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タンザニアン・ガール  作者: 遠松 信盛


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出港3 彼女の予感

員集合時間が迫り、僕たちは200人収容できる大講堂に集合した。これが最初の全員集合でだ。初老の夫婦、インド人、白人、黒人、人種の坩堝とはこのことだろう。ミーティングは開始され、まず、キャプテンから船の針路についての説明を受ける。3時間前、横浜を出港して、シンガポールに向かって順調に航海中という。続いて、船旅のプログラムを統括するプログラム・オフィサーから今回のプログラムが紹介された。朝から夕方までは、ディスカッションを中心としたプログラムで、夜は、各国の文化紹介を含めたパーティが開催されるという。


ミーティングが終わり、解散して、皆が各々のキャビンに戻る中で、僕は視線を感じた。どこからだろう。一人の黒人女性だ。まるで、モデルのナオミ・キャンベルのような整った体、大きな瞳。その刺すような視線。たとえてみれば、幼いころ、僕は父親に連れられて歌舞伎を見ることがあった、そのとき父親が贔屓にしていた市川団十郎の“にらみ”がたとえるとしたら当てはまるかもしれない。僕はまるで金縛りにあったような気分だった。


彼女は誰だろう、気になりながらも、キャビンに戻った。


 翌日から、プログラムが開始された。僕は、異文化交流というプログラムに登録した。プログラムの目的は、様々な文化を持つ参加者が対話を通じて、お互いの理解をしようという内容だ。参加人数はおよそ20人程度、日本人が半分で、外人が半分、といったところ。もちろん、会話は英語だ。

 

まずはお互い自己紹介し、そこからテーマを設定し、毎日、対話を重ねて、最終日に発表会を開催するという流れだ。僕は人と議論することが大好きで、このプログラムを楽しみにしていた、だから、僕はこのプログラムに期待していた。


 自己紹介が終わって、何をテーマにするのか、を議論する段階になった。議論となると、当然、英語を母国語にしているアメリカ人が強い、僕をはじめとした日本人は言いたくても言えない。早口の英語についていくのに精いっぱいだ。結局、日本人は置き去りにして、アメリカ人を中心に議論のテーマが決まった。文明の対立をどう回避するか、がテーマだという。日本語であればもっといろいろ言えたはずなのに。僕は悔しくてしょうがなかった。


 午前の対話が終わり、午後になって、この状況が変わることはなかった。相変わらず、僕は蚊帳の外、一方的にアメリカ人を中心にディスカッションが進む。言いたくても言えない、何か言っても、言葉が続かない。かつて英語で研究発表した時は、基本的には1対1での会話。これだと何とかなる、でも、ネイティブが半分近くいるなかで、英語で議論をするのは、僕にとってハードルが高かった。


 うらぶれる、その時の僕の気持を表現するときに、これほど的確な言葉はないだろう。まわりに反対されながらも参加した船旅、新しい挑戦に期待に胸を膨らませたものの、結局、自分は何もできない。

自分がみじめでしょうがない。プログラムが終わっても、気持ちの切り替えができないまま、一人デッキにでて海を見つめる。同じ海でも、場所によって違う。日本近海は、青い海。それが今は淡くなりつつある。


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