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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第二章:バレンタイン戦線!

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21/28

1月8日、向き合い始める新学期!

 冬休みが終わった。

 1月8日。始業式の朝。

 目覚まし時計が鳴って、私は布団から出た。部屋の空気が冷たい。

 ……寒いなぁ。

 小さな火を灯して、部屋を温める。橙色の光が、薄暗い部屋を照らした。

 この火も、最近は少し変わってきた気がする。

 冬休みの間、いろんなことがあった。

 早紀と2人で出かけた日。雪が降る中、思い出の場所を巡って、早紀の気持ちを聞いた。

 彩羽ちゃんが家に来た日。宿題をして、休憩して、耳元で囁かれて——。

 詩織さんと喫茶店で会った日。詩を受け取って、詩織さんの涙を見て、手を握り返した。

 3人とも、私のことを好きだと言ってくれた。

 そして私はまだ、答えを出せていない。

 でも恋とはなんだろう。

 恋をしたら今の関係が、変わってしまうわけで。

 そんなことを最近ずっと考えている。


 ◇◇◇


 駅に着くと、早紀がもう待っていた。


「おはよう、灯花」

「おはよう、早紀」


 1対1で早紀の顔を見た瞬間、雪の日のことを思い出した。

 川べりで、早紀が私を見つめていた。


「灯花の火が好き。暖かくて、優しい灯花の火が」


 あの時の早紀の声が、頭の中で蘇る。


「……どうしたの? ぼーっとして」


 思い出していたら、早紀に顔を覗き込まれた。ち、近い!


「な、なんでもないよ」


 慌てて目を逸らす。顔が熱い。ぼーっとしているところを見られたからか、覗き込んできた早紀の顔が近かったからか。


「顔、赤いよ」

「さ、寒いから……」

「嘘でしょ」


 な、なんで! 火を出してないんだから本当に寒いかもしれないじゃん! それをまるで決定事項かのように嘘だと断じる、よくない! そんな簡単に見破らないでください!


「ほら、早く行くよ。電車来るから」


 そんな私の内憤を指摘することもなく、早紀が歩き出した。私はその後を追う。

 早紀の背中を見ながら、胸がじんわりと暖かくなるのを感じた。

 この感覚。早紀といると、いつもこうなる。

 安心する。落ち着く。ずっと一緒にいたから。

 でも、これが「恋」なのかはまだ、分からない。


 ◇◇◇


 学校に着くと、教室には彩羽ちゃんがいた。


「あ、灯花! さきっち!」


 彩羽ちゃんが手を振って駆け寄ってきた。


「おはよ」


 耳元で囁かれた。一緒に宿題をやったあの日に聞いた少しだけ低い声。


「灯花が私のことを好きになったら、本当の姿も見せてあげる」


 あの時の彩羽ちゃんの声が、頭の中で蘇る。


「……っ」

「灯花? どしたの? 顔赤いよ?」

「だ、だれのせいだと!」


 彩羽ちゃんに顔を覗き込まれて声が裏返った。その顔に浮かべている笑みからして、全部わかってやっているに違いないのに、この子はいけしゃあしゃあと。


「なに、どうしたの?」


 早紀が不思議そうに私と彩羽ちゃんのやり取りを見ている。


「なんでもないよ~早紀こそ灯花にどんだけアタックしたの、灯花の顔が真っ赤っか」

「……別に、一緒に登校しただけ」


 早紀と揃って彩羽ちゃんにからかわれる。

 早紀はちょっと嫌かもしれないけど、私はそこまで嫌じゃない。目が離せない。彩羽ちゃんが何をするか分からないのは、ちょっと怖くて、でもそれが楽しくて。

 これが「恋」なのかはまだ、分からない。


「おはよう、みんな」


 後ろから声がした。振り返ると、詩織さんがいた。


「おはよう、詩織さん」

「おはよう詩織」

「おっはー! 詩織ねぇ」


 詩織さんの微笑みを見て、あの日の詩織さんの涙を思い出す。

 喫茶店で、詩織さんが涙を流していた。


「その言葉が見つかるまで、灯花ちゃんのそばにいさせて」


 あの時の詩織さんの声が、頭の中で蘇る。


「あら、灯花ちゃん大丈夫? 顔が少し赤いわ」


 詩織さんが心配そうに私の額に手を当てた。たぶん熱はないです。もし私が風邪に気が付いてないだけで、熱があったとしても彩羽ちゃんにだけうつして帰るので安心してください。


