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Gods labo -神々の戯れ-  作者: 重宗直太郎
始まりの男の話
3/11


「いや、ちょっと待って!」

「何か?」


 ドアに手をかけて部屋を出ようとしている男を俺は呼び止めた。


「なにかじゃなくて、ふざけるのやめてくれない。これ、テレビのドッキリか何かなの?この間取材断ったことの嫌がらせ?」

「ふざけてなどいません。また、嫌がらせでもありません」

「じゃあ、これどういうこと。人の家に勝手に上がり込んで、こんな理由のわからない場所に連れてこられて…って、これ拉致じゃないか!」


 拉致!?と自分で言って気付いた。そうだ、これ拉致とかってやつだ。しかも、かなり手慣れている人間の仕業だ、きっと。いくらなんでも、五十になろうとしている男が夜中とはいえ一度も目が覚めずに朝まで寝ているなんてありえない。となると、睡眠薬とかなに使われたのか。

 え、まって俺どうなるの。あんな山の中から連れ去るくらいだから、まだ殺されはしないよな。ということは何処かに連れ去られるの?


 今になってやっと働きだした頭でそんなことを考えていると、恐怖が一気に押し寄せて、背中が嫌な汗で濡れていくのが感じられた。そんな自分を見つめていた男が呆れたようにため息をついた。


「拉致でも誘拐でもない…とは言い切れませんが、そのようなものではありませんよ。最初に説明したように、これは『実験』です」

「『実験』?!『実験』ってなに?!っていうか、やっぱり拉致でしょこれ!肝臓とか腎臓とか抜かれるの?脳みそいじられるの?」

「ああ、体の処置は準備として必要だったのでもう終わってますよ」

「終わってるの?!」


 俺は慌てて着ていた服を脱ぎ捨て自分の腹を確認した。けれども、どこにも手術をしたような後は見えなかった。次に、頭に手をやってあちこち触ってみたが特に変わったことはなかった。え、手術後とか見えないほどの医療技術を持ってるの。こいつら、どんだけヤバい集団なの?まるで、子供の頃に見た変身ヒーロー物の悪役じゃん。ってことは、俺は怪人になったのか。そう思うと俺の心臓はさらなる恐怖で呼吸が浅くなり、心臓の鼓動も早くなっていくのが感じられた。


「妄想が過ぎますよ。ヒトはまだ、そんな高度な技術を持ってませんよ。仮に持ってたとしてもすぐに取り上げますけど。とりあえず、一旦落ち着きましょう。貴方のその姿をみて、私の説明が足りないことに気づきましたので、改めて説明させてください」


 そういうと、ベッドのそばの椅子に座り直して、話し始めた。


「説明の前に確認ですが、“多次元宇宙”とか“並行世界”とかいう単語を聞いたことはありますか?

「あ、ああ、おれ、そういうSFとか好きでよく読んでいたから聞いたことはあるけど…」

「では、その言葉意味するもの、または指しているものは?」

「この世界と似たような別の世界が存在しているとか、あと、何かを選択する場面があった場合、自分が選ばなかった結果の世界があるとか、なんかそんな感じのことじゃなかったか?」

「そんな感じで理解されているのであれば話は簡単ですね。貴方はいま、“別の世界”にいます」

「はあ!?」

「経緯とか背景とかは先程説明しましたので省きますが、つまりあなたは『神』による実験の被検体として選ばれこの世界にいるわけです」

「『神』に選ばれて…」


『神』に選ばれた。その言葉に今度は別の意味で鼓動が早くなった。『神に』選ばれた!なんて、魅力的な言葉だ。振り返ってみれば誰かに「選ばれる」ことなんてなかった俺が『神』に選ばれた!やっぱり、俺は特別な何かだったんだ!


「あ、いや特に意味ないですよ。貴方を選んだことには。世間からいなくなってもそれほど問題のないヒトを探していたらたまたま目についただけなので」


 子供の頃から、心の奥底で妄想していた『特別な存在』に慣れたと思っって浮かれていた俺に、その男は冷水ををかけるようなことを言ってきた。


「意味ない…。目についただけ…」

「まぁ、有り体に言えば」


 ついさっきまで、浮かれていた心が急速にしぼんでいくのを感じて、呆然としている俺をみて、男は首を竦めながら言ってきた。


「先天的、あるいは後天的に『神』が想定していなかった能力が顕現したのならその存在は『特別』かもしれませんが、貴方は違いますし、そもそも『特別』な個体であればこれとは異なる『実験』で使われると思いますよ。そういう“面白そうな”なモノはまず、自分の世界で経過を観察したいでしょうし」


