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クローネト・クローネタ! トリエストラスタ騎士物語  作者: フローランス
クリスマス用の話

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21/21

聖人の復活祭と松明と三日月

2025/12/25:外伝的に短編として別のところに置いておくかと思いながら、書いてみると中に組み込めそうだったので、組み込むこととします。ただ、前話と本話の間に数話入る予定です。クリスマス用として書いたので、クリスマスの終わらぬうちに何とか投稿しようと思い、今ここに投稿します。

 連合帝国歴211年晩冬、第4週。帝都<ユーレスユマニア>には、今年の寒さの最後の一息をすべて吐き出そうとしているかの如く、粉雪がゆらゆらと舞っていた。


 連合帝国の1週間は7日であり、4週間と、『月末節』と呼ばれる2日を加えた30日がひと月となる。各月はそれぞれ、早春(ハヴァル)中春(ミヴァル)晩春(エヴァル)などのように表現され、最後となる晩冬(エティンタ)までの12個の月があった。年始には5日(閏年には6日)ある正月節がある。正月節と12の月を合わせて365日、ないしは366日で1年を成すこととなっていた。


 読者の世界でいわゆる12月にあたるこの日には、神聖ミルキリア王国において、聖人たちが一時的に復活し、生者に祝福を授けると信じられている、聖人の復活祭(クラススベイラ)があった。この祭は、ミルキリア以外の他の地域ではさほど影響力がなかったが、帝都においてはごく一般的な祭りとして、他国民にも浸透し、祝われていた。


「マキ、『トルチドーン』という言葉を聞いたことがあるか?」


 ハルデが尋ねると、マキネカラビナは首を傾げた。


「なんすか、それ」


「騎士の間に伝わる競技の名前だ。球を蹴ったり投げたりしながら運んで、敵陣の一番奥の線の向こうの地面に置けば得点できる。制限時間が終わったときに、得点の多いほうの勝ちだ」


「なるほど」


「ちなみに、得点時の動作自体も『トルチドーン』と呼ぶ」


「ええっと……なんでそう呼ぶんすか?」


「昔々に、この競技が行われていた時は、火のついた松明を球の代わりに使っていたそうだ。それを目標地点にどーんと置くから『トルチドーン(松明どーん)』となったらしい」


 彼女はますます首を傾げた。


「そんな危険な競技を一体誰が広めたんです?」


「それは……『原初の魔女』様が広めた、という噂が一番有名だな。この世ならざる所より出でて、文明を与えて回ったという……」


「へー、あの伝説の。それだったらちょっと危険な競技なのもわかるかも。ウチの地元の言い伝えでは、結構無茶なことをたくさんして楽しんでいたといわれてるっすから」


「そうなのか? でもこの競技は最初は楕球形の球を使っていて、途中で松明を使うようになったという話だ。刺激を求めた地元の戦士が考え出したというんだが、後で危険だからと改めて形を変えたとか」


「あれ、そうなんすか? 変な話っすね」


「そうだな。今この競技で使っている球は、三日月型にひしゃげたものだ。この形が、球の跳ね返りを不規則なものにして、競技の複雑性と面白さに一役買っている、ということだ。これもまた噂程度なんだが、別の光るものを球に割り当てたかったとか」


「ハルも、その競技をするんですか?」


「たまにはな。今日は聖人の復活祭(クラススベイラ)だから、帝都の基地の騎士達がきっとそれを楽しんでいるはずだ。恒例行事だからな」


「わたしもやってみたいっす!」


「よし、行ってみるか」



 基地の広場には大勢の騎士達が集まっており、大きな囲いができていた。近づくと、声をかけられる。


「おっ、若いのが来たな。ルールはわかるか?」


「俺はわかりますが、こいつはまだ知りません」


「教えてもらってもいいっすか?」


「いいぞ。ええっとだな」


 ここでのトルチドーンでは、線を引く代わりに人が立っていた。中央線の代わりに2人、終端線の代わりに中央線を挟んで2人ずつ。漢字の「日」を横にしたような形でフィールドを形成しているのだ。彼らに加えて1人、合わせて7人が審判を務めているのである。


