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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第一章:灯された恋の火

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12月1日、転校生の火の異才!

 ホームルームが終わっても、私の心臓はまだ少しだけ早く鳴っていた。


「ねぇねぇ、転校生! 転校生だよ!」


 ホームルームが終わってすぐ、彩羽ちゃんがロケットスタートして私の席まで飛んできた。目がきらきらしている。新しいおもちゃを見つけた子供みたいだ。


「12月に転校生ってレアじゃない? しかもめっちゃ美人! なんか影があるっていうか、ミステリアスっていうか!」

「彩羽、声大きい」


 早紀が後ろからやってきて彩羽ちゃんを制した。でも早紀も、ちらちらと環さんの方を見ている。


「でも確かに珍しいわよね、この時期の転校って」


 詩織さんも加わって、いつもの3人、私含めて4人が私の席の周りに集まった。自然と視線が環さんの方に向く。

 環さんは自分の席に座ったまま、窓の外を見ていた。みんな遠巻きに見ていて、話しかけるクラスメイトはいない。あの雰囲気のせいだろうか。近寄りがたいというか、壁があるというか。


「灯花、さっきめっちゃ見てたよね」


 彩羽ちゃんがにやにやしながら言った。


「え、そう?」

「そうだよ。転校生が入ってきた瞬間からガン見。灯花ってああいうクール系が好みだったの?」

「いや、そういうんじゃなくて……」


 なんて説明すればいいんだろう。目が合った瞬間、目が離せなくなった。


「同じ色だったから」

「同じ色?」


 早紀が首を傾げた。


「目。私と同じ、琥珀(こはく)色だったから」


 言ってから、なんだか恥ずかしくなった。目の色が同じだったから見てました、って。我ながら意味がわからない。


「あー、確かに」


 彩羽ちゃんが環さんの方を見て頷いた。


「灯花と同じ色だ。珍しいね、琥珀色って」

「そうねぇ。綺麗な色よね、灯花ちゃんの目」


 詩織さんがにこにこと言う。たぶん褒められてる……のか?


「話しかけてみたら?」


 早紀があっさりと言った。


「え」

「だって気になってるんでしょ。ぼーっと見てるより話しかけた方が早いじゃん」

「いや、でも……」

「私も気になる! 一緒に行こうよ灯花!」


 彩羽ちゃんが私の腕を掴んだ。ちょっと待って、心の準備が。


「彩羽ちゃん、あんまり強引にしたら転校生さん怖がっちゃうわよ?」

「大丈夫大丈夫、私めっちゃフレンドリーだから!」


 それが怖いんだって。

 結局、彩羽ちゃんに引きずられる形で環さんの席に向かうことになった。早紀と詩織さんも後ろからついてくる。

 環さんは私たちが近づいてきても、窓の外を見たままだった。気づいていないのか、気づいていて無視しているのか。


「ねぇねぇ、花輪さん!」


 彩羽ちゃんが元気よく声をかけた。環さんがゆっくりとこちらを向く。

 あの静かな目が、私たちを見た。


「どうしたの?」

「私、七瀬彩羽! よろしくね!」


 彩羽ちゃんは物怖じしない。すごいな、と素直に思う。私だったらあの目で見られたら言葉に詰まってしまいそうだ。現に今、詰まっている。


「こっちが秋月早紀と柚木詩織! で、この子が日向灯花!」


 彩羽ちゃんが次々と紹介していく。早紀は軽く手を挙げて、詩織さんはにっこり微笑んだ。


 私は、なんとか「よ、よろしく」と言った。声が少し裏返った。恥ずかしい。


「よろしく」


 環さんは短くそう言った。表情は変わらない。でも、拒絶しているわけではない気がする。


「ねぇねぇ、花輪さんってどこから来たの? 好きな食べ物は? 趣味は? 異才は何?」


 彩羽ちゃんの質問攻めが始まった。さすがにちょっと元気すぎるって、この子。


「彩羽、一気に聞きすぎ」


 早紀がツッコむ。ありがたい。


「えー、だって気になるじゃん!」

「気になっても順番に聞きなさいよ」


 環さんは彩羽ちゃんと早紀のやり取りを、静かに見ていた。


「……遠くから来た」


 ぽつりと、環さんが言った。


「好きな食べ物は特にない。趣味も特にない」


 淡々とした声。でも、ちゃんと答えてくれている。


「異才は火」

「火!?」


 私は思わず声を上げてしまった。環さんの視線が私に向く。


「あ、いや、その……私も火の異才だから。びっくりして」


 しどろもどろに説明する。環さんは少しだけ、本当に少しだけ、表情が変わった、ように見えた。気のせいかもしれないし、それがどういう変化なのかは変化が少しすぎてわからなかったけど。


「そう」

「う、うん。だから、なんか親近感っていうか……」


 何を言ってるんだ私は。親近感って。初対面の相手に。


「同じ」


 環さんが呟いた。何が同じなのか。異才のことだろうか。


「じゃあ灯花と火仲間だね! よかったじゃん灯花、同じ異才の子できて!」


 彩羽ちゃんが嬉しそうに言った。火仲間って何だ。


「そうねぇ、火の異才って珍しくはないけど、クラスに二人いるのは珍しいかも」


 詩織さんがおっとりと言う。


「花輪さんはどんな火が出せるの? 灯花の火は暖かいよぉ?」


 事実なんだけど褒められてるのかなぁ?