「熱は……ないみたいね」


 詩織さんの手が優しく触れる。胸がきゅっと締め付けられた。

 この感覚。胸が苦しくなる。言葉にできない何かが、胸の奥で詰まっているような。

 でも、これが「恋」なのかは——まだ、分からない。


「おはよう」


 環さんの声がした。いつの間にか、環さんも教室に来ていた。


「おはよう、環さん。久しぶり」

「といってもせいぜい数日ぶり」


 環さんが小さく笑った。

 これで5人が揃った。

 冬休みが終わって、また5人で過ごす日々が始まる。


「ねぇねぇ、冬休み後半どうだった?」


 彩羽ちゃんが話を振った。


「私は年末年始、家族と過ごしてたんだけどさ、いやぁ、まだお年玉もらえてありがたいですわぁ~」

「彩羽、貯金とかしなさそう」

「はぁ~??? 今使う1万円と大人になってから使う1万円じゃ全然違うもんね! 早紀なんて、貯金ばっかしてつまんない大人になっちゃえばいいんだ!」

「彩羽ちゃん、そこまで言う?」


 ジャブに対して凄いカウンターするじゃん。


「詩織は?」


 一方、凄いカウンター(私基準)を食らった早紀は平然としながら詩織さんに話題を向ける。


「私は、本を読んでいたわ。あと、少し書き物も」


 詩織さんが微笑んだ。詩織さんも今の流すんだ。じゃあ私も流すか……。

 詩織さんは今書き物と言っていたけど、もしかして、あの詩の続きだろうか。


「環さんは?」

「私は特に何も」


 環さんは相変わらずだった。でも、クリスマスパーティーもしたし、年越しの夜は一緒に初詣にも行った。確実に仲良くなれているはずだ。


「で、早紀は? 冬休み何してたの」


 彩羽ちゃんが話を回していた早紀に話を向けた。


「私は……まあ、いろいろ」


 早紀が私をちらりと見た。私も早紀を見た。

 雪の日のこと。思い出の場所を巡ったこと。早紀の想い。

 目が合って、2人とも慌てて逸らした。


「なになに、何かあったの?」


 彩羽ちゃんが目ざとく気づいた。


「な、なんでもない」


 今度は早紀が顔を赤くして否定した。


「怪しいなぁ~」


 彩羽ちゃんがニヤニヤしている。でも、彩羽ちゃんだって私の家に来た日のことは言わないだろう。


「灯花ちゃんは? 冬休み、何かあった?」


 詩織さんが聞いた。詩織さんも、喫茶店のことは言わないだろう。


「私は……えっと……」


 何があったか。

 早紀と出かけて。彩羽ちゃんが家に来て。詩織さんと喫茶店で会って。年越しに5人で初詣に行った。

 全部、みんなとの思い出だ。


「いろいろ、あったかな」


 私は曖昧に答えた。


「いろいろって何、気になる~」


 彩羽ちゃんがぶーぶー言っている。


「まあまあ、始業式始まるわよ」


 詩織さんがなだめた。

