表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gods labo -神々の戯れ-  作者: 重宗直太郎
始まりの男の話
5/11


 まだ少しモヤっとしたものを抱えてはいたけれども、元の世界に未練があるわけでもなし、そう思って俺はこの世界で暮らす事に決めた。あとから考えてみたら、そういう人間を選んでいたんだろうと気づいたけど。

 

 とりあえず、部屋を出て行った男を追うように俺もベッドから降りて扉を開けてみた。扉の向こうは薄暗かったけど見えないわけでなく、そこには四人掛けくらいのテーブルと椅子が置いてある場所と、テレビや映画で見た気がするような竈門?みたいなものが置かれている場所があって、安めの1Rの間取りのような部屋になっていた。


 そこまで広くもないのに男の姿は何処にもなかった。何処へ行ったのかと、キョロキョロとあたりを見回してみれば、奥の方には今しがた出てきた部屋と同じ木の扉があって、両隣には俺の頭から腰くらいの大きさのある窓のようなものがあったけど、こっちも木の扉のようなもので塞がれていた。合わせ目の隙間から光が差し込んでいて、それが灯りの代わりになっていたようだ。

 

 テーブルの上に目をやれば、そこには丸いパンみたいなものとミカンのような物が乗っていた。これを食べろということなのだろう。試しに一口ずつ齧ってみたが、味はともかく、食べられないこともなさそうだったのでそのまま食べ切った。

 パンのようなものを食べたら喉が渇いてきたので、水がないか部屋を見回してみれば竈門のようなものから少し離れた場所に大きな甕が置かれていたのを見つけた。多分、水が入っているんだろうと思って近づいて覗いてみれば思った通り水が入っていた。甕の口には柄杓が渡されていたのでそれを使って水を掬って飲んでみた。少し、変な味がしたけど、こっちの世界の味なんだろうと気にせず飲んだ。

 水を貯めた甕があるってことは、水道なんて便利なものは無くて井戸か川か、どちらにしても外から運んでくる必要があるということか。


 元の世界でも、そこそこ昔ながらの暮らしをしていたつもりだったけど、ここはそれよりも昔な水準のようで、これからここで暮らすのか、と思ういながら部屋を見渡してみれば、なんとなく引っ越し初日のようなちょっと前向きな気持ちになってきた。


「選ばれし者の恍惚と不安、2つ我にあり。だったかな?」


 昔、好きだったプロレスラーが言ってた言葉を呟いて、俺はここで暮らしていくことの覚悟を決めた気でいた。


「となれば、まずは家の確認からかな。とはいえ、さっきの部屋とこの部屋くらいしかなさそうだから、外でも見てみるか」


 新しい場所を確認するのって、なんだか楽しい気持ちになるよな。日本?地球?と同じような世界だっていってたから、もしかしたら何処かで見たような景色かもしれないけど、それでもワクワクしながら俺は外につながっているだろうドアへと向かい、ノブのような取ってを掴んで押してみた。けど、ドアは開かなかった。


「あれ?開かない?」


 さっきより力を入れてみたり、体ごと押してみたけど開かない。2,3歩助走をつけて肩からぶつかってるような事を何度かしてみたけど開きそうで開かなかった。


「…嘘だろ。まさか、閉じ込められてる?」


 ああ、そういえば俺って実験動物だったっけ。それで、観察しやすいように閉じ込めておくってのは、まあ考えられるか。男に行動の自由みたいなこと約束させてなかったし、あいつもわざとかどうか知らないがそのへんの話してなかったしな。

 いや、待てよ。1ヶ月後には街に移動するとかって言ってたよな。だとしたら、ここに閉じ込めて死ぬまで外に出さないってわけでも無いんだよな。だとしたら、外につながっていると思われるドアが開かないってことは無いと思うんだけどな。


「…となると、鍵がかかっているのかな?」


 そうだよな、普通鍵かけるよな。そう思って、ドアを観察してみたが鍵穴とか閂みたいな仕掛けは見つからなかった。ノブのような取っ手もただ、開け閉めしやすいようにつけられているだけで、捻って回すこともできないものだった。


「そういえば、日本だと外に向かって開くけど、海外だと内に向かって開くって聞いたことあったな」


 そんなことを思い出した俺は、今度はドアノブみたいなものを引いてみた。すると、なんの抵抗もなくドアは開き、外の明かりの眩しさに思わず目を閉じた。それから、少しづつ外の明かりに慣れさせるように目を開いていくと、眼の前には鬱蒼とした森があった。上を見ると元の世界と同じような色をした青い空が広がっていて、この家は、どうやら森の中の開けた場所にあるらしかった。


 森の方からは鳥の鳴き声が聞こえてきた。ドアを開けて直ぐでも幾つもの鳴き声が聞こえてきて、どれだけの種類の鳥がいるのだろうと思って森の方へと足を踏み出したときに、ふと茶色い大きな物が視界の端に写った。なんとなしにそちらの方へと目を向けてみると、そこには熊に似た四足の獣が自分を見ていた。


(あ、これヤバいヤツ?)