 環さんは私をじっと見ていた。あの静かな目で。何かを探るような、何かを確かめるような。


「見せてあげる。少しだけ」

「え?」


 環さんが人差し指を上に向けた。次の瞬間、そこに火が灯った。

 私は息を呑んだ。それは私の火とは全然違った。

 私の火は橙色で、ゆらゆらと揺れて、暖かい。手で包み込めるような小さな火の玉。

 環さんの火は――蒼かった。

 蒼い炎が人差し指の先で渦を巻いている。熱い火に当たった時特有の肌を刺すような焼かれる感覚がないのは、教室ということもあってきっと温度を抑えているのだろう。

 それでも小さいのに、中からはぞっとするほど熱量を感じた。美しいけれど、どこか恐ろしい。

 このたとえが正しいかは分からないけど、星のような火だった。渦巻く蒼い恒星を間近で見たらきっとこんな感じなんじゃないか、と思わせるような。


「すっご……」


 彩羽ちゃんが呆然と呟いた。早紀も詩織さんも、言葉を失っている。


「……これが、私の火」


 環さんが手を下ろすと、蒼い火は消えた。まるで最初からなかったみたいに。


「せっかくだからあなたの火も見せて」


 環さんが私を見た。


「え、私の?」

「同じなんでしょう」


 同じ。同じ火の異才。でも、全然同じじゃない。私の火はあんな風にはならない。あんなに綺麗で、あんなに強くて、あんなに――。


「……うん」


 でも、見せないわけにはいかない気がした。

 私は手のひらに火を灯した。いつもの、(オレンジ)色の小さな火。暖かいだけの、役に立たない火。

 環さんの蒼い炎と比べたら、蝋燭(ろうそく)の火と恒星くらいの差がある。


「良い」


 環さんが呟いた。


「え?」

「あなたの火。暖かい」


 環さんの表情は変わらない。でも、その声には何かがあった。懐かしむような、確かめるような。


「う、うん。暖かいだけなんだけどね。早紀みたいに人を助けられるわけでもないし、詩織さんみたいにすごい能力があるわけでもないし。ほんと、暖かいだけ」


 それを聞いて彩羽ちゃんが不満そうに口を尖らせた。


「ねぇ、私は?」


 自分で言っていて悲しくなってきた。何が悲しくてこんなごまかすようなことを言ってるんだろう。

 あと彩羽ちゃんはいつも異才で私をからかうからダメです。


「暖かいだけ」


 環さんが小さく繰り返した。

 その声が少しだけ柔らかくなった気がした。気のせいかもしれないけど。


「暖かい火。良いと思う」


 それだけ言って、環さんはまた窓の外を向いた。

 私は手のひらの火を消して、環さんの横顔を見つめた。何を考えているんだろう、この人は。


「ちょっと灯花、褒められてるよ? 反応薄くない?」


 彩羽ちゃんが私の背中を叩いた。


「あ、う、うん。ありがとう……環さん」


 環さんは窓の外を見たまま、小さく頷いた。


 ◇◇◇


 その日の放課後。


「灯花、今日一緒に帰らない? 駅前の新しいクレープ屋行きたいんだけど」

「え、あそこ行くの!?」


 正直なところ、甘いものは大好物だ。常々前世はアリだったのだろうと思うくらいに目がない。

 でも今日はちょっと。


「そうそう、行こうよあそこ!」

「……うー、ごめん。今日はちょっと……!」

「あぇ、なに? 用事?」


 用事というか、なんというか。


「環さんに学校の中、案内しようかなって」


 言ってから、よく考えたらクレープの選択肢を捨ててまでなんでこんなことを言ってるのかわからないな、とも思う。


「おー、灯花が自分から誰かに関わろうとするの珍しいね」


 早紀が意外そうに言った。確かに珍しいかもしれない。普段のどちらかというと私は受け身寄りのキャラだと思う。彩羽ちゃんに引っ張られて、早紀に急かされて、詩織さんに見守られて。自分から誰かに話しかけるなんてことあんまりない。


「同じ火の異才だし、なんか気になって」


 言い訳みたいに言った。


「いいんじゃない? 灯花がそうしたいなら」


 早紀はあっさり認めてくれた。


「じゃあクレープはまた今度ね! 灯花、花輪さんと仲良くなったら教えてよ!」


 彩羽ちゃんが手を振りながら去っていく。詩織さんも「頑張ってね」と微笑んで、二人の後を追った。

 さて。

 私は環さんの席に向かった。環さんは帰り支度を始めていた。


「あの、環さん」


 声をかけると、環さんがこちらを向いた。


「日向さん」

「灯花でいいよ。えっと、その、今時間あったりするかな? よかったら学校の中案内しようかなって。転校してきたばっかりで、わからないこととか多いだろうし」


 この饒舌さ、私だってやろうと思えば人とコミュニケーションが取れるのだ、などと思うほどうぬぼれてはいない。この何かあった時に早口になるのってどうにかならないですか?

