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親父に拾われて5年が過ぎた。拾われた時は3才だったので、8才になったわけだ。
俺が拾われた森の近くには小さな村があり、春から秋に、小麦や豆や芋なんかの農作物を作り育て、冬から春先には山へ狩りに出るのが村人の生活だった。俺が拾われたのは夏の最中だったけど、なんでも連日連夜狼が鳴いていたので原因を調べるため、場合によっては狼を狩るために親父と数人の大人が山に入り俺を見つけたらしい。
俺を連れ帰った後は狼の声はぱったりと止んで、いつもの山に戻ったらしく、もしかしたらシロが俺のことを知らせるために鳴いていたんじゃないかなんて言われていたが、シロと出会ったのは親父に拾われる前日だったから全然関係ないと思っていた。
村の人たちは皆優しかった。辺境というのか、国のはずれの方にある村はそもそもが人が少ないため人が増えること、特に子供が増えることは、例え怪しい経緯で拾われてきたとしても、とても喜ばしいことだったらしく、会う人会う人に声をかけられたり「たまたま見つけたから」と小さな果物を貰ったりしていた。それを「贔屓だ」「生意気だ」と同じくらいの年齢の子供に叩かれたり叩き返して大人たちに叱られたりしてるうちに、何がキッカケだったか忘れたけど一緒に遊ぶようになっていた。
8才になると、村の子供達も大人たちと一緒に仕事をするのがこの村の慣習だ。雪が溶ける頃に土を耕し、種を撒き、夏は雑草をとったり作物をダメにする害虫を駆除し、秋になれば麦を刈り野菜を収穫し、収穫祭でバカ騒ぎして、冬に備えて薪とするために木を切り枝を拾い、冬は家に閉じこもって……たりはしないけど、春に備えて農機具の手入れを手伝ったりと、一年中働いていた。狩りへはまだ連れて行ってもらえなかったけど、子供が扱えるように作られた小さな弓を貰って、時間がある時は村の外れに作ってもらった「練習場」で子供たちみんなで練習していた。俺は、いつも同い年のテリー、ジョンと一緒に練習していた。
「やった!黒2本連続だ」
同い年の子供たちの中で、一番弓が上手いケリーが振り返って自慢気に言ってきた。ケリーは、最初に俺にインネンをつけてきた奴で、何度も喧嘩をしてる内に何故か一番仲が良くなった所謂親友ってやつだ。ケリーの父親も弓扱いが上手い方らしく、よく見てもらっているらしい。血は争えないってことか。俺の親父も弓が上手い方で時々見てもらっているのだが、俺はそうでもなかったから、ちょっと悔しかった。
「くそ、あと少し右にズレていればなぁ」
「『だったら』とか『いれば』とか言ってるうちは上達しないぞ、トール」
「ぐぅ、テリーがウザい」
「ウザくなかったらテリーじゃないよ」
「バウッ」
「ジョンもシロもでひでぇ」
そんな感じで、早く狩りへ連れて行ってもらえるように、日の出から朝飯の前や、夕飯の後から日が落ちるまでのどちらかで「練習場」で的に向かって矢を放っていた。
シロは最初は怖がられていたというか、家畜を食い殺されるかもしれないということで、村の中に入れるのは渋られたが、「シロと一緒でないとイヤだ」「シロと出ていく」とダダをこねたことで、何かあったら親父が責任を取る、ということで一緒に住むことが出来た。村の人の心配は杞憂に終わって、1年も経った頃にはシロも村に溶け込んでいて、たまに外からくる行商の人の悲鳴でシロが狼であることを思い出した。
そんな感じでさらに4年が経ち、12歳の冬に初めて狩りへと連れて行ってもらった。
この村には、主要な狩り場が3箇所会った。東に広がる草原と、北の山の麓から中腹当たりと、西に広がる俺が拾われた森の浅い所がそれだ。東の草原は、冬になると一面雪野原となって、身を隠す場所がなかったけれど、遮蔽物がないけれど、必ず雪兎や冬鳥がいるので、初めての狩りに必ず訪れる場所になっていた。遮蔽物がないところで獲物を取れないようでは、山や森は絶対無理だ。
なんて言ったけど、初めての狩りは散々な結果だった。ジッとしていることの多い雪兎を狙っていたのに、1羽も獲ることが出来なかった。やっぱり、初めての狩りということで緊張していたせいか、矢を番える指が震えて狙いが定まらないわ、弦もまともに引けないわで、何度も見当外れの場所へ矢を飛ばして雪兎が逃げる、ということを繰り返しているうちに日が昇り、その日の狩りは終わりとなった。
親父は、帰り際の短い時間であっという間に2羽の雪兎を仕留めていて、改めて凄いなというのはあったけど、それ以上に「なんで自分はダメなんだ」という気持ちでいっぱいで落ち込んでしまった。
「生意気な」
親父が俺の頭を撫でながら言った。笑顔だったのが、少しムカついた。同じ日にテリーも狩りに行ったけど、俺と同じように獲物が取れなかったと聞いて、少しだけ心が軽くなった。その日から、俺とテリーはいつも以上に真剣に弓を練習した。そして、他の友達も、初めての狩りから帰ってきた日から弓への取り組み方が変わっていた。
それからも親父と狩りに出たり、他の大人たちと一緒に大勢で狩りに出たりしていたが、なかなか獲物を仕留めることが出来なかった。
俺達の中で最初に獲物を仕留めたのは、俺でもテリーでもなく、一番大人しいジョンだった。本人は「たまたまだよ、運が良かったのさ」なんて謙遜していたけど、いつもテリーの影に隠れていたからか、少し自慢げだった。悔しかったし焦りもあったけど、俺達の年齢でも狩りができるってことが証明できた気がして嬉しさのほうが勝っていた。その後、テリーも俺もやっと雪兎を仕留めることが出来てホッとした。
狩りにも慣れてきて、雪兎くらいなら何羽でも仕留める自信が出て、冬鳥も3回に1回は仕留めることが出来るように成った頃、春になりその年の狩りは終わりになった。
次の冬が来たとき、練習をサボっていたわけじゃないのだけど、最初の方は雪兎すら獲れなくて焦ったけど、何度も狩りに行く内に勘を取り戻したのか去年と同じくらいは獲物を狩れるようになっていたけど、越えることが出来ずにまた春が来た。テリーとジョンも同じような感じだったらしく、俺だけじゃないことにホッとしていた。
それから、3回くらい冬が来て、狩りに出かけ、草原から北の山に狩り場を移せるようなった頃、人生の転機が訪れた。
その年の冬、親父が死んだ。




