山の竜
2025/12/13:話の展開に問題が出ることがわかったため、後の話に書こうと思っていたことを本話に移動しました。
ハルデは自分の目を疑っていた。
「ま、マキ……?お、おい、今壁に吸い込まれていかなかったか!」
マキネカラビナが消えた壁に近づく。
「ヴォルテーラ卿、あまり近づいては!」
クラールがハルデの腕をつかんだ。
「本当に、何も気づかなかったんですか!」
「残念ながら、こんなに巧妙な隠蔽を見破れるものなど、居りはしません!」
壁には、例えばつなぎ目のような、目立つ違和感を何も感じなかった。それでも、ここにマキネカラビナを吸い込んだ何かがあるのだ。
「落ち着け、冷静になれ……」
不測の事態が発生し、混乱したまま決断を下すのは、下策中の下策だと習った。ハルデには、よりマシな決断を下して、部隊の被害を抑える責任があった。
「一旦、救援を呼ぶ。これは必須事項だ。クラール殿、小さい火を出せるといいましたね。それと魔法素の充填の両方、すぐに準備を」
ハルデは鞄から20センチメートルくらいの長さのピストル型の機器、|182式発煙発音弾投射機と同発煙発音弾を取り出し、付属品の耳栓をつけた。
クラールは言われるままに、両魔法陣術を発動させる。
「魔法素をここに、そしてこの導火線に火をつけたら、絶対に耳をふさいでください」
発煙発音弾の薬莢部に魔法素の光が灯り、導火線に火が付く。ハルデは投射機に発煙発音弾をセットし、クラールが自身から十分離れるのを確認する。そして天に向かって引き金を引いた。
薬莢部の術式魔法で弾頭が宙高く飛び上がる。40メートル上空で、弾頭は濃青色火薬由来の大量の煙と爆音を、空中に撒き散らした。
耳を抑えたクラールが、顔をしかめている。
ややあって、コルナ村の方で、同様の発煙発音弾が上がるのがわかった。
「これで<ガルデ・ディオ・コルナ>が救援を送ってくれるはずだ。次は……」
マキネカラビナを吸い込んだ壁を見つめる。
「まさか。ここで救援を待った方がよいのでは?」
「俺はマキを救援しなければなりません。手が動くうちは動かしていたい。それに」
「それに?」
「こんな壁があるくらいだ。この先に目標が必ずある、そうは思いませんか」
クラールは眼鏡を抑えてしばらく考え込む様子だったが、ややあって頷いた。
「そう、ですね……我々3人で、きっと見つけましょう」
周囲から木の枝を数本拾ってきて、1本を地面に突き立て、残りで壁の方に向けて矢印をつくる。運が良ければ救援部隊が気付くかも知れない。
そして、2人は壁に向かい、横並びに並んだ。
「合図をしたら、追いかけて来てください。では行きますよ、いいですね」
「はい」
ハルデは壁に手を振れる。少し力を込めると、壁に吸い込まれた。
体感10秒、目を瞑っていた。
「ぷはっ」「ひぁっ!」
ハルデは山肌を通り抜け、壁の向こう側に出た。ガシャン、と、金属同士がぶつかる音。マキネカラビナと思しき物体にぶつかり、転倒する。
「くっ…はぁ。マキ?」
「ハル、ですよね?」
「そうだ。すぐに退く……」
周囲を手探りしながら、マキネカラビナのいると思われるところから少し離れて、体勢を整える。
「ケガとか、息苦しいとかはないか?」
「大丈夫そうっす!」
「よし」
自分が通り抜けてきた方向を探ると、手にザリッとした岩肌の感触があった。そこに向けて、剣の柄頭を当て、トントントン、と3回音を鳴らすのを繰り返す。これが事前に打ち合わせた合図だった。
しばらくすると、右のほうでじゃりじゃりと音がして、そちらからクラールの声がした。
「ふぅ、どうやら無事に壁を通り抜けたようですね。2人とも、その辺にいますか?」
「こっちだ。クラール殿、先ほどの火を出すのをもう一度やってもらえるだろうか」
「少々お待ちを」
そう言って数秒、ふと火が灯り、あたりがうっすらと照らされた。ハルデはその明かりを元に自分の鞄からランタンを探り出した。
