連合帝国略史1
連合帝国略史 ――連合帝国開闢~魔族との開戦、戦車のいる戦争――
――連合帝国は7つの国から構成されている。建国当初はカリノヴェイル大陸中央のシルフィア王国、西の神聖ミルキリア王国、東のグランヴェール王国の3王国の連合から成り、これを指して「三ヶ国連合帝国(トリエストラスタ=インピアラティア)」と称した。
連合帝国歴70年には西の海を越えたマケトゥキア大陸のノストルキア公国・ミニトルキア公国・サストルキア公国の3公国(トリエトルキアとも呼ばれる)と北東の海を越えた島国であるイストイスラティア王国が平和裏に連合帝国に加わった。
連合帝国歴102年、魔法動力機関という小魔法なら容易に行使できる発動機が発明され、火に水に光にと利用されるようになり、国民の生活水準は急激に上昇した。
この世界の大気中には魔素や法素と呼ばれる一般には目に見えない物質が漂っており、それを消費して魔術や法術、魔法と呼ばれる超常の力が行使されてきた。
魔素は不安定ながら強力な力の源となり、主に攻撃的な魔術を使用するときに消費された。法素は弱いながらも様々なものを安定させる力があり、これを利用した法術は多くの人々を癒してきた。ほんの一握りの魔法使い達は、魔素と法素を練り合わせ、安定して強力な魔法を行使した。
ある1人の魔法使いが、容易に魔法を構成できる魔法術式と呼ばれる文章ベースの魔法行使法を編み出し、魔素と法素を自動で練り合わせて魔法術式に供給する『魔法動力機関』の試作品を開発したのがこの連合帝国歴102年の出来事であった。
さらに70年ほど後、連合帝国初の戦車が開発された。車体の正面に大型砲、車体側面に張り出した砲郭に副砲を搭載した8人乗りの原初の怪物は少数が生産され、一部は内乱の鎮圧に投入された記録が残っている。
連合帝国が建国されてから200年余り、奇跡的にも戦争がない時代が続いていた。しかし連合帝国歴208年、突如、平和は破られる。トリエトルキアのさらに西方より、魔族が侵入してきたのだ。『大雪崩』の時代の幕開けであった。
魔族の奇襲により、トリエトルキアは瞬く間に占領されてしまった。連合帝国海軍の展開も間に合わず、カリノヴェイル大陸・神聖ミルキリア王国の領土にも上陸を許した。連合帝国は開戦以来何の成果もあげられない状態が続いた――(訳注:『成果をあげられない』……後の世に言う『大敗北期』であるが、当時の連合帝国には『勝利・敗北』という概念が存在しなかった。この概念の導入には異世界からの騎士『タカサキ卿ハルマ』の登場を待つ必要があった)
トリエトルキアの西方は極寒であり、人族未踏の地であった。連合帝国も偵察隊を出そうとはしたものの、夏でも雪深いこの地域の奥深くまで侵入する術を持ち合わせていなかった。そもそも敵性勢力が存在しえないとさえ見なしていた。
また、魔族の存在は伝説上のものだと考えられており、直近1000年の歴史にはその存在に対する言及さえなかった。
そのため、連合帝国の西部国境の防備は最小限であり、突如大挙して襲来した魔族軍に対してなす術がなかったのである。
トリエトルキアの魔族軍が大量の強力な魔導戦車を投入していたことがトリエトルキアの早期陥落に拍車をかけた。
当時の連合帝国の騎士の装備は、基本的に刀剣や槍のような白兵戦装備に加え連射可能に改良した弩弓を中心にしていた。一部には火薬銃装備の者もおり、支援火力としての大砲や弩砲のようなものも存在していた。
一方で、よく装甲された戦車に対して有効な戦力は、対戦車槍や対戦車投擲槍のような、良く言えば比較的小型で取り回しの良い、悪く言えば火力に劣る武器を装備した特技騎士が少数存在するくらいであった。
対戦車装備が発達しなかったのには理由があった。
火薬・爆薬以前の騎士団では魔素・法素に依存した編成をしていた。騎士隊間の通信に使う通信機をはじめ、その他のツールでも魔素・法素は必要とされた。戦車のような大型兵器を動かす魔法動力機関は相当の大飯食らいで、大量の魔素・法素を消費した。そのような大型兵器に対抗するための大型装備もまた、大量の魔素・法素を消費するのである。
一方で、大気中の消費された魔素・法素はすぐに補充できなかった。ゆえに戦車のような大型兵器を大量投入することは戦場全体の魔素・法素不足を引き起こし、現実的ではないと考えられていたからである。兵器開発局も『戦場において特定の目的で1回しか使用できないかもしれない兵器』の開発に後ろ向きだった。
こういった事情から、パワーに勝る、重装甲な魔族の戦車に対抗できる重火器の開発は遅れていた。
そうして、連合帝国が魔族軍に対して反撃を開始するには約4年の月日を要したのである。――




