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クローネト・クローネタ! トリエストラスタ騎士物語  作者: フローランス
第3章

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帝都行き臨時列車第11便(2)

 動き出した列車。ガタン、ゴトン、と線路の切れ目で音が鳴り、その間隔は徐々に短くなっていった。間隔が一定になったころ、ハルデは改めてフォルキリエに声をかけた。


「それで、貴方の英雄になったとして、私は何をすればいいんですか」


 彼女は、硬い表情を解いて、答える。


「本当は、すぐに長期休暇を与えて差し上げたいのですが……1日休んだら、一旦、皇宮に上がってもらいます。そこで陛下に二つ名を賜り、それから演説を。そのあとは、体調を見ながら、わたくしと一緒にロビー活動に当たってもらいます」


「ロビー活動? 先ほど言っていた改革というやつのですか。どんな内容なんです?」


「戦力の拡充と、柔軟性の確保、戦場での敵味方識別の安定化など、いろいろあります。ただ、起き抜けの貴方には……先ほど、あのような話をした後でなんですが、きついと思いますので。また今度にしましょう」


「わかりました」


「さて、重要なお願いの話も済んだところで。お二人は、帝都ではどのように過ごされるおつもりですか?」


「どのように? そうですね、私は親戚の屋敷に逗留するつもりです」


 以前にハルデがマキネカラビナに語ったように、ヴォルテーラ家は帝都の屋敷を売り払って、同じく帝都に住んでいる親戚の家に世話になっていた。両家の関係は良好で、ハルデの母・ミュリエラは喜んでその屋敷に迎え入れられた。


「マキはどうするんだ」


「わたしは、どこかに宿を取るとか?」


「金は足りるのか?」


「それはぁ……アハハ……」


 マキネカラビナは頬をかいた。


「以前、家族は避難したと言っていたな。帝都に住んでいないのか?」


「住んでますけど、お父さ……父にはその、帰ってくるな、と」


 彼女は目を瞑って唸った。


「そうなのか。なぜだ?」


「それが、わたしはもう庶民じゃないから、って」


 確かに、義勇騎士は半ば『貴族』という扱いになっていた。そして、『庶民と貴族は住む世界が違うべきである』という、伝統的な考え方が、『庶民が貴族となったとき、家族のもとを離れなければならない』という考えにつながっていた。


「そう、か。そうだな。帰れないというなら、俺の逗留先に泊まってもいいと思うが」


 そう思いつきを口にすると、フォルキリエが口を挟んだ。


「未婚の女性を宿泊させるのですか?」


 貴族が未婚の女性を宿泊させる、というのは、使用人でもなければ、『愛人である』というようなものではあった。ただ、ハルデは今回は事情が違うと考えていた。


「しかし、騎士はよく、互いの家に泊まって親交を深めますよ」


 そう、マキネカラビナは義勇騎士であり、騎士としてのマナーが適用されると思ったのだ。


「ふーん。それはそうですね。わたくしも泊まりに行こうかしら」


 フォルキリエはそういって、楽しそうに笑った。


「それはさすがに、社交界にも間違ったメッセージを発信することになるのでは?」


 『あなたも未婚女性なのだが』と、ハルデは思った。彼女は二十歳を超えて未婚であり、もう婚姻を結ぶ気がないのであろうとさえ思っていた。辺境伯家は当主が後継者を指名する形式を取っていたため、弟や妹あたりの誰かを後継者に指名して、自分は騎士団の任務に専念するつもりなのだろう、と。