「ここに火をつけられますか?」
「お任せを……よし」
ランタンに火がともると、クラールは魔法術を解き、手の上に灯っていた小さな火が消えた。ハルデはランタンの火の大きさを調節して、やや大きめにする。ようやく一応の視界を確保して、心が落ち着いてきた。
「全員、体に異常は?」
「平気っす」「異常なさそうです」
「さて、これからどうするか、だが」
クラールは壁を触って盛んに何か調べている。
「どういう仕組みか、わかりますか」
「ん……少し待ってください」
待つ間に、装備に不具合が出ていないか、軽く確認した。問題なさそうだ。
「これは、岩の内側……岩と岩の間かもしれませんが、そこに魔法陣を仕込んだ仕組みのようですね」
そう教えてくれたクラールには、汗がにじんでいた。
「だ、大丈夫ですか?」
「これだけ巧妙に隠蔽を試みられた魔法素の流れを検知するには、体力を使うんですよ。でも、大丈夫」
「無理しないでください」
クラールは深呼吸して息を整える。
「しかし、これは素晴らしい。壁に接触した生物とその纏っている物を一纏まりにして、それだけを透過させる魔法陣術です。こういった術にありがちな『透過不純』、つまり、例えば食道に小石や泥が混ざったりするような現象も起こった様子はない。これくらいの精度の術を使えるのはそう……」
呼吸を忘れたような早口で、クラールは呟き続ける。
「やはり、聖ミルディールのものだと思われますか!」
「まさに! そうに違いありませんよ! さあ奥へ進みましょう! いざ、いざ!」
そう言っていきり立つクラールに、ハルデは待ったをかける。
「いや、まずはここから出る方法です。その壁の魔法陣は、外に出られるようにはなっていないんですか?」
「調べたところ、ここではない場所で、別の魔法陣を通じて制御する方式のようです。壁を破壊して、個々の魔法陣に直接接触できれば、書き換えられる可能性はありますが」
「現実的ではないな。制御しているところを探そう。きっとそれが我々の目標の魔法陣に違いない」
「この洞窟の中に目標があるとしたら、怪我の功名みたいな話になるんすかね!」
「そうかもしれない。慎重に奥に進もう」
洞窟は一本道で、緩やかに曲がりくねりつつ、奥に続いていた。再び、外を歩いた時と同じ並びで、3人は先を目指した。
やがて、曲がった先に、洞窟が急に広くなり、ぼんやりと明るい空洞にたどり着いた。
マキネカラビナが壁越しに空洞の中を覗き見、そして口を押えた。ハルデは小声で囁く。
「どうした」
「竜が、いるって……本当に……?」
マキネカラビナと入れ替わって空洞を覗き込む。地面に大きな魔法陣が、魔法素を吸って輝き、空洞を照らしている。
そして奥。見たことがなくても、物語上に語られるような、一目でわかる巨大な翼竜が、角が2本ついた頭と、両腕、両足、長い尻尾と、2枚の大きな翼を称える巨体のそれが、頭を下げて静かに座っていたのである。
「嘘だろう……」
「どれですか……うわ、これはさすがに……」
少し遅れて様子を見に来たクラールも、目を丸くした。
「あれは本当に竜ですか?何か別の、例えば石像とか」
「いや、わかりません。あれくらいの大きな生物になると、相応量の魔法素を放射するものですが、あれからはほとんど感じません。ただ、竜くらいの高度な生物になると、それを抑える能力がある可能性もあります」
「じゃあ全然判断がつかないということですか?」
「残念ながら」
注意深く空洞を見渡す。この先どうするべきか、判断する材料を探していく。
「床の魔法陣を調べるのに、どれくらい時間が掛かるかわかりますか?」
「本当は何時間でも欲しいところですが、最低限1時間くらいは」
「竜が動くとしたら、何とかして倒すしかないな」
右の壁を指差す。
「あそこの壁に、少し光っている石板があるな」
「おそらく操作盤でしょう。入ってきた壁の魔法陣も操作できるかもしれません」
「その操作って誰でもできますか?」
