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タンザニアン・ガール  作者: 遠松 信盛


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22/23

エピローグ1 それから

 彼女と別れてから、僕は下船手続きを完了させ、家路についた。そして、翌日、僕は何ごともなかったかのように大学に向かう。街の風景、人々の息遣い、何一つ変わっていない。それは研究室も同じだった。


 1か月前、僕があわてて論文提出した机が、1か月経っても、まったくそのままの状態だ。誰も僕の机を片付けるわけではないから、“そのまま”であるのは当たり前と言えば当たり前だ。しかし、僕には、船旅の1か月が、実は幻想ではないのかと、本気で思った。


 本当に、僕は、1か月間、船旅にでて、ハルやコージといった仲間と過ごしたり、さらには、彼女と過ごしたりしたのだろうか?それとも単に長い夢を見ていただけなのだろうか?現実を目の当たりにして、僕はわからなくなった。


 僕は1か月何をしてきたんだろう?


 少なくとも大学の研究生活という点では、何もしていない。船の時間とは何だったのか。僕は答を出せずにいた。


 それから数年後、僕は何とか無事に博士課程を修了し、民間の研究所で相変わらずネットワークの研究開発をしている。僕の身の回りで変わったことといえば、結婚して、子供が生まれたことだ。


 僕の女房多恵は、船旅が終わった翌年、新たに赴任してきた大学院の事務員だった。博士課程の大学院生と大学の事務員あるいは研究室の秘書が結婚するというのは、よくあることで、僕もその例外ではなかった。彼女は大学教授の二女で、大学で研究するとはどういうことか、よくわかっているので、とても気が楽だ。


 彼女と何気なく付き合うようになり、博士課程修了そして就職を機に結婚した。だから、大恋愛の末に結婚、というわけではない。そして、その翌年、娘の由子が生まれた。由子は、今年3歳、ようやく、言葉がわかってきたみたいだ。たしかに、給料もそれほど高くないし、世間からみたら普通の生活かもしれない。でも、僕はそんな平凡な生活に満足している。


 あの時の船旅の仲間とは、今でも何人かはたまに連絡をとっている。ハルは、今は、アメリカ支社で働いているし、コージは、彼女と結婚し、今は魚屋を継いでいる。でも、彼女とは、あの別れ以来、一切音沙汰がない。折にふれて、何度かタンザニアに訪問しようと思ったものの、結局、一度もその機会がないままだ。


そんなある日、研究所での仕事を終えて、家に戻ると大学からの転送封筒がダイニングテーブルの上に置いてあった。大学の研究室宛の手紙は定期的に転送してもらっていて、今回もそのたぐいだろう。ダイニングテーブル備え付けの椅子に座ると、夕食の支度をしていた多恵が


「あなた、おかえり。大学から手紙が来ていたわよ。」


「ありがとう、なんだろう?」



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