 平々凡々な家庭に生まれ、平々凡々に生きてきて、その平々凡々は状況がいやで、本や漫画、果てはオカルトなアレコレを読んで「もしかしたら俺は特別な存在なんじゃないか」なんて思い始めて、妄想がすぎるよなぁ、と思いながら捨てきれずに、彼女もできなけりゃ仕事もうまくいかない中、それに縋りながら50過ぎまで生きてきた「生きがい」を否定されたのは、思っていた以上に苦しくて、虚しさが体中に広がっていくようだった。


「それよりですね」


 今思えば、くだらなすぎることに落ち込んで俯いていた俺に、男が少し苛立った感じで声をかけてきた。


「今後の説明を続けてもよろしいでしょうか。私も予定があるもので」

「あ、ああ…」


 ちょっと苛立ったように見える男から感じる圧のようなものを感じて、おれはビビりながら頷いた。


「それでは、改めて説明しますと、あなたは“実験体”として貴方がいた“世界”から別の“世界”へと転移しました。とある種の集団が入っているケージAから別の種の集団のケージBに移した感じ、と思ってください。そして、ケージAとケージBはちょっとだけ環境が異なっているため、そのまま移した場合、短時日で死ぬことが、過去の『実験』で判明しています。そのため、貴方にはある程度の手術が体に施されています」

「その手術ってなに?さっきは、臓器抜いたりしていないっていってたけど」

「簡単に言うと臓器移植ですね。貴方の体にとある器官を移植しています」

「え、俺に移植されたの?」

「そうです。先程も説明したように貴方の居た世界とこの世界は似たような環境ではありますが、若干相違しています。ただ、それが致命的な相違であることがわかりました」

「そういえば、最初の成功例とか、過去の実験で判明とか言ってたな。まさか、俺よりも前に来た、違うな連れてこられた人がいるってことか?」

「そのとおりです」

「その人達は、連れてきた途端にみんな死んだってこと?」

「そのとおりです」

「じゃあ、俺もすぐに死ぬの?」

「それについては、先程説明しましたように、貴方がた時間で1ヶ月も保たずに死んでいます。これでは、実験を始めることができないため、こちらの世界のヒトと貴方がたの世界のヒトを調査し、身体を生成する際に構成される器官に違いがあることがわかりました。そこで、今回の転移ではすぐに移すのではなく、一旦我々が住む世界に貴方を連れていき、こちらの世界で生きていくための器官を移植したあとで、ここへと連れ来ています。一応、想定では最低でも3年は生活できるものと考えています」

「3年…。なんか、癌か何かで余命宣告されてるみたいだな」


 自分の命の期限を告げられて、男と会話しているうちに忘れていた虚しさがまた体のを埋め尽くしていた。死ぬまでにやりたいことが結構あったはずなんだけど、それも元の世界?でやりたかったことで、違う世界じゃできない可能性のほうが高いだろうしなぁ。それより、死にたくないなぁ。「いつ死んでもいいか、心残りないし」なんて思ったこともあったけど、やっぱり死にたくないなあ。なんで、って言われても困るけどたぶん、不安とか恐怖とかなんだろうな。


 俺は、親父のことを思い出した。親父は体が丈夫で、丈夫すぎてちょっとの痛みとか体の不調を耐えるような我慢強さがある人だった。あとで、気づいたんだけどアレは病院に行って、病気が見つかるのを怖がっていたんだろうな。


 で、ある日倒れて病院に運ばれたら、癌が見つかって、これがだいぶ進んでいて手術するにも年齢的な問題からすぐにはできず、医者に「最短で3週間」と言われてとりあえず入院して点滴で抗癌剤をずっと入れらて、一度持ち直した用に見えたんだけど、結局医者がいった通り3週間後に死んだ。


 あの時の親父もこんな気持だったのかなぁ。


「さて、先程の説明を繰り返しますが、これから貴方にはこちらの世界で生活してもらいます。ただ、こちらとあちらでは常識などが異なるため、私が1年ほど生活をサポートさせていただきます。とりあえず、最初の1ヶ月ほどはこの家で暮らしていただきます。ここは、この世界の人が暮らしている大小の集落から離れたところであり、貴方以外のヒトはいませんし、近づくこともありません」


 そんな、俺の気持ちにお構い無しに男は淡々と説明を続けていく。


「食料や飲料など生活に必要な物資については、私が定期的に補充しに来ます。炊事については申し訳ありませんが、ご自分でお願いします。ただ、この世界はガス・水道・電気といったインフラが発達していませんのでそこはご容赦お願いします」

「いや、その前にここ、というかこの世界で暮らすことに納得してないんだけど!」


 俺は、俺の気持ちを無視して説明を続ける男に苛立ちをぶつけるように怒鳴っていた。


お読みいただきありがとうございます。


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