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第一話 放課後の遭遇

 



 放課後の校門を出ると、夕暮れの光が校舎の窓に反射して街を淡いオレンジ色に染めていた。


 木々の影が伸びる歩道を、制服のスカートを揺らしながら私は軽やかに歩く。


 腰までの栗色の髪が風に揺れるたび、柔らかく輝き、透き通るような白い肌が夕陽に映える。

 大きな瞳は澄んだ淡い青色で、控えめながらも愛らしい。

 華奢で整った体つきに、柔らかな立ち居振る舞いが清楚な雰囲気を醸し出している――誰が見ても好感を抱く、上品で可憐な私。……そう、自分でもちょっと自覚してる。だって、エイドの隣に立つなら、このくらいは努力して当然なんだから。







 ふと、前方に見慣れた姿があった。


 夕陽に照らされた横顔は、彫刻のように整った頬の輪郭が際立ち、鼻筋はまっすぐに通り、柔らかく光る唇のラインまで美しい。

 瞳は深いコバルトブルーで、冷たくも優しくも見え、まるで吸い込まれるような奥行きを持っている。

 長めのまつげが影を落とし、陶器のような滑らかな肌に光が反射するたび、その完璧さが際立つ。

 首筋から肩にかけてのラインは自然でありながら計算されたかのように美しく、立っているだけで周囲の光景を飲み込む存在感。


 私の唯一無二の愛おしいエイドリアン・ブラックウッド。




 思わず息を呑んだ。

 う、うわぁ……顔も全部尊い……瞳、唇、髪、手の先まで……胸が高鳴って息が止まりそう……!こんなに近くで、なんでみんな平然としていられるの……?


 頬が熱くなるのを押さえながらも、目を離せず、心の中で何度も小さく叫ぶ――

 エイド……好きだよおおおおお!めちゃくちゃ好きだよおおおおお!!


 姿を見ただけでこんなにも胸が締め付けられるなんて、誰が想像しただろう。





 家が隣同士で、うーんと小さな頃から2人で公園やお互いの家で一緒に遊んだ日々。


 幼い頃、私は大切にしていたぬいぐるみを木の枝に引っ掛けてしまった。でも私では届かなくて、悲しくて涙が止まらなくて。

 すると、エイドリアンがすぐに駆け寄ってきて、優しく声をかけてくれた。


「ヴィヴィ、泣かないで。僕が取ってあげる」


 そっとぬいぐるみを取り出して、私に手渡してくれる。


「ありがとう、エイド……!」

 思わず目を輝かせると、彼は小さく笑いながら答えた。

「ヴィヴィの泣いた顔もかわいいけど、笑った顔が一番可愛くて大好きだよ」



「大丈夫。ずっと僕が隣にいるからね」

 その穏やかな手の温もりに、私は安心して胸がじんわり温かくなる。

 桜の花びらが舞う下、肩を寄せ合いながら、私たちは無邪気に微笑み合った。


 今でも、あの柔らかな手の感触や声の響きは、私の心に深く残っている。




 思春期になり、なぜか私にだけ反抗期が来てしまった彼だけど、完全に私を突き放すことはせず、結局からかい、からかわれる関係になった。

 冗談や軽いいじめが自然に交わされるのも、この長年の信頼と理解があるからこそ。


 互いの呼び名やしぐさ、笑い方の一つひとつを知っているから、横に並ぶだけで胸がときめき、顔が熱くなり、時には意地悪な言葉に甘く悶える。

 私たちは『友人』それ以上でもそれ以下でもない、絶妙で特別な距離なのだ。






 エイドに近づくため、後ろを軽やかに駆けて息を弾ませながら肩を並べる。


 エイドが私に気が付くと、軽く肩をぶつけるように反応して、わずかに眉を寄せた。

 その仕草に、胸の奥がじんわり熱くなり、鼓動が早まる。その嫌そうな顔も好きだよ、エイド!


