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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第一章:灯された恋の火

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20/29

12月31日、恋の火蓋!

 大晦日の夜。

 5人で初詣に行くことになった。

 クリスマスパーティーの日から、グループチャットに環さんが入って、グループは5人になった。


「年越しはみんなで過ごそうよ!」


 そんな彩羽ちゃんの鶴の一声も別途環さんに連絡する必要もなくなったわけだ。

 全員が万障繰り合わせの上、23時に神社の前で待ち合わせと相成った。

 そして私が着いた時には、もう4人とも揃っていた。また私が最後。みんな早すぎる。


「灯花、遅い」

「ごめんごめん」


 早紀にいつものように言われる。でも、時計を見ると23時40分。やっぱ遅くはないと思うんだけど。


「灯花ちゃん、寒くない?」


 詩織さんが心配そうに聞いてくれた。


「大丈夫、火があるから」


 小さな火を灯して見せると、詩織さんが微笑んだ。


「相変わらずね」

「わーい、私も暖めて~」


 彩羽ちゃんが寄ってきた。私は火を少し大きくして、みんなの方に寄せた。


「暖かい」


 早紀も、小さく呟いた。告白の一件以来、早紀もなんというか素直に私の火に当たるようになった。

 5人で火を囲む。冬の夜なのに、なんだか暖かい。


「もうすぐ年越し」


 環さんがスマホを見た。


「今年もいろいろあったなぁ」


 彩羽ちゃんが空を見上げた。


「環さんが転校してきて、灯花が火の練習初めて、クリスマスパーティーして……あれ、12月以前の記憶が……?」

「12月以降が結構濃かったから……」


 早紀が苦笑いする。


「告白もしたわね」


 詩織さんがさらりと重ねた。


「詩織ねぇ! それ言う!?」


 彩羽ちゃんが慌てた。


「事実でしょう?」


 詩織さんはおっとりと微笑んでいる。

 私は少しだけ顔が熱くなった。

 告白。3人に告白された。

 早紀と出かけた日。彩羽ちゃんが家に来た日。詩織さんと喫茶店で会った日。

 それぞれ、違う気持ちになった。

 じんわり暖かくなったり、ドキドキしたり、胸が苦しくなったり。

 でも、どれが「恋」なのかは、まだ分からない。


「あ、もうすぐだよ!」


 彩羽ちゃんが声を上げた。

 神社の方から、カウントダウンの声が聞こえてくる。


「10、9、8……」


 私たちも声を合わせた。


「7、6、5、4、3、2、1」


「あけましておめでとう!」


 彩羽ちゃんが叫んだ。


「あけましておめでとう」

「おめでとう」

「あけましておめでとう」


 早紀と詩織さんと環さんも、口々に言った。


「あけましておめでとう、みんな」


 私も言った。

 新しい年が始まった。


 ◇◇◇


 初詣の列に並びながら、彩羽ちゃんが話を振ってきた。


「ねぇねぇ、今年の目標とかある?」

「目標?」

「そう! 新年だし、何か決めておこうかなって」


 彩羽ちゃんがにこにこしている。


「私は……特に考えてなかったな」

「えー、灯花らしいというか何というか」

「早紀は?」

「私は……まあ、いろいろ」


 早紀が少し目を逸らした。いろいろ、って何だろう。


「詩織ねぇは?」

「私は、自分の言葉を見つけること、かしら」


 詩織さんが静かに言った。その目が、一瞬だけ私を見た気がした。


「花輪さんは?」

「特にない」


 環さんは相変わらずだった。