 プレイヤーは2チームに分かれた。自陣側からは前にも後ろにも、自由に球を投げることが許された。一方で、敵陣側に侵入すると、真横から後ろに向かってしか投げられないことになっていた。


 持ったまま走ることは許されており、一方で相手チームに体を触れられたら走れなくなる。タックルは、昔はあったようだが、今では禁止となっていた。球を持ち、走り、パスをしながら、敵陣側の終端線の向こうに運んで地面に置けば、『トルチドーン』として1点入るのである。


「残り5分くらいだが、誰かの代わりに入ってみるか?今、ちょうど同点なんだ」


「俺はまだ腕が本調子ではないが、やってみるか」


「うっす、頑張ります!」



 2人の騎士に代わって即席の競技場に入る。


 ボールの移動に合わせて前後に走っているだけでも、この競技が運動量の多いものであることが、いやでも分かった。


 今のところは敵チームが球を保持していた。後ろや左右にパスしながら、奪い取る隙を与えない。徐々に、自陣側に入りこまれていく。


 自陣のかなり奥まったところまで入り込まれたころ、マキネカラビナが動いた。敵チームが後ろ向きにパスした球を、奪いに行ったのである。


 彼女は成功した。しっかりと球を保持すると、とりあえずといった様子で敵陣側に向かって走り出す。


 敵はそれに反応して、敵陣地方向に戻っていく。ハルデは完全に自チームの進行に後れを取った。慌てて、中央線付近に向かって走り込む。


 マキネカラビナは球を保持し続けていたが、次第に囲まれ、身動きが取れなくなり、触れられてしまった。彼女は後ろを振り向く。そして2人は目が合った。


 ハルデは依然として中央線より自陣側にいた。マキネカラビナは彼に向かって、大声で名を呼びながら、球を投げたのである。


「ハルー!」


 球はハルデよりも手前でバウンドした。不規則な動きをするそれが、運よく、すんなりとハルデの手に収まる。マキネカラビナを見ると、彼女は敵が球に反応した隙を見て、さらに敵陣の奥深くに走り込んだ。それはまさに俊足としか言いようがなかった。


 ハルデは球を持ち直して、叫び返した。


「マキ、走れ!」


 そう叫んで、ハルデは球を投げた。まるで三日月を投擲したかのごとくに、ブーメラン様に回転しながら、球は飛んでいく。そして、終端線の手前で、マキネカラビナがそれをきれいに受け取った。それから、そのまま走り、終端線を越えた先でそれを地面に置いたのである。


 審判が叫ぶ。


「トルチドーンだ!1点!」


 会場は沸いた。彼らの極めて劇的なプレイを、皆が賞賛したのであった。



 その次の試合でも、30分ほど競技に興じた2人は、さすがに疲れて、他の騎士と選手交代して、輪の中に戻った。


「けっこう、面白かったっすね」


「ああ。意外と悪くないだろう」


「でも、長時間はちょっときついかも」


 その後も、時折競技に参加し、夕方になったら食事を皆で作り、夕飯も酒もしっかり頂いて、夜は更けていった。



「むにゃむにゃ」


 ハルデは酒に酔って、半分寝ているマキネカラビナに肩を貸しながら、家路についていた。


 左手を見る。握ってみる。動く、動く。肩を回す。腕を回す。曲げる、伸ばす……どれも、問題ないように思えた。


「ミルキリアの聖霊たちよ、我に祝福を授けてくださったことに感謝します……」


 おそらく、この時ほど聖霊に感謝したことはなかっただろう。ハルデは心底、自分が連合帝国人にして神聖ミルキリア王国人であり、聖霊を信仰していることを誇りに思った。



 後日、正月節が終わった後、ハルデが騎士団に復帰することが正式に決まった。

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