1月15日、バレンタイン戦線!
放課後、私は家のキッチンに立っていた。
「……よし」
エプロンをつけて、材料を並べる。チョコレート、生クリーム、バター、砂糖。
バレンタインまで、あと1ヶ月。
今年は本気だ。
スマホでレシピを確認しながら、チョコレートを刻み始めた。
去年までは、市販のチョコを渡すだけだった。友チョコとして、みんなに配って終わり。
でも、今年は違う。
灯花に、想いを込めたチョコを渡したい。
湯煎でチョコレートを溶かす。ゆっくり、丁寧に。
……こういうの、苦手なんだよね。せっかちだから、つい早くやりたくなる。
でも、チョコレートは急いだらダメだって、レシピに書いてあった。
「ゆっくり、ゆっくり……」
自分に言い聞かせながら、チョコレートをかき混ぜる。
灯花のことを考える。
6年間、ずっと一緒にいた。小学3年生の時に出会って、それからずっと。
いつから好きになったのか、正確には分からない。気づいたら、好きだった。
中学2年生の冬。川に落ちた私を、灯花が助けてくれた。
あの時、灯花は火を使った。自分の火が怖かったはずなのに、私のために使ってくれた。
あの時から、「好き」がはっきりした。
6年間の想い。それを、このチョコに込めたい。
「……あっ」
考え事をしていたら、チョコレートが少し焦げた。
「もう……集中しなきゃ」
焦げた部分を異才で巻き戻して、やり直す。
時間がかかる。でも、急いだらダメだ。
灯花は今、私だけじゃなくて、彩羽と詩織のことも考えている。
3人に告白されて、誰を選ぶか考えている。
それは分かってる。分かってるけど——。
負けたくない。
私は6年間、灯花のそばにいた。誰よりも長く、灯花と一緒にいた。
その時間は、嘘じゃない。
チョコレートを型に流し込む。ちょっと形がいびつになったけど、初めてにしては上出来だと思う。
冷蔵庫に入れて、固まるのを待つ。
「……バレンタインまでに、ちゃんと作れるようになるかな」
不安はある。料理は得意じゃないし、お菓子作りなんてほとんどしたことない。
でも、やるしかない。
灯花の笑顔を思い浮かべる。
私のチョコを食べて、笑ってくれたら——それだけで、幸せだ。
「よし、明日も練習しよう」
私は決意を新たにした。
◇◇◇
私は自分の部屋で、ベッドに寝転がっていた。
「んー……」
天井を見つめながら、考える。
バレンタイン。灯花に渡すチョコ。
普通のチョコじゃ、つまらない。
私は灯花をドキドキさせたい。
いつもみたいに、驚かせて、ドキドキさせて、私のことを意識させたい。
「じゃあ手品かなぁ……」
手品。私の得意分野。
チョコを渡す時、手品を使ったら面白いかも。
起き上がって、机の引き出しを開けた。
中には、手品の道具がいくつか入っている。カード、コイン、シルクハンカチ。
「チョコが出てくる手品……」
考える。
箱を開けたら空だと思った箱の中からチョコが出てくる、とか。
カードを選ばせて、そのカードの数だけチョコが出てくる、とか。
どれも若干ちょっと違うかも。
「あ、そうだ」
ちょっと複雑だけど、驚きはある。やる価値はありそう。
最初は、ただの友達だった。明るくて、優しくて、一緒にいると楽しい子。
でも、1年の文化祭の一件以来――灯花といると胸がドキドキするようになった。
灯花をドキドキさせたい。私がドキドキしてるみたいに、灯花もドキドキさせたい。
だから、いつもからかったり、驚かせたりする。
灯花の反応が見たい。灯花が私を見てくれるのが、嬉しい。
さきっちも詩織ねぇも、灯花のことが好き。
分かってる。みんな、本気だって。
負けたくない。
私は、灯花の特別になりたい。
友達じゃなくて、もっと特別な存在に。
「よし、こんなシナリオで行こうかな」
シナリオができたら次は練習だ。
バレンタインまで、あと1ヶ月。
それまでに、完璧にしておこう。
灯花を驚かせて、ドキドキさせて——私のことを、好きにさせる。
◇◇◇
私は自分の部屋で、ノートを開いていた。
白いページ。そこに、書こうとしている。
灯花ちゃんに渡した詩。あれは、まだ完成していない。
最後のページは白紙のまま。灯花ちゃんへの気持ちを表す言葉が、まだ見つからない。
「……」
ペンを持って、考える。
何を書けばいいんだろう。
「好き」では足りないと思う。「愛してる」でも違うだろう。
もっと、もっと——灯花ちゃんへの気持ちにぴったりの言葉。
灯花ちゃんは、自分のことを「普通」だと思っている。
火の異才も、自分自身も、「普通」で「役に立たない」と思っている。
でも、私にはそう見えない。
灯花ちゃんの火は、暖かい。
灯花ちゃん自身も、暖かい。
そばにいるだけで、心が穏やかになる。
そんな灯花ちゃんに、何を伝えればいいんだろう。
どんな言葉なら、私の気持ちが伝わるんだろう。
「……見つからない」
ペンを置いた。
何時間考えても、言葉が出てこない。
私は本が好きだ。言葉が好きだ。
たくさんの本を読んで、たくさんの言葉を知っている。
でも、灯花ちゃんへの気持ちを表す言葉だけは、見つからない。
もどかしい。
こんなにも言葉を知っているのに、一番大切な気持ちを表す言葉が見つからないなんて。
バレンタインには、チョコと一緒に詩を渡したい。
完成した詩を。灯花ちゃんへの気持ちを、ちゃんと言葉にした詩を。
でも、間に合うか。
バレンタインまで、あと1ヶ月。それまでに、言葉は見つかるか。
「……諦めない」
私は再びペンを取った。
諦めたくない。灯花ちゃんに、ちゃんと伝えたい。
早紀ちゃんも彩羽ちゃんも、灯花ちゃんのことが好き。
みんな、本気で灯花ちゃんを想っている。
負けたくない。
私は言葉で、灯花ちゃんに想いを伝えたい。
誰よりも深く、誰よりも正確に、私の気持ちを伝えたい。
ノートに、言葉を書き始めた。
まだ完成しない。まだ足りない。
でも、書き続ける。いつか、ぴったりの言葉が見つかると信じて。
◇◇◇
その夜。
3人は、それぞれの場所で、それぞれのやり方で、灯花への想いと向き合っていた。
早紀は、チョコレートを作る練習をしながら。
彩羽は、手品の練習をしながら。
詩織は、詩を書きながら。
3人とも、同じことを考えていた。
——負けたくない。
灯花の答えがどうなるか、分からないけれど。
それでも、自分の想いは本物だ。
それを、ちゃんと伝えたい。
バレンタインまで、あと1ヶ月。
3人の想いは、少しずつ形になっていく。