「えー、みんなつまんないなぁ」


 彩羽ちゃんが頬を膨らませた。


「彩羽ちゃんは? 目標あるの?」

「私? 私はね」


 彩羽ちゃんがにやりと笑った。


「バレンタインまでに、灯花をオトす!」

「は!?」


 私は思わず声を上げた。


「ちょっと彩羽、そういうことを本人の前で言う?」


 早紀が呆れた声を出した。


「いいじゃん、宣戦布告だよ宣戦布告!」


 彩羽ちゃんは全く悪びれていない。


「そういえば、もうすぐバレンタインだね」


 もうすぐと言っても2月の中旬なわけだけど、確かに年越しが終わったら次はバレンタインみたいな空気がある。節分ってあんまり関係ないしね。


 詩織さんが言った。


「灯花ちゃん、誰にチョコあげるの?」

「え、あ」


 考えたことなかった。

 バレンタイン。チョコ。

 去年は、早紀と彩羽ちゃん、詩織さんに渡したけどそれはあくまで友チョコなわけで。

 でも今年チョコを渡すのは、ちょっと意味が違う気がする。


「私たちは灯花にあげる側だけどね」


 早紀がぼそりと言った。


「あ、そっか。えー、でも灯花からチョコほしい~」


 彩羽ちゃんが笑った。


「灯花ちゃんは、受け取る側ね」


 詩織さんも微笑んだ。

 あ、そっか、もらう側か、私。

 それはそれで――どういう意味なんだろう。


「灯花、顔赤いよ」


 早紀に指摘された。


「う、うるさい……」


 顔が熱い。火のせいじゃない。


「まあまあ、バレンタインまでまだ1ヶ月以上あるし」


 彩羽ちゃんが私の背中を叩いた。


「それまでに、灯花も考えておいてね。誰のチョコを一番喜ぶか、とか誰かにチョコをあげるのか、とか」

「そんなの……」


 分からない。

 3人とも、大切な友達だ。3人とも、私のことを好きだと言ってくれた。

 でも、私は――。


「次、私たちの番だよ」


 そう、次は私たちが答えないと。3人の気持ちに。

 ……ん? たち? 何考えてるんだろう、私。


「参拝。しないでおく?」


 環さんの声で、我に返った。

 気づけば、お賽銭箱の前に来ていた。


「何をお願いする?」


 彩羽ちゃんが聞いた。


「言ったら叶わなくなるでしょ」


 早紀が答えた。


「えー、ケチー」


 私はお賽銭を投げて、手を合わせた。

 何をお願いしよう。

 ……自分の気持ちが、分かりますように。

 そう願った。


 ◇◇◇


 初詣が終わって、帰り道。

 5人で歩いていたけど、いつの間にか2グループに分かれていた。

 早紀と彩羽ちゃんと詩織さんが少し前を歩いていて、私と環さんが後ろを歩いている。


「環さん」

「ん?」

「ちょっと、聞いてもいい?」


 環さんが私を見た。いつもの、静かな目。


「恋って、どういう感情なのかな」


 環さんは少し間を置いてから、答えた。


「なんで私に?」

「環さんは、なんか……分かってそうだから」


 環さんが小さく笑った気がした。


「分かってるかは分からないけど」


 環さんが空を見上げた。星が綺麗だった。


「恋は、たぶん、相手のことを想ってしまう気持ち」

「考えてしまう……」

「うん。考えたくなくても、考えてしまう。気になって仕方がない。そばにいたいと思う。その心根に触れたいと思う。相手が自分のことを考えてくれていたらどんなに幸せなことだろうと思う」


 環さんの言葉が、胸に落ちてきた。


「灯花は、誰かのことをそう思う?」

「……分からない」


 正直に答えた。


「告白されてから、3人のことを考えちゃう。気になって仕方ないし、そばにもいたいと思う。みんなが何を思っているのか知りたいとも思う。でも、それが恋なのかどうか……」

