別れの日1 重い荷
あの夜から数日が過ぎた。もちろん、あの後から彼女とはあっていない。食事のタイミングなどですれ違うこともあったが、軽く会釈するくらいでぎこちなさが残る。正確にいえば、彼女が僕の視界のなかに入ると、途端に緊張が高まる。
僕は何をするにも上の空だった。対話プログラムも相変わらず続いているが、全く手につかない。
「どうすれば、いいのだろう?」
もともと、僕の蒔いた種だ。100%自分の責任であるのに、その原因に対して自分はどうしていいのかわからない。でも、これは自分で選んだ道だ。やはり、この選んだ道をいまさら引き返すわけにはいかない。でも、一人で抱えるには余りにも荷が重い。そんなときコージが脳裏に浮かんだ。コージと話したら、少しは楽になるかもしれない。ハルとはちがって彼の実直の性格なら、話すと少しは楽になるかもしれない。これが僕の限界だった。
まったく身の入らない対話プログラムが終了し、僕はキャビンに戻る。いつもなら、彼女と一緒に過ごすつかの間のひとときであったが、もうそれはできない。コージは、バンド活動をしていて、遅くまでバンドの練習をしている。そのせいか、コージがキャビンに戻ったのも、もう消灯時間が近いころだった。ちなみに、ジェームスはキャビンに戻っているが、こちらはヘッドフォンで音楽を聴くことに夢中そうだ。
「コージ、お疲れのところ悪いけど、ちょっと30分くらい話す時間あるか?」
コージはたしかに疲れてそうだったが、そうした表情を一切ださずに、
「タケシ、えらい深刻そうな顔しているぞ。なんかあったな。外で話そう。」
そうした僕たちは、自動販売機で各々ビールを買ってから、デッキにでる。まず、僕が切り出す。
「コージ、ここ数日、ある出来事を自分の心の中に封じ込んでいたんだけど、あまりにも荷が重くて、このままだと、精神的に参りそうなんだ。だから、ちょっとでもいいから、コージに聞いてほしい。」
「もちろん、大切なルームメートに何かあっては困るよ。それで、出来事って何?」
「ありがとう。僕は、この船に乗っているある女の子に恋をして、付き合っていたんだ。彼女の名前は、あえて出さないけど、とても魅力的で、家族思いで、一緒にいて、本当に楽しい。船を降りたあと、彼女と付き合って、いろんなところにいって、思い出を作って、やがて、結婚して、家庭を持てたら、どんなに楽しいか。僕たちは、将来一緒になろうって何度も約束していた。」
「へー、タケシ、やるなあ。お前は学者一筋で、こうした恋愛話なんて、まったく、縁がないと思っていたけど、なかなかやるじゃないか。」
「コージ、でも、これで話がおわったわけじゃないんだ。彼女は、タンザニア出身で、タンザニア出身の仲間内では、僕と彼女のことが話題になっている。しかも、タンザニアは世間が狭いらしくて、そういう噂はあっという間に広がるらしい。もしも、彼女が日本人の男と付き合っている、という噂を立てられれば、それもあっという間に広まる。そして、それによって、彼女がこれからの人生で-になるかもしれない。それがやるせなくて。だから、僕は彼女に行ったんだ、距離を置こうって」




