おかず大戦争
「最後通牒、だと?」
「あぁ……」
「差出人は――やっぱり、肉じゃがの野郎か……」
「どうするんだ?」
「ほっとけ、と言いたい所だが、いい加減、決着着けねぇとな」
発端は、とんかつの元に届いた一通の手紙。
“揚げ物”と“煮物”、二大勢力をそれぞれトップに据え、おかず界の頂点を競い合い続けて来た両陣営の争いは、ついに全面戦争へと発展してしまう。
「ハムカツ、背中は預けるぞ」
「ふん……任せておけ。 お前の死角は俺が埋めてやるよ、メンチカツ」
「「さぁ、俺達のコンビネーションが、お前らに破れるか!?」」
時に、互いを認め合った者同士が力を合わせ――
「あんたの動き、縛らせてもらうわ! “干瓢ウィップ”!」
「ロールキャベツ!? やめろ! 俺は、お前とは戦いたく――」
「アタシだって……でも、しょうがないじゃない! 今のアタシ達は――敵同士なんだ……」
時に、心を通い合わせた者同士が敵として立ち塞がる――
そして――
「HAHAHA! いいカンジに潰し合ってくれてるな。 お陰で楽にすりつぶせそうだ!」
「なんだ、テメェらは!?」
「我々は外洋連合。 ――俺は総督のビーフストロガノフだ」
互いに死力を尽くしていた両陣営を、まとめて叩き、覇権を握ろうと迫る第三の勢力。
「ちぃ……仲違いしてる場合でもない……か。 おい、肉じゃが!」
「えぇ……一時休戦ですね。 私達のシマで、でかい顔はさせられん」
共通の敵に対して、いがみ合っていた両者が、手を取り合って立ち向かう。
「弱い! 弱いDeathよ! この程度のおかず値で、我々に歯向かおうとは――」
「くそっ――あのローストビーフとか言うやつ……強すぎる」
強大な敵。
次々と敗れ、倒れていく仲間達。
そんな中――
「メンチ……ハム……コロッケ……みんな……俺に、俺に力を貸してくれ!」
――傷つき倒れた戦友達の意思を胸に、熱き油の力で自らの心を再燃させたとんかつが、外洋連合総督、ビーフストロガノフへと肉薄する。
「お? 少しはマシな面構えになったな! だが! その程度のおかず値では、まだまだ我々連合には――」
「うるせぇ! 俺のおかず値は、俺だけのもんじゃねぇ! みんな――みんなの……みんなの魂が、籠ってるんだぁぁぁぁ!」
「――っなんだ!? この圧倒的な肉汁は!? ……お、おかず値が――上がっていくだと!?」
死闘の末、ついにビーフストロガノフ総督を打ち倒したとんかつは、彼の口から衝撃の事実を聞かされる――
「たとえ、ここで俺が敗れても、第二第三の連合軍が、お前達を必ず叩き潰すだろう。 ブーダンノワール大佐や、Mr.ケバブは、俺のように甘くは無いぞ」
「――この国のおかずを担うのは俺達だ! 誰が来ようと、負けはしない!」
「――ふん……せいぜい、牙を研いでおくんだ、な……」
ビーフストロガノフ総督が語った、新たなる敵の存在に、とんかつは国内のおかず力を結集し、共に脅威を払う事を決意する。
これまでに幾度と無くぶつかり合った両者だからこそ、誰よりも互いの事を理解している――
手を取り合える――
お互いに背中を任せられると――“信じて”。
「まずは、煮物達との協力体制を築く」
「素直に協力しますかね?」
「大丈夫さ……この国の、おかずを担うのは俺達なんだ。 外からやってきた奴らに、早々好きにはさせんさ」
そう――
「アイツらとの決着は、この戦いが終わった後でいい。 アイツ――肉じゃがも、きっと同じ様に考えてるさ」
とんかつ達の戦いは、まだ、始まったばかりなのである……。
「――と言う内容で、小説を書こうと思ってるんだけど、どう思う?」
「――ぇ……いや、まじ? ホンキで?」
友人に対し、自信満々でネタを書き綴ったノートを見せたのだが……
はて?
なんか変な反応じゃない?
「……えっと……面白く、ないか?」
「あ、いや、面白いか面白くないかで言えば、個人的には面白いと思うんだけど……」
じゃあいったい何が――
「――“おかず大戦争”って……こんなもん思い付くお前の頭ん中、いったいどうなってんの?」
「どうって……日々、おかず達が“今日の食卓”を目指して戦ってるが?」
「なんと言うカオス……」
酷い言われようだ――
でも、どちらにしても、面白いと思ってくれたなら、書くしかないだろう!
俺はやるぜ!
とんかつと肉じゃがが手を取り合って、共に食卓を飾る未来のために!
行け、とんかつ。
負けるな、とんかつ!
この国の健やかな食事は、お前達の肩にかかっているのだ!
余談ではあるが、この作品。
この後、実に一年半の月日を費やし、数多の戦士達の血と涙、努力と友情が描かれていく事になる。
そして最後には――
おかず達の戦いによって目覚めてしまった“究極のおかずを騙る《邪神》カレー・ルゥ”に対し、おかず達が国境を超えて互いを認め合い、力を合わせた事で“A5和牛ステーキ神”が降臨。
その迸る肉汁とおかず力によって、邪神を封印する。
そして世界には、束の間の平穏が訪れる事になるのだが、それはまた別の話――