「……何してるの、ここで」

「私も帰りの途中。あのね、エイドと下校時間が一緒になるなんて嬉しいなあ、一緒に帰りたいなあ」


 思わず小さくジャンプして胸を弾ませ、エイドに会えた幸福をじっくり味わう。

 ああ、エイドが尊くて死にそう……!夕陽の光まで味方みたい……!隣にいるだけで、胸がドキドキして手が震える……ああ、このまま幸せで溶けちゃいそう……!



「なんで一緒に帰らなきゃいけないんだよ」

「ちょっとでも一緒に居られたら嬉しいなーと…」

「嫌だね、ついてくんな」

「お願いよ!エイドと帰りたいの」


「……ったく、顔だけは……ずるいくらい可愛いんだよな」

 ボソッと呟かれた一言は聞こえなかった。

 エイドは眉をひそめ目を逸らして、唇の端が微かに動く。


 その仕草ひとつで、胸がギュッと締め付けられる。

 もしかして、エイドったら照れてる……!?ああ、照れ隠しの顔も全部すき!どんな表情も保存して待ち受けにしたい……!ああスマホが足りない!






 小さな路地を抜け、私たちは並んで歩く。


「……ふぅ、今日は一日暑かったね」

「……別に。俺は平気」


 その素っ気ない後ろ姿に、どうしても目を離せない。心の奥がチクチクと疼く。


 やがて自販機の前に差し掛かると、彼は立ち止まった。


「どしたの?買うの?」

「喉渇いた」

「あっ、ごめん!私お金持って無いの…」

「は?ヴィヴィにおごってもらう気なんかないけど」

「エイドのために買ってあげたかったんだよお」

「バカか?」


 軽く腕を組み、横目で私を見る。

 さっと飲み物を買うと、顔を背けて少し拗ねたように呟く。


「……これ、いつものと違うじゃねーか」


 舌打ちして、私に向かって投げるように差し出してきた。


「わっ…え、捨てていくの?」

「捨てたらもったいないだろ!オレ要らないから、飲めば」



 ああ、なんでこういうことするの……!死んじゃう…!

 私はキャッチしながら心の中で叫んだ。




 歩きながら、ふとしたことで肩が触れ合う。

 私は一瞬立ち止まり、意識して離れないようにそっと肩を寄せる。


「……近いぞ」

「え、えへへ……バレてる?ごめんね……」


 小さく笑って少し身体を引く私。

 くう……肩をぴったりして歩けると思ったのに…!

 悔しさのあまり胸元で両手をギュッと握った。



「……ふん」

 彼はまたもや赤面しながらため息を漏らす。

 私は心の中で崩れそうになる。うう……!このまま時間が止まればいいのに……!鼻息になりたい……




 しかしエイドリアンとの距離が少しずつ開いていく。

 置いていかれまいと必死に小走りになる私。


「遅い、足短いんじゃないの?」

「違います!でも……エイドは足も長くてかっこいいね……」


 その意地悪な顔が可愛くて、胸がキュンとする。


「はあ、ヴィヴィ。こっちに並べ、さもないと置いてくぞ……」


 彼は肩を軽くすくめ、少し歩く速度を緩める。

 軽く視線をそらしながら、手を差し伸べ――


「ほら、手を置いて歩け」


 私の頬が真っ赤に染まる。思わず手を握ろうとして、恥ずかしくて止める。


 手が……近い……握ったら死んじゃう、でも握らずに死ぬのは嫌……!難問すぎる……でもこれがたまらない……


 小走りで歩幅を合わせ、肩と肩が触れそうな距離を保つ。


 歩道を渡る風が、髪を揺らす。香る風に、胸がざわつき、鼓動がまた速まる。


 横顔をチラリと見れば、少しだけ口元が緩んでいるのがわかる――その瞬間、胸の奥がじんわり甘く締め付けられた。


 夕暮れの街道を、二人は並んで歩く――

 互いに言葉少なでも、視線や呼吸、わずかな動作で、確かに心は寄せ合っているのがわかる。

 肩が触れそうな距離、指先がかすかに近づく瞬間――それだけで、私は幸せで悶えてしまうのだった。





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