「あら。わたくしはヴォルテーラ家と親交を深めることに異存はありませんけれど。いずれ、わたくしが貴方を担いで色々と画策しているのは明らかになるのですから」


「確かに、それはそうなんでしょうが。ともかく、マキはどう思う、この話」


 そうやって水を向けると、彼女は目を煌めかせた。


「ハルが帝都で住むお屋敷、泊まってみたいです!」


「わかった。直前の連絡……どころか、突然の来訪ということになってしまうが、トクルウィーシエ伯爵なら許してくれるだろう」


 ハルデは、人当たりの良い、ちゃっかり者の再従兄を思う。彼の事業は上手くいっているはずだし、1人追加で泊めるくらいは造作もないだろう。


「決まりっすね。貴族のお屋敷、楽しみだなぁ」


 こういう時、不安などなさそうで、楽しみが勝るらしいところが、ハルデには少し羨ましかった。


「ふふ、仲が良くて微笑ましいことですね。こういうのを『相棒』というのかしら」


 フォルキリエがそう言って微笑む。先ほどまでの笑みとは異なり、本当に愉快そうな顔をしていた。


 マキネカラビナがそれを聞き、さらに目を輝かせる。


「相棒……! わかりますか、相棒のよさが! 実はちょっと辺境伯さまに聞いてみたいことがあって」


「ほう。なんですか?」


 彼女は、ハルデがコルナ村で話した『相棒の問題点』について話した。騎士団組織に相棒は危険なのか、と。


「どう思いますか? 相棒のせいで指揮がしづらいとか、ありますか?」


「なるほど、面白い考えですね。ただ、わたくしだったら……ちょっとお借りしますね」


 フォルキリエは、手の付けられていないグランカレ卿のお茶を、自分のところに引き寄せる。そして、ソーサーからカップを降ろした。


「では、このソーサーと、カップと、ソーサーとカップのセット、このセットのが相棒ということにしますが、それぞれ同じ数・編成の部隊とします。ある作戦で、1つの部隊が必要だとしたら、どれを出動させますか? なお、わたくしたちはそれぞれがどういう組み合わせかはあまりよく知らないものとします」


「えー、それって……どれでもいいんじゃ?」


「そうです。1つ部隊が必要なので、どれか1つを動かします。わたくしたちは、数と編成でどれくらいの任務に堪えるか判断するので、それが任務に堪えるとしたら、ソーサーでも、カップでも、セットでも構いません」


「じゃあ、相棒がいても……」


「気にしませんよ。相棒関係のおかげで戦力が向上して、戦闘後に割れたカップではなく欠けたカップになるくらいの話であれば、ちょっとお得だと思うくらいですね。補充するときも、このセットのカップが割れたら、適当に別のカップをあてがいますね」


 ほら! と言いたそうな目で、マキネカラビナはハルデを見た。


「わかった、わかった。ブレヴフェンシア卿がそういうなら、そうなんだろう」


「正式に相棒になってくれるっすよね」


「正式も何もないだろう、勝手に言っているだけなんだから」


「えへへ、相棒、あいぼーう」


 彼女はそうやって浮かれていた。


 ハルデが彼女を横目で見ていると、ふふっ、と右から声が聞こえた。


「あら、コヴィトが笑うのは珍しいですね?」


 見ていなかったからわからなかったが、グランカレ卿が笑ったらしかった。


「んんっ……微笑ましい、と思うことくらい、私にもあります」


 彼は咳ばらいをし、気まずそうな顔をした。



 途中、休憩および車両通過待ちのため、数回の停車を挟んで、列車は帝都<ユーレスユマニア>にある<ユーレスユマニア中央駅>の8番旅客プラットフォームに到着した。この駅は連合帝国の交通の中心であり、連合帝国全体へ延伸途中であった連合帝立(リエリア=)鉄道(インピアリル)の出発地点となるターミナル駅であった。


 現在これは、8の他都市行き旅客鉄道プラットフォームと、5の帝都内鉄道プラットフォーム、6の貨物鉄道プラットフォームを要し、各プラットフォームが歩道橋でつながっていた。


 駅舎は硝子を多く使った透明感のあるつくりで、夕方には多数の室内灯が、建物全体をまるで宝石をちりばめたかのように輝かせた。連合帝国標準軌鉄道の車両がひっきりなしに行き交い、連合帝国の発展の歴史を象徴してきた。


 騎士達は皆、駅のホームに降り、列を成した。その列の先頭から少し離れた位置に踏み台が置かれ、その上にフォルキリエが立ち、敬礼する。騎士達も敬礼を返した。


「では、みなさま、明後日(みょうごじつ)の凱旋式で会いましょう。解散!」


 彼女がそういうと、騎士たちは改めて敬礼し、そののちに各々帰路についた。

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