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クローネト・クローネタ! トリエストラスタ騎士物語  作者: フローランス
第0章

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救世主狩り

 戦車は戦場において、『戦闘』を『虐殺』とすることもある存在であった。トリエストラスタ連合帝国の技術者は、その存在の潜在能力に対する畏敬と、連合帝国の平和への祈りをもって『ミシア』(連合帝国の言葉で『救世主』という意味)と名付けた。


 長く続く平和の中で、『救世主』が活躍することはなく、その存在は忘れられるところであった。


 しかしそれは彼らに突如、敵として牙を向いたのである。



――カリノヴェイル大陸中西部・ある日の戦場にて


 生きとし生けるものをすべて包み込んで、丸ごと天国あるいは地獄へ連れて行かんとする意志さえ感じられる太陽の下、この日の戦いは始まった。


 魔族軍約2500騎と、連合帝国の騎士団<イリューラ>の司令騎士隊および麾下の騎士隊<イルバクドキア>、併せて2016騎。


 距離をとって睨み合う両軍。


 魔族軍が魔族語で短く喚き、歓声が上がる。


 対する騎士団<イリューラ>。前線部隊に混ざって騎乗している騎士団長が、『クローネト・クローネタ!』に始まる意味ありげな長い演説を行い、騎士たちは気勢を上げた。


 人族とほぼ同じ体型ながらも、肩口から腕まで、および腰から足までを堅い外皮に覆われた魔人族が、死を撒き散らすべく列を成す。シールドウォール陣形を組んだ魔族軍の前衛が、盾を剣や斧で叩きながら待ち受ける。後衛、魔族の短弓兵は散開して弓を放つ準備をしている。


 <イリューラ>麾下の騎士隊<イルバクドキア>所属の各騎士隊がそれぞれ<トラーナリア>という陣形を組んだ。この連合帝国の古典的な陣形では、6行5列の方陣を並べ、それぞれ前列は前方に、中列は上方に向かってがっちり盾を構え、後列は弩弓を構えて陣列の隙間から敵を狙う。騎士隊は陣列を維持したまま、魔族軍の陣形ににじり寄った。


 おお、晴れの日に突如発生した嵐のような投射武器の撃ち合い! やがて陣形の先端が接触して始まった、血で血を洗う白兵戦!


 前列の騎士の鋭い剣に貫かれながらも攻撃を続けようとする魔人族。これを後列の騎士が上から下に切って捨てた。その死体をあっさりと踏み越えて、別の魔人族が騎士に戦斧をふるう。


勢いで勝る魔族軍に対し、騎士団は規律によって対抗していた。


 戦いが始まってしばらくすると、<イリューラ>麾下の乗馬騎士隊<ラーヴァクドレア>および<ユーヴァクドレア>計952騎が左右翼より襲来する! 彼らは魔族軍後列を追い散らし、前列を包み囲んだ。


 包囲下に陥った魔族軍は、シールドウォール陣形を円陣に組み替えようとするも、次々討ち取られて、統制を失いはじめる。


 騎士団はこの白兵戦における大戦果を確信した。が、その次の瞬間、2本の極太の鉄の矢が戦場を横切る!


 魔族軍陣列の裏に入り込んだ乗馬騎士2名と、陣形の後方で待機していた騎士のうち2名が、紙を裂くかのごとくに裂かれ、吹き飛んだ。


 見よ、小高くなった丘の上に、石垣を組み合わせたように無骨な、魔族軍の重量級戦車が2両いるではないか! 魔道動力機関の出力により稼働し、車体左右端の無限軌道装置で大地を踏みしめ駆動する、鋼鉄の『救世主』。角ばった、背の高い砲塔は頬の部分を膨らませ、砲塔内に巨大な弩砲を搭載しているのをうかがわせた。砲塔正面には弩砲射撃用の、腕ほどの大きさの穴が開いている。穴の周囲には内部の弩砲を保護するため、ごく短い突起があり、鼻のようになっていた。


 戦場を変えるべく登場した魔族軍の『救世主』は、丘をゆっくり下りはじめる。


 2回、3回と続く弩砲攻撃に耐えかねた騎士団。彼らは戦果の拡大をあきらめ、後方の塹壕陣地への転進を決めた。


 魔族軍はこれを見るや息を吹き返し、塹壕へ逃げる騎士たちを追撃した。


 騎士たちを踏み潰さんとばかりに突進する『救世主』たち! 騎士陣列は大いに乱れ、散り散りになったのである。



 連合帝国の騎士というのは、国と民をその背に負い、盾となり矛となりて守るべしと定められた戦士であった。


 ハルデ・ヴォルテーラはそれを自らに宿命づけた連合帝国の対戦車騎士で、やや線の細い顔立ちをした、細身ながらも引き締まった体つきの美青年だった。


 しかし彼は今、自らにそう宿命づけたにもかかわらず、別の欲望を抱えて戦っていた。


 彼は戦場で、魔族の巨大『救世主』を探していた。父を殺したという、鋼鉄の悪魔をである。


「今日も、奴はいない、か……」


 あからさまな舌打ちをした。悲しみと苦しみ、恨みを晴らさせてくれない神を恨んだ。むやみやたらと照り付ける日光が、忌々しさを助長していた。


 深呼吸をして、平静を保とうとする。


 ハルデの隣にはいつも『マキ』というやや小柄な騎士が付き従っていて、彼をよく助けた。


 マキは舌打ちを聞いて眉を落としながら、自らの対戦車槍を撫でていた。対戦車槍は連合帝国で一般的に使われている対戦車装備で、柄が長めで、穂が短めの馬上槍のような見た目で、槍の穂先の中ほどから先を投射する兵器であった。柄の手前側の先端には、カウンターウェイトにもなり、装填操作にも使われる大きな石突きが備えられていた。


