? 寒いし」


 私は手のひらに火を灯した。橙色の光が、屋上を照らす。

 3人が火の周りに集まった。いつもの光景だ。

 でも、いつもより距離がある。3人とも、お互いを避けるように立っている。


「……」


 私は火を見つめた。

 橙色の火。暖かい火。

 この火で、みんなを暖まってくれたらいい。みんなの心も。


「それで、話って何?」


 早紀が聞いた。


「うん……」


 私は深呼吸した。


「最近、みんながギクシャクしてるのが……辛いの」


 3人が私を見た。


「昼休みも、全然会話続かないし、放課後も、みんなバラバラに帰っちゃう。前みたいに、5人で楽しく過ごせてない」


 私は正直に言った。


「みんなが私に恋をしてくれてるのはわかる。嬉しい。でもそれと同じくらい3人の友情も、私にとって大切なの。早紀と彩羽ちゃんと詩織さんが仲良くしてるのを見るのが、好き」


 3人は黙っていた。


「だから、このままギクシャクしてるのは……嫌」

「灯花」


 早紀が口を開いた。


「もう大丈夫だよ。私たち、仲直りしたから」

「そうだよ。ちゃんと謝ったし、許してもらったし」


 彩羽ちゃんも言った。


「ええ。もう気にしていないわ」


 詩織さんも微笑んだ。

 でもそれは。


「嘘だよ」


 私は言った。


「え?」


 3人が驚いた顔をした。


「もう大丈夫なら、なんで昼休みあんな空気が重いの。なんで放課後、みんなバラバラに私を誘うの。今だって、なんでお互いを避けるように立ってるの」


 私は3人を見た。


「私、そんなに鈍感じゃない」


 3人は何も言わなかった。


「……確かに、まだぎこちないかもしれない」


 早紀が小さく言った。


「でも、時間が経てば……」

「時間が経てば、本当に戻るの?」


 私は聞いた。


「このままお互いを避け続けて、本当に前みたいに戻れるの?」


 早紀は答えられなかった。


「……分かんない」


 彩羽ちゃんがぼそりと言った。


「正直、さきっちと詩織ねぇと一緒にいると、まだちょっと気まずい」

「彩羽ちゃん……」

「だって、ひどいこと言っちゃったし。謝ったけど、言ったことはなかったことにならないし」


 彩羽ちゃんが下を向いた。


「私も」


 早紀が言った。


「彩羽にも詩織にも、ひどいこと言った。謝ったけど、まだ……」

「私も同じよ」


 詩織さんが言った。


「2人に強く当たってしまったわ。許してもらったけど、心のどこかで……まだ引きずっている」


 3人とも、顔を伏せていた。


「……やっぱり」


 私は呟いた。


「みんな、まだ傷ついてる」

「灯花のせいじゃないよ」


 早紀が言った。


「私たちが勝手に……」

「私のせいだよ」


 強く遮った。


「私のせいで、みんなが喧嘩した。私が答えを出せないからみんなが焦って、傷つけ合った」

「それは違う!」

「違っても、みんなが傷ついてるのは事実だよ」


 私は3人を見た。


「私、みんなに友だちでいてほしい。前みたいに、5人で笑い合いたいの」


 胸が熱くなってきた。

 言いたいことが、次々と溢れてくる。


「私ね、みんなが好き」


 私は言った。


「早紀も、彩羽ちゃんも、詩織さんも。みんな大切な友達で、みんなといる時間が大好きで」


 声が震えてきた。


「みんなが私のことを好きでいてくれるのは、すごく嬉しい。でも、そのせいでみんなが傷つけ合うのは、嫌なの」


 目頭が熱くなってきた。


「私は、みんなに幸せでいてほしい。私のせいで、みんなが苦しんでほしくない……!」


 言葉が詰まった。

 胸の奥から、何かが込み上げてくる。


「私、みんなのことが大好きなの。友達として、それ以上の何かとして、まだ分からないけど……でも、大好きなの」


 涙が溢れてきた。


「だから、みんなの仲が悪いのは……嫌なの。みんなが傷つけ合うのは……見たくないの」


 私の感情が、どんどん高ぶっていく。

 抑えられない。止められない。


「みんなでいる時間が、大好きなの。5人で笑ってる時間が、宝物なの。それが壊れていくのが……怖い」


 胸が苦しい。息が荒くなる。


「私のせいで、みんなが本当に友だちでいられなくなったら……私……!」


 要するに、守りたいのだ。みんなの間の友情を。みんなとの時間を。彩羽ちゃんが面白いことを言って、早紀がツッコんで、私が笑って、詩織さんが微笑み、環さんが平然としている、そんな時間を。

