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男爵家の次は公爵家なんてもううんざり‼ 4

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「禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ禿げろ……」


 ジルベールに拉致されて、部屋に監禁されて三日。

 セレアは呪いの言葉を吐いていた。

 セレアが逃げることを警戒しているジルベールは、彼の許可なくセレアが部屋から出れないように部屋の外に見張りを置いた。

 そして専属メイドと言う名の監視役も用意したのである。


 ――結婚したら君専用の侍女を雇うつもりだが、しばらくは我が家のメイドで我慢してくれ。


 そう言って連れてこられたのは、セレアより一つ年上の、ニナと言う名前の優しくて少し怖がりなメイドだった。薄茶色の髪にオレンジ色の瞳の可愛らしい感じの女性である。

 ずっと部屋に閉じ込められていて退屈なセレアは、ニナに頼んで針と糸と布を用意してもらった。退屈しのぎにそれらを使ってジルベールそっくりな人形を作ると、暇さえあればそれに向かって呪いの言葉を吐いているのである。


「……おい、何をしている」

「あんたが将来つるっぱげになるようにお祈りしてるのよ」

「それはお祈りとは言わないだろうが!」


 様子を見に来たジルベールが、人形を握り締めて呪いを吐いているセレアにひくっと口元を引きつらせた。


「だいたい、そんなことをして何になる。君は馬鹿なのか?」

「なんになる? こうでもしていないと苛立ちとストレスで頭がおかしくなりそうなのよ! そのうちこの人形の首を首ちょんぱしてやる……」

「やめろ! 気分が悪い!」


 ジルベールはどうやらこの人形が自分を模して造られたものだと理解しているようだ。

 セレアの手から人形を奪い取ると、さっとニナに手渡して、彼の部屋に運ぶように言う。


「ちょっと返してよ!」

「断る! 薄気味悪いものを作りやがって!」

「あんた自身が首ちょんぱさせてくれるなら作らなかったわよ!」

「させるはずないだろう、やっぱり君は馬鹿なのか?」


 この三日と言うもの、いつもこの調子だ。顔を見れば口論になる。ジルベールも腹が立つだろうに、何故セレアを解放してくれないのだろう。いやもちろん理由はわかっているが、そうまでして聖女と言う存在を手に入れたいのだろうか。

 腹が立ったセレアは、ツーンと顎をそらしてソファにどかりと座りなおした。

 当たり前のような顔で隣に座るジルベールがムカつく。


「足りないものはないか?」

「自由が足りないわ」

「それは却下だ。そんなものを与えたらお前はすぐに逃げ出そうとするからな」


 もちろんそれを狙っていたので、セレアはむっつりと黙り込んだ。

 求婚しておきながら部屋に監禁したジルベールは、一応、自由以外ならばセレアを不自由させる気はないらしい。

 セレアに与えられたこの部屋の中には、その日のうちにたくさんのドレスや化粧品が運び込まれた。続きのバスルームにはいい香りのシャボンやバスオイルが。本棚には女性が好みそうな恋愛小説の類が。花瓶に生けられている花は毎日新しいものに取り換えられて、三食の食事以外にティータイムの時間まで設けられている。お菓子やお茶も食べ放題に飲み放題。しかも見たこともないような高そうなお菓子やお茶ばかりだ。


(さすがお金持ちよね……)


 デュフール男爵家も貴族だったが、あそこは借金取りに追われていて金がない。それでも義母はできる限り贅沢に暮らしていたようだったが、ジルベールが用意したような高級品には手が出せるはずもなく、セレアは目にしたこともなかった。まあ、もっとも見る機会があっても、絶対にセレアには与えられなかったので、どっちにしろ関係ないのだが。

 さっき取り上げられたお手製ジルベール人形に使った布も、人形に使うなんてもったいなさすぎる高級品だった。人の金なので、セレアはもちろん気にしなかったけれど。

 これで、この男の目的が「聖女を手に入れること」ではなくて、セレアへの好意で求婚してきたのならば、ちょっと揺れたかもしれない。だって、デュフール男爵家と違って、ここにはセレアをいびって楽しむ人間はいないし、贅沢三昧もできる。閉じ込められていることを除けば悠々自適な快適生活が送れているからだ。


(まあ、でもわたしは、元の生活の方がいいけどね)


 早く、市井のあの家に帰りたい。

 貧乏でも、忙しくても、それでもあの自由を取り戻したかった。


「今日の昼は仕事で城に行ってくる。夜には戻るが、昼食は一緒に食べられないからこの部屋で一人で食べてくれ」

「別に毎食一緒に食べてほしいって頼んでないけど?」


 ジルベールとの食事のときはこの部屋からダイニングに移動できるので気晴らしにはなるが、セレアを閉じ込めた諸悪の根源と顔を突き合わせて食事をしたいとはこれっぽっちも思っていない。

 嫌味たっぷりで返すと、ジルベールは肩をすくめた。


「夫が妻と一緒に食事を取りたいと思うのは普通のことだ」

「妻じゃないし‼」


 勝手に妻にしないでほしい。了承もしていなければ、そんな未来が訪れる可能性は、セレアの中では皆無なのだ。

 しかしジルベールはセレアの怒りをさらりとかわして立ち上がった。


「では行ってくる。見送りのキスは――」

「キスのかわりに首なら絞めてあげるけど?」

「いや、結構。いい子で待っていろよ」


 ジルベールはぽんとセレアの頭に手を置くと、そのまま急ぎ足で部屋を出て行った。


(急いでるならいちいち来なきゃいいのに!)


 あの男は暇さえあればセレアの様子を見に来るのだ。


「ニナ、新しい布をちょうだい」

「何をするんですか?」


 人形を、ジルベールの指示通りに彼の部屋に運んで戻って来たニナが、不思議そうに首をひねる。


「何って、決まってるでしょ。取り上げられたからまた新しいのを作るのよ!」


 すると、ニナはくすくすと笑いだした。


「まあ、奥様は旦那様がいなくて寂しいんですね」

(どうしてそうなるの⁉ それに奥様じゃないし‼)


 ニナはおっとりと優しいけれど、たまにちょっとずれている。

 ニナが用意してくれた新しい布を裁断しながら、セレアはむすっとした顔で窓と、それからその奥の青空を睨んだ。


(見てなさいよ! 絶対に絶対に、逃げ出してやるんだから‼)


 自由を諦めきれないセレアは、今日も虎視眈々と、訪れないチャンスを待っていた。






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