 ハルデは、自身と同じく対戦車騎士であった父の形見である、魔法の籠手を右手に獲物を探す。


 魔法無線機で報告を受けた通り、魔族軍の重量級戦車が2両、向かってくるのが見えた。幸い直協の魔族歩兵はいない。歩兵たちははるか向こうの塹壕で、<イルバクドキア>と泥沼を演じているようだった。


 塹壕を駆ける。周囲には第16対戦車騎士隊<ドゥラクニールスロア>の仲間たち。手で指示を出すと、指定通りの位置に散っていく。


 より後方の塹壕から、騎士隊<ウォルドレア>の騎士たちの弩弓射撃が行われた。統制された10本のボルトが、魔族軍の『救世主』を指向していた。牽制とも挑発ともとれるそれは、魔族軍の『救世主』の魔導障壁(バリアのようなもの)を輝かせるのみだった。『救世主』は速度を上げ、弩砲と防護魔導銃を撃ち返す。


 『救世主』は、塹壕陣地後方にある野営地の、野戦司令部の旗の下を目指しているようであった。野営地には物資が山積みになっており、これを喪失すれば騎士団は撤退せざるを得なくなる。


 防塵ゴーグルをしたハルデは、対戦車投擲槍を握りしめる。太くやや短い円錐形の穂の、これもまた一見馬上槍にも見える、全長2mほどの使い捨ての槍。それには目標を屠るための魔法術式と、連合帝国臣民からの騎士に対する長々とした応援メッセージが書かれていた。


 メッセージを指で撫でる。撫でると掠れるメッセージは、その身に溶けて行くように感じられた。


「聖ミルディールよ、我が双腕に連合帝国を守る力を与えたまえ……我が槍に仇敵を屠る力、殺す力、鏖殺する力を与えたまえ……」


 我らが英雄ハルデが、祖国の聖人に小さく祈りを捧げる。槍はわずかに光の反射を増したように思えた。聖人は彼を祝福した!


 塹壕の上、ハルデの左上方を『救世主』が勇んで通過していき、息ができなくなりそうな砂塵が舞う。


 周囲の状況を確認した後、塹壕の上に出る。


 『救世主』に向き直り、それを睨みつける。次の瞬間、『救世主』の進行方向の左方から飛来した対戦車槍の穂先が、『救世主』の魔導障壁を中和・貫通して『救世主』に命中、履帯を破壊した。ガラガラと音を立てながら脱落していく履帯。『とどめを刺せ』と身振りで示すマキ。


「マキ、いつもながらやってくれる」


 英雄は素早く投擲姿勢をとる。力のこもる右腕。煌めく魔法の籠手。仄白い光の粒子を発生させたそれは、そこに投擲補佐の魔法術式が発動したことを知らせる。


 大きく振りかぶって槍を投げる。魔法の支援を受けた槍。風切り音と眩い残像を残して飛翔したそれは『救世主』の上にその存在を翻らせた。


 槍は新たに魔法術式を展開、『救世主』の方に向きを変えた。獰猛な狩人は、『救世主』を仕留めにかかる。


 既に一度攻撃を受けた魔導障壁は、発動する暇さえなかった。『救世主』は分厚い金属の外殻を晒す。


 ああ、そして槍自身が仄白い粒子を発生させて加速し、力強く『救世主』の外殻を突き破った!


 『救世主』から噴出した七色の魔素が、狩りの成功を祝う!


 もう1両の『救世主』にも、2本の対戦車槍の穂先が飛来し、身動きできないように絡めとっていく。さらに上空に3本の対戦車投擲槍が飛翔し、行き先を『救世主』に向け、猛然と襲い掛かった。


 槍は次々と『救世主』の頭と背中に突き刺さった。『救世主』はしばらくもがいたが、やがて動かなくなった。


 控えていた騎士隊<ウォルドレア>から5名の騎士が剣を抜いて『救世主』の背に上り、ハッチをこじ開けて乗員を始末していく。魔族語の断末魔が2つ聞こえた。1人の魔人族が底面のハッチから這い出て、ハルデの脇をすり抜けて逃げようとする。ハルデはそれを追いかけて自らの直剣を抜き、シンプルに袈裟懸けにした後、3回、剣を突き入れて確実に止めを刺した。


 マキが<イリューラ>騎士団長に無線で、『救世主』を始末した旨を伝える。程なく、前線の騎士たちが秩序を取り戻し、反撃を開始するのが見えた。


「とりあえず、2つ……」


 塹壕に戻ると、替えの槍を手に取り、天を仰ぐ。


(この『救世主』に魂があるとすれば……父のもとに届いて、せめてもの慰めとならんことを)


 そう祈りつつ、ハルデはまた『救世主』を殺すために槍を投げるのである……

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