ドラゴンランドを目指して
『黒猫ツバキと竜の女の子(童話風)』
( https://ncode.syosetu.com/n2754in/ )の前日譚です。
この話のみ、お読みくださっても、大丈夫です。
ここは、ボロノナーレ王国。
王様が居ます。魔法使いが居ます。ドラゴンが居ます。妖精が居ます。
皆さんが暮らしている場所とはちょっと違う世界にある、平和な国です。
ある日の朝、魔女コンデッサの住んでいるところへ、ドラ・ニャンニャンがひょっこりと訪ねてきました。
コンデッサは、15才。赤い髪をした、中学生です。まだ、正式な魔女では無く……見習いですね。
ドラ・ニャンニャンは、竜の女の子です。
〝竜〟と言っても、ドラゴンそのままの姿をしているわけではありません。
彼女の外見は、7~8才の人間の女の子と同じです。でも頭の両側にはそれぞれ大きな角が1本ずつ付いており、お尻からは太いシッポが生えています。
もちろん、飾りなんかではありませんよ! 彼女は人間では無いのです。なんと、ドラゴン族なんですよ。
年齢は何でも数千才だとか……スゴいですね!
もっともドラ・ニャンニャンの年齢については、彼女が自分でそのように口にして威張っているだけですから、本当のところは分かりません。
ドラ・ニャンニャンが来たのがいきなりだったので、コンデッサはビックリしました。
「おや? ドラニャじゃないか。急に、どうしたんだ?」
「コンデッサ! わたしの名前は〝ドラ・ニャンニャン〟です。勝手に、変なふうに省略しないでください」
「ごめんごめん」
怒ったドラ・ニャンニャンに、コンデッサは謝りました。
「あ~、えっと、ドラニャンマム。何か用事か?」
「今度は、間違った名前を呼んでいる……。実は、コンデッサにお願いがあって来たのです。わたしは、どうしても〝竜の秘宝〟を手に入れたいのです」
「竜の秘宝?」
「ハイ。つい先日、竜の秘宝がある場所が、分かったのです。わたしは、ドラゴン族です。〝竜の秘宝〟があると聞いて、黙っているわけにはいきません。ドラゴン族の誇りにかけて、これはぜったいに入手しなくては……わたしを助けてください、コンデッサ」
「ドラニャンコと私は、友だちだからな。もちろん、助けるのは構わないが……」
「友だちなら、名前を間違えないでください」
「それで、竜の秘宝がある場所とは?」
「知っていますか? コンデッサ。なんとボロノナーレ王国の南東部に最近、〝ドラゴンランド〟なるものが、突如として出現したのです」
「ドラゴンランド……」
コンデッサが、つぶやきます。
「ドラゴンランドはとても恐ろしいところで、その中には通り抜けるのが難しい、でも頑張って突破しなくちゃいけない地点が、たくさん設置してあるらしいのです」
「ふむ。〝難関〟とか〝試練〟とかいうヤツだな」
「そうです。その全てを乗り越えることが出来た勇者に、竜の秘宝は与えられるそうなのですよ。〝竜の秘宝〟……ぜひとも、欲しいんです!」
「興味深い話ではあるが……その情報、本当なのか?」
「間違いありません。これを見てください」
ドラ・ニャンニャンは、1枚の紙を取り出しました。
そこには、次のような文章が――
『このたびボロノナーレ王国にて、ドラゴンランドをオープンいたしました! いっぱい遊んで、いっぱい楽しもう! ワクワクの大冒険が、貴方を待っている! 全てのアトラクションを回った貴方には、特別に《竜の秘宝》をプレゼント! 頑張ってね♡』
コンデッサは、マジマジと文面を見つめました。
「……なぁ。ドラゴンランドって、テーマパークとかレジャー施設とか……そういうところなんじゃないのかな?」
「そんなはず無いです!」
ドラ・ニャンニャンは、大きな声を出しました。太いシッポがビタン! と地面を叩きます。
「だって、名前が〝ドラゴンランド〟なんですよ! ドラゴンランド……きっと圧倒的なまでに威厳に満ちた、それこそ居るだけで身が震えてしまうような、恐い雰囲気もあり、けれど神秘的で不思議な、美しい――そういう場所に違いありません。なんと言っても、偉大なる〝ドラゴン〟の〝ランド〟なんですからね!」
「いや、お前がドラゴンびいきなのは知っているが……いくら何でも、話を盛りすぎだろ」
「魔境で、秘境で、絶境です。決まっています!」
断言するドラ・ニャンニャンを眺めつつ、あきらめたようにコンデッサは溜息をつきました。
「分かったよ。それで、私は一緒に、このドラゴンランドへ行けば良いんだな?」
「そうです。よろしくお願いします」
ドラ・ニャンニャンはコンデッサへ、ペコリと頭を下げました。
「幸運なことに、ちょうど今日、私はヒマなんだ。さっそく、出発しよう」
「わ! そうなんですね。ありがとうございます」
コンデッサは、1本のホウキを手に取りました。コンデッサは魔女なので、ホウキに乗って空を飛べるのです。
コンデッサがホウキに横ずわりしていると、その隣にドラ・ニャンニャンも腰かけました。
「おい、ドラ・ニャンニャン。お前は、空を飛べるだろ? どうして、私のホウキに乗ってくるんだ?」
「確かにわたしは空中に浮かぶことが出来ますが、あんまり長いあいだ飛んでいると、疲れてしまうのです。ドラゴンランドは、遠いところにあります……ですから、コンデッサのホウキに、わたしも乗せてください」
「『助けてください、コンデッサ』とお前は頼んできたけど、もしかして、私を運搬係にするつもりで……」
「こまかいことは、良いじゃありませんか。レッツ・ゴーです!」
ドラ・ニャンニャンは、元気よく声を出します。
「やれやれ……ちゃっかりしているな、ドラ・ニャンニャンは」
コンデッサは苦笑いをして、それからフワッとホウキを浮かせました。
「うっ……重いな」
「コンデッサ! レディであるわたしに向かって『重い』と口にするなんて、失礼ですよ!」
「その太いシッポ、取り外せないのか? ドラニャンパス」
「出来るわけありません! あと、わたしの名前はドラ・ニャンニャンです!」
ドラ・ニャンニャンをホウキに乗せたコンデッサは、ドラゴンランドを目指し、南東へ向けて飛び続けます。その飛びかたは、かなりヨロヨロしていました。