 私の不審な饒舌を受けた環さんは少しの間、私を見つめていた。断られるかなぁ。


「いいの?」


 私のそんな心配をよそに、環さんは乗り気な様子。良かった、断られたらクレープも食べられず一人でデカい声で泣きながら帰るところだった。


「うん、もちろん」


 私が答えると環さんは静かに立ち上がった。


「じゃあ、お願い」


 ◇◇◇


 校舎の中を歩きながら、私はいろんな場所を説明した。


「ここが図書室。詩織さん……さっきの黒髪の子がよくいるよ」


 図書室の前で足を止める。環さんは窓から中を覗いた。


「……」

「……」


 まぁ図書室なんて特別な事情がない限りどこも一緒だから言うこともないか。次に進む。


「こっちが購買。お昼はここでパンとか買えるよ。クリームパンが人気ですぐ売り切れるから、買いたい時は早めに行った方がいいかも」

「クリームパン」

「環さん、甘いもの好き?」

「どうだろう」


 どうだろうって言うと、好きか嫌いかわからないってこと? 食べたことがないとかってことだろうか。でも、甘いもの食べたことがないなんてことある? 疑問はいろいろあったけど、深く聞くのもなんとなくはばかられる気もした。


 屋上への階段を上る。


「ここが屋上。普段は立入禁止なんだけど、昼休みだけ開放されてるの。天気がいい日はここでお弁当食べたりする」


 扉を開けると、冬の冷たい風が吹き込んできた。夕暮れの空が広がっている。(あかね)色と紫色が混ざり合った、綺麗なグラデーション。


「綺麗」


 環さんが呟いた。

 私は環さんの横顔を見た。夕陽に照らされて、その白い肌がほんのり色づいている。


「環さんは、どこから来たの?」


 聞いてから、朝も彩羽ちゃんが同じこと聞いてたな、と思い出した。


「……遠くから」


 彩羽ちゃんが聞いたときと同じ答え。それ以上は言わない。


「そっか」


 私も深く聞かなかった。話したくないことがあるのかもしれない。きっと転校にはいろんな事情がある。


「灯花は」


 環さんが口を開いた。


「ずっとここに?」

「うん。生まれてからずっとこの辺り。引っ越したことない」

「そっか」


 環さんは少しだけ、本当に少しだけ、表情を変えた。その表情の変化がどんな感情なのかは、相変わらずわからないけど。


「いいね」

「そうかな。退屈だよ、ずっと同じ場所って」

「退屈でもいい」


 環さんの声が、少しだけ優しくなった気がした。


「同じ場所で、同じ人たちと、同じ毎日を過ごせるのはいいことだと思う」


 その言葉には、なんだか重みがあった。

 私には想像もつかない何かを、この人は背負っているのかもしれない。


「ありがとう」


 環さんが言った。


「案内、ありがとう」

「う、ううん。大したことしてないし」

「ううん。嬉しかった」


 嬉しかった。その言葉と、環さんの表情が、あんまり一致しない。でも、嘘を言っているようには見えなかった。


「明日からもわからないことあったら聞いてね。私でよければ、だけど」

「うん」


 屋上を後にして、下駄箱に向かう。

 靴を履き替えて、校門を出る。


 環さんとは最寄り駅が一緒だった。なんと。

 電車の中は無言。


「環さんの家、こっちなんだ」

「うん。駅の方」

「私も。途中まで一緒だね」


 駅を出て自転車を押して並んで歩く。電車を降りても環さんは相変わらず口数が少なかったけど、不思議と気まずくはなかった。

 分かれ道に差し掛かった。


「私、こっちだから。環さんは?」

「こっち」


 反対方向を指差す。じゃあここでお別れか。


「じゃあ、また明日」


 私がそう言うと、環さんは少しだけ微笑んだ。


「また明日」


 環さんが繰り返した。

 その声が、なぜか少しだけ嬉しそうで、でも噛みしめているように聞こえて。


「うん」


 私は手を振った。環さんも小さく手を振り返してくれた。

 環さんの背中が遠ざかっていく。夕暮れの中、黒い髪が風に揺れている。

 また明日。当たり前の挨拶。明日も会える。明日も学校がある。そんな当たり前のこと。

 なのに環さんは、その言葉を大切そうに口にした。


「……変わった人だなぁ」


 呟いて、私も家に向かって漕ぎ出した。

 でも、嫌な気持ちじゃなかった。

 明日、またみんなに会える。

 そう思うと、たしかに明日が楽しみになった。

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