 その時。

 傍らに浮かべていたの火が、変わった。


「え……?」


 橙色だった火が、金色に輝き始めた。

 そして、どんどん渦を成し、大きくなっていく。


「灯花、火が……!」


 早紀が叫んだ。


「落ち着いて、灯花ちゃん!」


 詩織さんの声が聞こえた。

 でも、止められない。

 火がどんどん大きくなる。金色の光が、屋上を照らす。


「や、やだ……止まって……」


 止めようとした。でも、止まらない。

 感情が溢れすぎて、火が制御できない。


「灯花!」


 早紀が駆け寄ってきた。

 そして、私の手を握った。


「大丈夫、大丈夫だから」


 早紀の手が、私の手を包み込む。


「灯花、落ち着いて。私がいるから」


 早紀の声が、耳に届く。

 彩羽ちゃんも駆け寄ってきた。

 そして、後ろから私を抱きしめた。


「大丈夫だよ、灯花。私もいるよ」


 彩羽ちゃんの温もりが、背中に伝わる。


「灯花ちゃん」


 詩織さんも来た。

 そして、私の頬に手を当てた。


「大丈夫よ。私たちがいるから」


 詩織さんの手が、私の涙を拭う。

 3人の温もりが、私を包み込む。

 早紀の手。彩羽ちゃんの抱擁。詩織さんの優しさ。


「……っ」


 火が、少しずつ小さくなっていき、消えた。


「……」


 火が消えた。

 屋上に、静けさが戻った。


「……」


 私は立っていられなくなって、その場にしゃがみ込んだ。

 涙が止まらない。


「ごめ……ごめんね……」


 嗚咽が漏れた。


「私、また、みんなに……迷惑かけて……」

「迷惑なんかじゃないよ」


 早紀が私の隣にしゃがんだ。


「灯花は何も悪くない」

「でも……私のせいで……」

「だから灯花のせいじゃないんだよ」


 彩羽ちゃんも言った。


「私たちが勝手に焦って、勝手に傷つけ合っただけ。灯花は何も悪くない」

「灯花ちゃん」


 詩織さんが私の手を握った。


「あなたは、私たちのことを想ってくれていたのね。私たちの友情を、守ろうとしてくれていたのね」

「……うん」


 私は頷いた。


「みんなが……仲良くないのが……嫌だった……」


 声が震える。


「自分で思ってたより……ずっと嫌だった……みんなが、お互いを避けてるのが……辛かった……」


 涙が頬を伝う。


「私、みんなのこと、大好きだから……みんなが、仲良くしてほしいの……」


 3人は黙って聞いていた。


「……ごめん」


 早紀が言った。


「私たち、灯花のこと考えてるつもりで、全然考えてなかった」

「うん……」


 彩羽ちゃんも頷いた。


「灯花のために争って、灯花を苦しめてた。……大晦日、私たち約束してたのにさ。恋をするのって難しいね」

「……そうね。私も」


 詩織さんも言った。


「灯花ちゃんの気持ちを考えずに、自分のことばかり……」


 3人が、顔を見合わせた。

 今度は、避けるような目じゃなかった。


「……ねぇ」


 早紀が口を開いた。


「私たち、ちゃんと仲直りしよう。言葉だけじゃなくて、本当に」


 彩羽ちゃんと詩織さんが、早紀を見た。


「さっき灯花が言ってたこと、その通りだと思う。私たち、仲直りしたって言いながら、全然仲直りできてなかった」

「……うん」


 彩羽ちゃんが頷いた。


「私も、まだ気まずいって思ってた。でも、それを見て見ぬふりしてた」

「私も同じ」


 詩織さんも言った。


「心のどこかで引きずっていたのに、大丈夫なふりをしていたわ」


 早紀が、彩羽ちゃんと詩織さんを見た。


「改めて、ごめん。私、2人にひどいこと言った」

「私も」


 彩羽ちゃんも言った。


「さきっちにも詩織ねぇにも、ひどいこと言った。ごめん」

「私こそ」


 詩織さんも言った。


「2人に強く当たってしまった。ごめんなさい」


 3人が、お互いを見つめ合った。

 さっきまでの気まずさは、もうなかった。


「……これもたぶん許すとかじゃなくて」


 彩羽ちゃんが言った。


「だって、私たち友達だもん。友達が喧嘩して、仲直りするのは、普通のことでしょ」

「……そうだね」


 早紀が小さく笑った。


「私たち、友達だもんね」

「ええ」


 詩織さんも微笑んだ。


「大切な、友達」


 3人が、笑い合った。

 さっきまでとは違う、本当の笑顔だった。


「灯花」


 早紀が私を見た。


「ありがとう。灯花がこうやって集めてくれなかったら、私たち、ずっとぎくしゃくしたままだったと思う」

「うん、ありがとう、灯花」


 彩羽ちゃんも言った。


「灯花のおかげで、ちゃんと向き合えた」

「ありがとう、灯花ちゃん」


 詩織さんも言った。


「あなたの想いが、私たちを繋ぎ止めてくれた」


 私は、3人を見た。

 みんな、笑っている。