触ってみたいとでも言うような顔で、マキネカラビナが尋ねた。
「魔法使いでなければ無理かと」
彼女は思いついたという風に、人差し指を立てた。
「ひとっ走り行ってきて、空けてもらうっていうのは無理っすか?増援を呼べれば……」
「解読しないと操作できませんから、竜に背中からぱくり、なんてことになるのでは?」
そう言ってクラールは首を振る。
「ぐぬぬ……あっあれ」
マキネカラビナは竜を挟んだ向こう側を指す。
「洞窟の続きがあるみたいっすよ」
「すり抜けて奥に行くのは難しそうだな」
結局のところ、竜の動きがわからないことには、予測も立たなかった。3人は空洞に入る前に、休息を取る。
各々が鞄から食べる物を取り出して、口に運ぶ。ハルデはカンパーナをかじり、マキネカラビナはノスケメリという木の実(アクの少ないどんぐりのような実)を口に放る。クラールはジルバル(ジルと呼ばれる麦様の穀物で作ったパンのようなもの)をちぎった。
「最後の食事が、こんな暗い場所で食べる、カビかけたジルバルになるかもしれないとは」
そう、クラールは弱々しい声をあげる。
「戦う前に食べられるものがあってよかった、と考えては?」
ハルデはなんてことはないという風を装って、そう言った。
「逞しいですね」
クラールはむくれた。
「最悪、向こうの洞窟まで走って逃げてもらわねばなりません。食べ過ぎないように」
「どうせそんなに喉を通りませんよ」
「竜のことを知ってて、来たわけではないんですか」
「そんなことないだろうと思って参加したんですよ」
そうクラールは溜め息をつく。
せめてもの気晴らしにと思い、ハルデは彼にに小さな革袋を差し出した。
「これは?」
「サシュロン酒が入っています。気付け代わりに持ってきました」
「酒ですか……あまり好みではないんですが、いただきましょう」
クラールは酒を呷った。
「うぇっ、酸っぱい」
「もともと酸っぱいものですから。マキも要るか?」
「いただきます……うぇっ、酸っぱい。この間よりも酸っぱいっすよ」
「それはそうだろう……ん、もうないのか」
「あっごめんなさい」
「いいさ。俺は正気でいて、クラール殿を生還させる義務もある」
「わたしだって、そうっすよ」
「まるで1人前の台詞だな」
そう茶化しながら、確かに1人前として彼女を当てにしている、そう思った。
竜にどう対処するか、作戦会議を開いた。
「あれが本物の竜なら、炎を吐くでしょう。そしてその炎は体内にある油袋の油を火元にしていると考えられます。ですから、それが体についた時点で致命傷になります」
「本物じゃなかったら?」
「その場合は、火のついた魔法素の粉塵を撒くような形で再現をしている、というあたりかと思います。こちらも繊維の隙間などから入って火傷を起こす可能性があります」
「では完全に避けきらないと駄目か」
「盾だとどうです?」
「油であればしっかり受けきってから手放す、粉塵なら体が巻き込まれないように受けながら避けることになるでしょうね」
「粉塵なら2、3回くらい受けられそう、油なら1回きり、かなぁ」
「俺が盾を持って先発してもいいぞ」
「いや、それはわたしの仕事っす。隊長には隊長の責務があるっすから」
「うーん……今回はマキに任せよう。マキが先行して密かに侵入し、向こうの洞窟に進めないか確かめる。あれが動かなければ、調査続行、動いたら戦闘開始だ」
マキネカラビナが恐る恐る、空洞に侵入する。魔法陣に触れないように、広場を大回りに回る。中ほどに差し掛かるところで、それは動きだしたのだった。
ああ、物語をよく読まれる読者なら容易に想像がつくであろう! 岩のように静かだった竜が、唐突に両の翼を広げ、肩をいからせ、天井高く角を擦らせて咆哮するさまが! その咆哮は空洞をびりびりと揺らし、人々の鼓膜を破かんほどであって、3人の歩みを止めるには過剰なほどであった。
竜は、当然のごとく、目についた1人、マキネカラビナに狙いをつけた。
