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タンザニアン・ガール  作者: 遠松 信盛


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暗転3 暗澹たる気持ち

「ハル、その情報は正しい。僕は彼女と付き合っている。別にやましいことは何もしていない。それだけだ。」


ハルはさらに喰いついてくる。


「タケシ、お前の気持ちはわかった。お前とは、大学時代から一緒にいて、お前の一途で頑固なところはよくわかっている。同じ気持ちを、今、お前は彼女に対してもっているのだろう。でも、これは覚えておけ。お前と彼女の話は、外国人参加者の間では、かなり広まっている。そして、彼女の立場で考えてみたら、どうだ。彼女はイスラム教徒で自由恋愛は原則的にありえない。そして、よりによって、お前のような日本人と付き合っている。彼女が直接いわなくても、彼女の友達が、帰国してから言いふらせば、彼女が傷つくことになるぞ。」


 あいかわらず、余計なことをいうヤツだが、彼の言い分にも一理あるものの、言い方にほどがある。


「ハル、お前の言ってることはわかる。じゃあ、どうすればいいのさ?もう、会うのをやめろっていうのか?」


ハルは答える。


「オレは、別に会うのをやめろといってない。でも、彼女にも配慮した方がいいんじゃないか、と言ってるのさ。オレはお前のこと応援してるぜ、じゃあな。」

 

僕たちは、周りの視線を気にして、会うことをやめなければいけないのか?僕は暗澹たる気持ちになった。僕は彼女を愛していると同時に、彼女の将来を心から案じている。それが、“日本人と付き合っている”ということで、彼女の将来をフイにすることは許されない。僕はどうすればいいんだろう?


 午後の対話プログラム中も僕の心は上の空だった。対話プログラムに集中できるはずがない。僕は彼女とこれからどう向かい合えばいいか、考えた。僕が彼女と会わないことが彼女にとって幸せなのか?それとも、彼女に対する愛を僕は貫き通すべく、彼女と一緒に過ごすべきか?


 もしも、彼女の将来を思い、僕が彼女を避けるようになれば、おそらく、彼女は、僕の豹変した態度に傷つくだろう。かといって、船旅の残り日数も限られている。船旅が終わった後も、僕は彼女を愛し続けることができるのか。


 僕は何が正解かわからなかった。でも、そのとき、思っていたのは、彼女が幸せになってほしいということ。それは、たとえ、僕との関係が途絶えても、彼女が幸せになってくれればそれでいい。彼女を心の底から愛しているからこそ、僕は彼女と距離を置くことにした。


 その日の夜、いつもの場所に彼女はいた。彼女は親しげに僕に話しかけてくる。


「今日、一日、私のこと考えてくれた?タケシ、愛してるわ。」


僕は心の中では、もちろん、彼女の言うとおりだ、でも、ここは、彼女を突き放さないといけない。


「今日は、一つ話があるんだ。君はタンザニア人、僕は日本人、もう少しで船旅が終わる。現実的に考えて、僕たちがこれから付き合って、結婚することは難しい。今は楽しいけど、将来、どうなるかわからない。それは君もわかっているだろう。だから、僕たちは距離を置いた方がいいと思うんだ。」


しばらく沈黙のうち、彼女は、大きな瞳から涙がとめどなく溢れてきた。


「なんで、なんで、そういうこと言うの?タケシ。私たちは愛し合っているのよ。距離をおくなんて、ひどい。」


「ごめん。。。」



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