「分からなくて当然」


 環さんが言った。


「灯花は、恋をしたことがないんでしょ?」

「……うん」

「なら、分からなくて当然。経験したことのない感情を、言葉で理解するのは難しい」


 環さんの言葉は、いつも静かで、でも確かだった。


「じゃあ、どうすればいいの?」

「待つしかない。自分が恋に落ちる瞬間を」

「待つ、って……それでいいの?」

「いい。でも自分が恋に落ちたことを認識できるようにちゃんと自分を見つめながら」


 環さんが私を見た。


「3人といる時、灯花は何を感じる?」

「何を感じる……」


 早紀といる時。じんわり暖かい。

 彩羽ちゃんといる時。ドキドキする。

 詩織さんといる時。胸が苦しくなる。

 全部違う。でも、全部――嫌じゃない。


「灯花」


 環さんが言った。


「焦らなくていい。でも、逃げないで。3人は、灯花に気持ちを伝えた。灯花も、いつか答えを出さなきゃいけない」

「答え……」

「それが3人のうちの誰かに恋をした、って結果でも、3人には恋をできない、って結果でも」


 そっか。誰かに恋をしても、誰にも恋ができなくても、それは結局誰かを傷つけるんだ。

 それは、怖い。

 でも、私が答えを出さなきゃ、もっと傷つく。それはもっと怖い。


「……バレンタインまでに」


 この時までに恋をする、っていうのも変な話だから。


「自分の気持ちが何なのか、ちゃんと向き合う」


 ちゃんと向き合いたい。この気持ちに名前をつけたい。この気持ちが友情なのか、小さな恋の萌芽なのか。


「そっか」


 環さんが小さく頷いた。

 前を歩く3人の背中を見た。

 早紀。彩羽ちゃん。詩織さん。

 3人とも、私のことを好きでいてくれる。

 私は誰のことが好きなんだろう。

 分からない。

 でも、逃げない。ちゃんと考える。

 バレンタインまでに、自分の気持ちを知りたい。

 あ、彩羽ちゃんが拳を上げた。向こうも仲が悪くなったりギスギスしたりはしてないみたいだ。ちょっと安心。


「おーい、灯花ー! 環さーん! 置いてくよー!」


 彩羽ちゃんが振り返って私たちを呼んだ。


「今行く!」


 私は小走りで3人に追いついた。

 環さんも、静かについてきた。

 5人で並んで歩く。冬の夜は寒いけど、みんなといると暖かい。

 新しい年が始まった。

 バレンタインまで、あと1ヶ月半。

 それまでに、私はちゃんと自分の気持ちの正体と向き合って、この気持ちに名前をつけられるだろうか。


 ◇◇◇


 少し前を歩きながら、私たち3人は後ろをちらちらと見ていた。

 灯花と転校生が、何か話している。


「……何話してるんだろうね」


 彩羽が小声で言った。


「気になる?」


 詩織が聞いた。


「そりゃ気になるよ。ライバルだし」

「花輪さんは恋してないって言ってたでしょ」


 私は言った。でも、正直なところ、私も気になっていた。


「今は、でしょ? いつ変わるか分かんないじゃん。本人もそう言ってたし」


 彩羽が頬を膨らませた。


「……そうね」


 詩織も同意した。

 転校生は、恋じゃないと言った。でも、2人の距離は近い。火の練習を一緒にして、秘密を共有して。

 私たちが年単位の時間をかけて築いてきた距離を、転校生は数週間で詰めた。


「ま、今は花輪さんのことより灯花のことだよ」


 彩羽が前を向き直した。


「バレンタインまで、あと1ヶ月半くらいだよ」

「そうね」


 詩織が頷いた。


「本気出すよ、私」


 彩羽がにやりと笑った。


「さっきも言ってたでしょ、灯花をオトすって」


 私は呆れた声を出した。


「言ったよ。本気だもん」


 彩羽の目が、いつもと違っていた。明るいけど、真剣。


「私も、負けるつもりはないわ」


 詩織も静かに言った。


「この詩を完成させるまで、諦めない」


 詩織の目も、真剣だった。

 2人とも、本気だ。

 私だって、本気だ。


「……私も、負けない」


 私は言った。


「6年間、灯花を好きだった。その時間は、誰にも負けない」

「時間だけで勝てると思ってるの?」


 彩羽が挑発するように言った。


「思ってない。だから、これからも頑張る」

「ふふ、さきっちも本気だね」


 彩羽が笑った。


「当たり前でしょ」

「3人とも本気なら、灯花ちゃんも真剣に考えてくれるわね」


 詩織が微笑んだ。


「そうだといいけど」


 灯花は鈍い。自分の気持ちにも鈍い。

 でも、バレンタインまでには――何か、変わるかもしれない。

 変わってほしいと願う。

 灯花が、私たちの気持ちに向き合ってくれたら嬉しい。


「ねぇ」


 彩羽が言った。


「約束しよっか」

「約束?」

「うん。灯花が誰を選んでも、恨みっこなし。灯花が誰も選ばなくても、友達のまま」


 彩羽の声が、少しだけ真剣だった。


「……当たり前でしょ」


 私は答えた。


「灯花を困らせるようなことは、しない」

「私も、同じよ」


 詩織も頷いた。


「灯花ちゃんが幸せなら、それでいい。……本当は、私を選んでほしいけれど」

「正直だね、詩織ねぇ」


 彩羽が笑った。


「正直よ。だって、本当のことだもの」


 詩織が微笑んだ。

 私たちは、ライバルだ。

 でも、友達でもある。灯花を大切に思う気持ちは、同じだ。


「じゃあ、正々堂々と戦おう」


 宣言するように言う。


「バレンタインまで、ううん。灯花が誰かに恋するまで全力で」

「おー!」


 彩羽が拳を上げた。


「ふふ、負けないわよ」


 詩織も笑った。

 後ろを振り返ると、灯花と転校生が何か話し終わったところだった。


「おーい、灯花ー! 環さーん! 置いてくよー!」


 彩羽が声をかけた。


「今行く!」


 灯花が小走りで追いついてきた。

 転校生も、静かについてきた。

 5人で並んで歩く。

 バレンタインまで、あと1ヶ月半。

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