「マキ、走れ!」
ハルデにそう言われると、一瞬、自失していたらしい彼女は、さらに奥に向かって走り出した。それを追いかけて、竜の口から炎が撒き散らされたのである。
「マキを援護する。クラール殿は時期を見て向かいの洞窟へ渡ってくれ!」
肩越しに、そう叫ぶ。
「しかし、それでは2人は」
「民間人の命が優先だ!」
さらに言い放って、槍を左手に、右手に直剣を抜いて、広場に躍り出るハルデ。竜はひとしきりマキネカラビナに向かって炎を吐いた後で、新たに現れた小さな影を睥睨するのだった。
「ハル、炎は油を使っていません!」
「わかった!」
ハルデはマキネカラビナとは反対の方、竜の足元に走りこんでいく。
竜は腕を振り回して、足元を目指すハルデを薙ぎ払おうとした。しかし彼は頭を下げて素早く避け、走った速度をそのままに右足を切りつけた。
ザリッとした硬い感覚。剣は弾かれるが、表面に僅かに傷がついたのが見えた。剣の先についたものをちらりと見る。
「土、か……?」
竜が足を上げ、踏みつぶしにかかる! ハルデはそれをかわして、一旦距離を取った。
「クラール殿! 竜が土を纏っていることはあるのか!」
入ってきた方の洞窟にそう叫ぶと、大声が返ってくる。
「やはり、本物の竜ではないようですね! おそらく『土の傀儡』の一種なんです! 魔法晶石、加工されてない蓄魔法素器みたいなものが体のどこかにあるはずです、それを破壊すれば……!」
「マキ、竜のどこかにある魔法晶石を探してくれ! くっ」
再び竜の腕による攻撃。剣で軌道を逸らせるというより、自らが逸らされるような動きとなり、バランスを崩し、尻餅をついてしまう……
竜が腕を引き、頭を向けた。火炎が来る。しかしハルデは今だ立ち上がるには至らない。
「ハル、逃げて!」
竜を睨みつけ、死を覚悟する。しかし、死をもたらすはずの炎は、ハルデの体を少し温めただけであった。目を開くと、クラールが眼前に立ちはだかり、使い捨て魔法陣を使って、魔法障壁を展開していたのだ。彼の足は震えていた。
「クラール殿……!」
「体が動いてよかった。さぁ、立ってください」
ハルデは立ち上がる。魔法障壁の周りには火の粉が無数に舞っていた。
「魔法障壁が持てばいいんですがね! 最悪、途中でも外に!」
「了解!」
竜が炎を吹くのをやめた。同時に使い捨て魔法陣は力を失い、粉と消えた。
クラールは震える手で、もう1枚の使い捨て魔法陣を用意する。左手から魔法素が放たれ、魔法陣に魔法素が充填され始める。
竜は再びマキネカラビナに狙いを定め、尻尾を大きく振るったが、彼女は寸でのところでそれをかわした。
そしてクラールの使い捨て魔法陣から、炎が一筋、放射されるのである。
火炎放射は竜の胸の部分を焼いた。焼かれた表面がわずかに剥離し始める。
「こ、効果があるようですね!」
そう言って喜色をにじませたクラールのもとに、竜の腕が伸びる。貫かれる、そう思った次の瞬間、ハルデがクラールを突き飛ばした。
金属の鎧と、魔法で強化されているらしい硬い爪が、ぶつかる音。鎧の左胸の上の方を破られる。血がにじんでくる。痛い。痛いはずだが……脳が、これ以降の戦い以外のことを、すべて遮断していく。竜は腕をさらに突き入れようとしている。
そこに、目もくらむ速度で対戦車槍の穂先が飛んできた。穂先は竜の腕の一番細いところに命中し、打ち砕いた。腕の先が形を維持できなくなり、土くれに戻っていく。
直剣を捨て、左手から零れ落ちた槍を右手で拾う。マキネカラビナが喚く。
「胸のところ、光ってる!」
揺れる視界で竜の胸を捉えると、表面が剥がれ落ちた裏に、わずかに煌めくものを認めた。
左手が動かないながらも、完璧なフォームで、対戦車投擲槍を投げる。ああ、この風裂く音が、あなたにも届くだろうか! 槍は真っ直ぐ、およそ自らが外れるなどとは信じもせず、ただ一筋の綺麗な軌跡を辿り、竜の胸の煌めきを貫き去ったのである!
