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Gods labo -神々の戯れ-  作者: 重宗直太郎
狩人に成った幼き者の話
9/11

 おぼろげながら覚えているのは、白い建物と木とも陶器とも違った硬い何かで作られた、隙間だらけの城のようなものだった。幼い頃に夢で見たのだろうとは思うのだが、その硬い感触は夢とは思えないほどしっかりとした記憶だった。親に聞いてもそんな物は知らないという答えしかもらえなかった。


 次に覚えているのは、拾われる前のことで、そこは鬱蒼とした森の光景だった。濃い緑に覆われた巨木は幼かった俺には恐怖でしかなくて、大きな声を上げて泣いると、泣き声が呼び寄せたのか、気づくとたくさんの狼に囲まれていた。唸り声を上げて近づく狼たちにもはや泣くことさえできず、まだ『死』という概念さえ持っていない頃だったが、良くない状況にあることは感じていた。

 逃げたくても、足が竦んで動かすことができず只々その場に立ち竦んでいることしか出来ない俺に狼たちが飛びかかろうとしたときに、どこからか白い狼が俺の前に現れた。白い狼は俺を庇うかのように背を向け、俺に襲いかかろうとしてた狼達に一声吠えると散り散りに逃げていった。


 それから白い狼は俺のそばに来ると涙を拭き取るように顔を舐め始めた。最初は食べられると思ったので泣き止まなかったけど、その気がないことを感じると俺は白い狼に抱きついて、いつの間にか眠っていた。それが生涯の相棒となる『シロ』との出会いだった。いや、今となってはその名前はどうなんだって感じだけど幼かったし仕方ないよな。

 

 どれくらい寝ていたのかわからないけど、目が覚めたときには日が落ちて真っ暗になっていた。暗闇が怖くてまた泣いたんだけど直ぐにシロが顔を舐めてくれて、一人じゃないことに気づいた俺は泣くのをやめた。とは言え、恐怖心までは無くすことが出来なかったのでしばらくシロの首に抱きついていたら「くぅ」とお腹が鳴いた。その音でお腹が空いているけど、食べるものがないことに気づいて、なんだか悲しくなってまた泣きそうになったら、シロが袖を咥えて引っ張り始めた。


 シロに引っ張られるままに、とある木の下まで歩くと幼かった俺にも手の届くところに果物のようなものがあった。赤くて丸い大きな果物で、食べると甘酸っぱい果汁が口の中に広がって夢中で食べた。今考えると怖いよな。毒とかあったらどうするんだって感じだけど、あの頃はそんな知識もないし、腹が減りすぎていてとにかくなにか食べたい気持ちで一杯だったし、結果としてそれが俺の命を繋いでくれたんだから。


 二つくらい食べたところで、物凄く眠くなって立っていられなく成ったところにシロが体を寄せてきたので、俺はシロに寄り掛かるようにして寝たんだろうな。気づいたら朝になっていて、目が覚めたときにシロを枕にしていたのに気づいたから。


 起きてからしばらくは、自分がいる場所がどこかわからなかったけど、段々と頭がはたらいくると昨日からの自分の身に起こったことが思い出されてこれからどうしたら良いのかとちょっとだけ思ったけど、シロのことに気づいたときにどうにかなるだろうと気にするのをやめた。それから、朝飯代わりに昨日の果物を一つ食べた。食べた後、昨日と同じように眠くなるかと思ったけどそんなこともなく、逆にジッとしていられないくらい動きたい気持ちが湧き上がってきたので、この森を探検してみたくなってきた。


「シロ、付いて来てくれる?」


 俺がそう聞くと、当たり前だろというように一つ啼いて、先導するかのように歩き出したので、俺は赤い果物を一つもいで、シロの後をついて行った。あとで聞いたら、かなり広い森の中だったらしく、中で迷ったら二度と出られないと噂になっている森だったらしい。そんな森の中をもシロにはどこへ行けば良いのかわかっているように、時々地面の匂いを確かめながら迷いなく歩いていたせいか、不思議と不安な気持ちはなく、なんとなく森を出るんだろうなぁ、と思っていた。


 どれくらい歩いたのかわからないけど、疲れたなと思ったときにシロがこちらを向いて一つ啼いたことで、「あ、森の外に出るんだ」となんとなく分かった。その頃から、なんとなくシロの言ってることというか、言いたいことというか、考えていることがわかる気がして、意思の疎通ができていた。不思議だな、と思ったことは無いよ。それが当たり前な気がしていたし、今でも当たり前だと思っているし。


 森の外に出ると、森の中は薄暗かったから日が眩しすぎて暫く立ち止まって目を瞑っていた。


「誰だ!」


 そこには誰かいて突然声をかけられた。光に慣れてきた目を開けると、構えた弓をこちらに向けている大人がいた。


「ここで、何をしている!」


 鋭く大きな声と、太陽を反射して光っている鏃が怖くて俺は声を出すことが出来ずにそこに立ち竦んでしまった。そんな俺を庇うようにシロが前に出て、低い唸り声をあげてその大人を威嚇し始めた。


「な、白い狼・・・」


 その大人は、シロに驚いたのか目を大きく開き、威嚇するシロと睨み合っていた。暫くするとその大人は弓を降ろし、それを見たシロも警戒している雰囲気はあったものの威嚇の唸り声を出すのをやめた。


「・・・ここで何をしている」


 シロと俺を交互に見ながら、ゆっくりと近づいてきた大人は、俺と目線を合わせると静かな声で俺に聞いてきた。


「わかんない・・・」

「わからない?」

「気づいたら、この森の中に居て、狼に襲われそうになって、シロに助けてもらって、赤い果物食べて、ここに連れてきてもらった」

「何を言ってる?この森に果物なんて・・・」

「これ」


 俺は、右手に持ったままの、あの赤い果物を差し出した。


「これは?」

「森の中の木になってた。夜、お腹すいたらシロが教えてくれた」


 俺は、いつの間にか足元に寝そべっていたシロを指さした。


「シロが助けてくれた」

「その狼が?」

「シロ!」


 俺はつい大きな声を出してしまった。たった一晩だけだったけど、初めて会ったとき、たくさんの狼を一人で追い返してしまったシロは、俺にとって特別な存在だった。だから、他の人にもそれを知ってほしくて、狼と一括りにされることが、なんだか嫌だった。

 眼の前にいる大人は、そんな俺の気持ちを分かってくれたのか「すまん」と謝ってくれた。それから、昨日から今までのことを聞いてくれた。まとまりがなくて、時系列もあっちこっちに飛んだりしたけど、ただ黙って聞いてくれていた。


「俄には信じがたい話だが、嘘を言ってるわけでは無さそうだな」


 そう言って、顎に手を当てて何かを考えている大人を、黙って見つめていると「くぅ」とお腹が鳴いた。その音を聞いた大人は少し笑うと、


「そうか。もう昼だな。一緒にメシでも食おうか」


 と言って俺を抱き上た。


「シロは?」

「そうだな、シロも一緒にメシを食おう」


 そう言って、大人は何処かへ向かって歩き出し、その後をシロも付いてきた。


 これが、俺の親父となる大人との出会いだった。

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