 チャイムが鳴って、私たちはそれぞれの席に戻った。


 ◇◇◇


 始業式が終わって、ホームルームも終わって、昼休み。

 5人でお弁当を食べることになった。いつもの屋上。


「さっむ! なんで屋上なの!?」


 屋上に出た瞬間、彩羽ちゃんが飛び上がった。屋上に出たときの風は12月のそれよりも冷たい。


「彩羽が屋上がいいって言ったんでしょ」


 早紀がツッコんだ。全くもってその通りで、やっぱ屋上でしょ! と言ってお弁当も持たず、いの一番に教室を飛び出したのは彩羽ちゃんだ。


「言ったけど! こんなに寒いと思わなかった!」

「1月は寒いわよ」


 詩織さんが苦笑した。今後2月に近づくにつれてまだまだ寒くなっていくだろう。そうなると。


「灯花ー! 火出してぇ!」


 彩羽ちゃんが叫んだ。まぁこうなる。


「うん」


 私は小さな火を灯した。みんなが火の周りに集まる。……これって私が火をそこらへんくるくる動かしたらついてくるのかな、みんな。


「あったかーい……」


 彩羽ちゃんが火に手をかざした。その顔はなんというか、とろけているとでも言えばいいだろうか。


「……」


 早紀も何も言わないけど、顔を綻ばせている。


「灯花ちゃんの火は、優しい温もりがあるわ」


 詩織さんも微笑みながら言った。


「……ありがとう」


 三者三様に私の火を褒められていて、なんだか照れくさい。

 環さんは少し離れている。私たちがこぞって火の周りにいるから遠慮してくれているのかもしれないし、環さんにとっては必要ないのかもしれないけど、その距離感も別にきまずくない。


 みんなでお弁当を食べながら、いろんな話をした。

 冬休みの話。テレビの話。今年の目標の話。

 そして。


「そういえば、私、そろそろバレンタイン準備始めようと思って」


 彩羽ちゃんが言った。

 私の心臓が跳ねた。

 バレンタイン。

 年越しの夜、彩羽ちゃんが言った。「バレンタインまでに、灯花をオトす」と。


「もう? ちょっと早いんじゃないの?」


 早紀の言う通りだ。確かに1月とか2月はちょっとしたテストだの、節分だのを除けばイベントが好きない時期ではあるけど、ちょっと遠い。


「今年は本気と書いてマジだからね」


 彩羽ちゃんがマジである理由は聞くまでもないわけだけど。


「逆に早紀と詩織ねぇはいいの~?」


 彩羽ちゃんが2人を見た。


「……別に、私も考えてないわけじゃないし」


 早紀が目を逸らしながら言った。


「私も、準備はしているわ」


 詩織さんも微笑みながら答えた。


 バレンタイン。3人からチョコをもらう。それまでには、私の中にある感情にちゃんと向き合いたい。この気持ちに名前をつけたい。この気持ちが友情なのか、小さな恋の萌芽なのか。