竜は再び口より火炎を発しようとする。しかしそれはわずかな吐息にとどまり、やがてその身のすべてが、ただの土くれになって崩れ去ったのであった。
この戦いもまた、詩人たちが好んで詠った事柄の一つであるが、その内容は詩人によって大きく異なる。後の世に詳しく伝えられなかった、伝説の闘い。どうやってこの難敵と戦ったのか、詩人たちは大いに創造の翼をはばたかせ、よく言えば壮麗に、悪く言えば好き勝手に詠ったのであろう。ただ一つ、すべての詩に共通して曰く、『彼は深く傷つきながらも偉大なる竜を打ち倒した』というのであった。
ハルデは『竜』が崩れ去るのを最後まで油断無く見つめていた。それから仲間達の無事を確認して、安心し、大きく息をついた。
「ふーっ……何とかなりましたね、ヴォルテーラ卿」
クラールは笑っていた。その笑顔から、自分達はやったのだと確信した。
マキネカラビナが何か喚きながら駆け寄ってくる。
「マキは、怪我はなさそうだな。よかった」
「ハルが、ハルが怪我してます! ゆっくり横になって……」
彼女がハルデの背に手を添え、ゆっくりと座らせ、横たえさせられる。
そうか、何か体が熱いと思ったら、怪我をしていたのか。
クラールが声を掛ける。マキネカラビナが左胸の傷口に、水筒から水をかけた。それから傷口を圧迫して止血を試みる。
まあ、なんとかしてくれるだろう。他人事のようにそう思いながら、ハルデは目を閉じた。
次に気がついたのは、テントの中だった。左胸がひどく痛む。少し視線を巡らせると、<ガルデ・ディオ・コルナ>の騎士団医が目にはいった。
騎士団医は騎士達には『先生』と呼ばれることがほとんどだった。騎士団医の服装はまちまちだったが、彼は汚れが目立つ白衣を着ており、騎士達からは珍しがられていた。そして、彼は『騎士団医』には珍しく、騎士ではなかった。
「気がついたか、ヴォルテーラ卿。痛いんだろうな、くそっ。こんなときに鎮痛剤を切らしているなんて」
先生はイライラした様子で、あたりを漁っていた。おそらく何か鎮痛剤の代わりになるものを探しているのだろう。鎮痛剤か。そういえば、父に何か教わったような……
「私がいつも料理していた場所の近くに、背の低い四つ葉の植物が生えています。数本……持ってきて頂ければ……」
「それが代わりになるっていうのか? 試してみよう」
先生は助手に、植物を持ってくるように言付けた。助手は慌ててテントを出て行った。
「ヴォルテーラ卿、今後の話をしておくよ。君をこれからミルカウ市に移送する。そこにはホリー……エルベット卿、いや、今はなんていうんだったか。とにかく、私が信頼する名医がいる。彼女の言うことに従いなさい。意味のわからない事を言われることもあるかも知れないが」
助手が植物を摘んで戻ってきて、騎士団医に手渡した。
「これをどうする?」
「口に咥えます……」
先生から一本受け取り、咥えてみせる。
「一気に何本もいかないように、足りないようなら……」
先生の忠告は、途中までしか聞こえなかった。咥えた植物が、見る見るうちに大きく、長くなった。
そして、あんなに痛かったはずなのに、ハルデはあっさりと意識を手放してしまった。