 さっきまでの気まずさは、もうない。


「……よかった」


 私は笑った。涙で顔がぐちゃぐちゃだけど、笑った。


「みんなが、仲直りしてくれて……よかった……」


 また涙が出てきた。でも、さっきとは違う涙だ。

 嬉しくて、安心して、出てくる涙。


「灯花、泣き虫」


 早紀が笑いながら言った。


「だって……嬉しいんだもん……」

「分かるよ」


 彩羽ちゃんが私の頭を撫でた。


「私たちも嬉しい」

「ええ」


 詩織さんがハンカチを差し出してくれた。


「顔、拭いて」

「……ありがとう」


 私はハンカチを受け取って、涙を拭いた。


「……ねぇ」


 早紀が言った。


「さっきの火、すごかったね」

「え?」

「金色に光ってた。すごく綺麗だった」


 金色の火。感情が高ぶった時に出た火。


「あれ、何だったんだろう」


 私は自分の手を見た。


「分からない。でも……怖かった。止められなくて」

「でも、止まったじゃん」


 彩羽ちゃんが言った。


「私たちが触ったら、止まった」

「……うん」


 3人が触れてくれたから、止まった。

 3人の温もりが、私の火を鎮めてくれた。


「灯花ちゃんの火は、私たちと繋がってるのかしら……?」


 詩織さんが言った。


「私たちの想いが、灯花の火に届いたのかもしれない」

「……そうかも」


 私は頷いた。

 私の火は、感情に反応する。3人への想いで、変化する。

 そして、3人の想いも——私の火に届く。


「……そろそろ寒いから、屋内入らない?」


 彩羽ちゃんが言った。いつもだったら火を出してよ、とでも言いそうなところだけど、さっきの今で心配してくれているのだろう。でも。


「ありがと、でもたぶん大丈夫だと思う」

「え、いや灯花」


 私は手のひらに火を灯した。


 金色の光が、屋上を照らした。

 でも、さっきみたいに暴走はしていない。落ち着いて、輝いているけど、暖かい火。


「金色……だね」


 早紀も驚いた様子で言う。


「え、でもあったかいよ!」


 彩羽ちゃんが火に手をかざした。


「色は変わったけど、これも灯花ちゃんの火なのね」


 詩織さんも手をかざした。

 早紀も少しためらってから手をかざした。


「……暖かい」


 みんなが、私の火の周りに集まっている。

 さっきまでみたいに、距離を取っていない。

 肩が触れ合うくらい、近くに。


「……ありがとう」


 私は言った。


「みんな、ありがとう」


 屋上に、暖かい空気が流れていた。

 火の暖かさだけじゃない。

 きっと、みんなの心の暖かさが、この場所を満たしていた。


 ◇◇◇


 日が暮れてきて、私たちは屋上を後にした。

 階段を下りながら、みんなで話をした。

 さっきまでのぎこちなさは、もうなかった。


「ねぇ、今度の日曜日、みんなで遊びに行かない?」


 彩羽ちゃんが言った。


「いいね。どこ行く?」


 早紀が答えた。


「カラオケとか? 思いっきりみんなで歌いたい」

「いいわね」


 詩織さんも言った。


「灯花は?」

「うん、行きたい」


 私は笑った。


「みんなで行きたい」


 校門で、環さんと合流した。


「終わった?」


 環さんが聞いた。


「うん。ありがとう、環さん」


 私は頭を下げた。


「環さんのおかげで、みんなで話せた」

「私は何もしてない。灯花が考えて、灯花が決めて、灯花が動いた」


 環さんがそう言って、私たちを見た。


「仲直りできたんだ」

「うん」


 早紀が答えた。


「ちゃんと、仲直りした」

「そう。よかった」


 頷いてから環さんは付け加えた。


「恋するって難しい。最初からうまくなんていかない。独りよがりになって、人を傷つけながら、恋と愛を学んでいくんだと、私は思う」


 そう言って私たちの反応を待たずに歩き出してしまった。

 私にはまだ分からない。3人には、分かったのだろうか。

 それから5人で、駅に向かって歩いた。

 みんなで並んで、いつものように話しながら。

 東の空には星が輝き始めていた。

 冬の空は澄んでいて、星がよく見える。


「綺麗だね」


 私は空を見上げた。


「うん、綺麗」


 早紀も見上げた。


「星いっぱいだ」


 彩羽ちゃんも言った。


「冬の星座は……まだちょっと見えないかしらね」


 詩織さんが微笑んだ。


「……」


 環さんは黙って、空を見ていた。

 みんなで、星を見上げながら歩いた。

 この時間が、好きだと思った。

 みんなで過ごす時間が、大好きだと思った。

 これからも、ずっと——こうやって、みんなで笑っていたい。

 そう、心から思った。

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