 年越しの夜、そう思った。

 みんなはきっと待ってくれると思う。バレンタインまでに「答え」を出す必要はない。でも、3人はきっとバレンタインに想いを込めてくる。

 その時、私は——何を思うんだろう。


「灯花? またぼーっとしてるよ」


 早紀に声をかけられた。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

「何考えてたの?」

「えっと……」


 3人を見た。

 早紀。彩羽ちゃん。詩織さん。

 3人とも、私のことを好きでいてくれる。

 3人とも、私にとって大切な人だ。

 早紀といると、胸がじんわり暖かくなる。肩の力を抜いても大丈夫だという安心感というか、なんというか息がしやすい感覚。

 彩羽ちゃんといると、心臓がドキドキする。目隠しでジェットコースターに乗せられているんだけど、ジェットコースターだから死には至らなさそうな。

 詩織さんといると、胸が苦しくなる。母性というか姉性(?)に溢れているんだけど、その心に触れたらなんだか壊れてしまいそうな怖さもあって。

 全部違う。でも、全部嫌じゃない。


「……なんでもない」


 それを告げるのが、なんとなく恥ずかしくて、私は答えを濁した。


「嘘でしょ。今日ぼーっとして、それを指摘されたらなんでもないって嘘ついて。そればっかりだよ」


 早紀が疑わしそうな目で見てくる。


「ほんとになんでもないってば」

「怪しいなぁー」


 彩羽ちゃんもニヤニヤしている。


「まあまあ、灯花ちゃんにもいろいろあるのよ」


 詩織さんがフォローしてくれた。


「詩織ねぇは甘いなぁ」

「そうかしら?」


 詩織さんが微笑んだ。

 こうやって5人で過ごす時間が、私は好きだ。

 早紀と彩羽ちゃんと詩織さんと環さん。

 みんなといると、楽しい。

 でも、この関係はいつまで続くんだろう。

 私が誰かを選んだら、それとも選ばなかったら——この関係は変わってしまうんだろうか。


「灯花」


 環さんの声がした。


「ん?」

「火、大丈夫?」


 言われて見ると、私の火が小さくなっていた。考え事をしていて、集中が切れていたらしい。


「あ、ごめん」


 私は再度集中して火を大きくした。

 みんなが火に手をかざす。

 この暖かさを、ずっと守りたい。

 でも、そのためには——ちゃんと向き合わなきゃいけない。

 3人の気持ちに。自分の気持ちに。

 バレンタインまで、あと1ヶ月ちょっと。

 それまでに、私は。


「ねぇ灯花、放課後一緒に帰らない? ちょっと行きたいところがあるんだけど」


 早紀が少し顔を赤くして言った。


「あ、うん。いいよ」

「じゃあ、放課後ね」


 早紀が笑った。

 その笑顔を見て、胸がじんわりと暖かくなった。

 ——やっぱり、早紀といるとこうなる。

 この気持ちが何なのか、ちゃんと考えなきゃ。


「えー、さきっちずるーい」


 彩羽ちゃんが頬を膨らませた。


「別にずるくないでしょ。灯花と2人で帰るくらい」


「ずるいもん。私も灯花と帰りたい」

「じゃあ明日にでも誘えば」

「明日じゃなくて今日がいいの!」

「わがまま」


 早紀と彩羽ちゃんが言い合っている。でも、険悪な雰囲気じゃない。いつものじゃれ合いだ。


「まあまあ、2人とも」


 詩織さんがなだめた。


「私も灯花ちゃんと過ごしたいけれど、今日は早紀ちゃんに譲るわ」

「詩織ねぇ……!」

「その代わり、今度は私の番ね」


 詩織さんがにっこり笑った。さりげなく予約された気がする。


「抜け駆けなし、って約束してた」


 環さんが静かに言った。


「順番に灯花と過ごせばいい。喧嘩することじゃない」


 環さんの言葉に、3人が黙った。


「……そうだね」


 早紀が頷いた。


「まあ、今日はさきっちに譲るよ」


 彩羽ちゃんも引き下がった。


「ありがとう、花輪さん」


 詩織さんが環さんに微笑んだ。

 環さんは小さく頷いただけだった。

 なんだか、私を巡って3人が順番を決めているような。いや、実際そうなんだけど。複雑な気持ちだ。嬉しいような、申し訳ないような。


「じゃあ灯花、放課後ね」


 早紀が念を押すように言った。


「うん、分かった」


 私は頷いた。

 早紀と2人で帰る。行きたいところがあるって言ってた。

 どこに行くんだろう。

 とはいえまぁ、どこに行っても早紀となら楽しいだろう。


 そんなことを考えていたら昼休み終了のチャイムが鳴った。


「あ、戻らなきゃ」


 私たちは屋上から教室に戻った。

 午後の授業。ぼんやりと先生の話を聞きながら、私は考えていた。

 早紀といる時の気持ち。彩羽ちゃんといる時の気持ち。詩織さんといる時の気持ち。

 全部違う。でも、全部大切な気持ちだ。

 この気持ちが何なのか、ちゃんと向きあって考えないと。

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