 そう思った瞬間、その獣が巨体に似合わない素早さであっという間に自分の目の前に迫っていて、仁王立ちになって右手を振り下ろして来た。


 恐怖から反射的に目を瞑ってしまい、その時が来るのを覚悟したけれど、いつまでたっても俺の体に衝撃も痛みも来なかった。そのことに、不審に思って恐る恐る目を開けてみると、眼の前で獣が何度も手を振り下ろす姿が入ってきた。けれども、その手は俺には届かずに数十センチ手前でなにか壁があるかのように止められていた。


 なんだコレ?、と1,2秒くらい呆然とその光景を見ていたが、ハッと我に返った俺は慌てて家の中に入り急いでドアを閉め、その場にへたり込んだ。


「なんだよ、アレ。熊がいるのかこの森?」


 この世界に慣れるまでここで暮らせとか言ってたけど、普通にムリだろう。あんな危ない物がウロウロしていたら外に出られないし、外に出られないと水も食べ物も手に入らない。男がサポートするなんて言ってたけど、こんな場所でサポートとか言っても…。


 …そういえば、あの男は何処へいったんだ?家の中には居ないということは外へ出たってことだよな。食べ物取りに行ったのか、水を汲みに行ったのか、どっちにしてもマズいんじゃないか。パッと見でしか無いけど、外には熊以外の物体は見えなかったということは、あの男が外に出たときにはいなかったんだろう。ということは、帰ってきたら鉢合わせになるんじゃ…。これ、詰んだか?


 そんなふうに、これからどうしたら良いのか悩んでいたら、外から男の声が聞こえてきた。


「こら、ポチ! 悪戯したらダメっていっただろう!」


(ポチ?ポチって何?誰?)


 場にそぐわないその単語に混乱していたら、外へつながっているドアが開けられて俺の背中を打った。慌てて立ち上がって振り向いたと同時にくらいに男が何事もなかったかのように入ってきた。


「おや、どうしました」


 呆けたようにドアの前で立っている俺を見て男は声をかけてきた。


「いや、お前大丈夫なのか?外に、熊みたいな動物が居なかったか?」

「熊?…ああ、ポチのことですか?

「ポチ?」

「外に護衛代わりに呼んでおいた熊です。この世界だと、ブラッドベアとよんでるようですね」

「…危険じゃないのか?」

「うーん、そこまで危険な動物ではないですね。人懐っこいですし。ただ、敵意を向けてくる相手には危険な生物ですね。瞬発力と腕力なら上位の方ですし、人間なら瞬きする間もないでしょうね」


 だから熊がいると思ったら、目の前に現れていたのか。あの巨体の見た目からは想像がつかないほど早く動けると聞いてなにかが腑に落ちが気がする俺に、男はさらに熊の性質を説明してきた。


「あと、自分の所有物を取っていった者にも危険ですね。執着心がすごいのでどこまでも追いかけていきますよ」

「そこは、元の世界と同じなんだな」

「それで、村が一つなくなることも稀にあるんですよね。ヒトもブラッドベアの習性くらいわかっているでしょうに、学習しないのか、自分だけは大丈夫と思うのか。理解できないことです」

「それにしても、アレ大丈夫なのか?そのポチって。俺、襲われたんだけど」

「ああ、すみません驚かせてしまったようで、叱っておきました。どうにも悪戯好きな性格みたいで」

「悪戯好き…。寿命縮んだ思いしたんだが…」


 熊から振り下ろされる腕を思い出し、あれがイタズラだったと聞いた俺はがっくりと肩を落として、踵を返すと近くの椅子に座って机に突っ伏した。


「…ああ、そういえばこれ食ってよかったんだよな」


 そう言って、俺はパンと果物を指さした。


「はい。それは自由に食べていただいてかまいませんよ。水が飲みたかったらあそこの甕に入っているもの飲んでください。本当は沸かさないとダメなのですが」

「そのまま飲んだらダメなのか」

「ええ、沸かさずに飲んだ場合、普通は胃腸に何らかの影響が現れますし、ひどい場合は死に至ります。ですが、この家の家具や食器といった器具には加護を付与していますので、問題ありません」


 そう言われて俺は、元の世界でも、昔は一度沸かしてから飲んでいたという話を聞いたことを思い出した。もしかしたら、この世界は俺が住んでいた時代よりも随分前の時代に近い環境なのかもしれない。そう思うと、なんだかこの世界で暮らしていけるのか不安になってきて、そんな俺の様子に気づいたのか男が言った。


「大丈夫です。貴方は簡単に死ぬことはありませんから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