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俺様公爵様は平民上がりの男爵令嬢にご執心  作者: 狭山ひびき


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力の限界 1

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「セレア⁉」


 それは、突然だった。

 レマディエ公爵領の最後の瘴気溜まりを浄化して邸の玄関をくぐった直後、隣を歩いていたはずのセレアの体がぐらりと傾いだのだ。

 セレアの体が床に激突する前に抱き留めたジルベールは、彼女が青白い顔で意識を失っているのを見て蒼白になった。


「医者を! 医者を呼んで来い‼ 急げ‼」


 セレアとジルベールを出迎えるために玄関に顔を出していたロメーヌが、ジルベール同様に蒼白になって駆け寄ってくる。


「ジルベール、セレアちゃんは……」


 領地に来て一か月と少し。

 その間にすっかり打ち解けたロメーヌとセレアは、互いに「お義母様」「セレアちゃん」と呼び合う仲だ。


「とにかく部屋に運びましょう。ここに寝かせるわけにもいきません」


 モルガンと数人の使用人が医者を呼ぶために駆けだしていったので、じきに近所に住んでいる医者がやってくるだろう。

 ジルベールは慎重にセレアを抱き上げると、二人で使っている二階の部屋にセレアを運ぶ。

 ロメーヌも後ろをついてきて、ベッドに横たえたセレアの顔を心配そうにのぞき込んで、そっと額に手を伸ばす。


「熱があるわ。それも、高そうよ」

「冷やしたほうがいいですよね」


 ジルベールはニナにタオルを濡らして持ってくるように頼んだ。

 ニナが慌てて部屋を飛び出して行く。


(でも、さっきまで元気そうだったのに……)


 倒れるにしても、熱を出すにしても突然すぎると、ジルベールの胸に不安が渦を巻く。

 ニナが持って来たタオルをセレアの額に置いて、ベッドの縁に腰かけて彼女の手を握り締めていると、近くに住んでいる顔なじみの医師のドニがやって来た。彼は医者であると同時に治癒術に特化した魔術師でもある。


「先生、セレアちゃんはどうですか?」


 セレアの脈を測っているドニに、ロメールが不安そうな顔で訊ねる。

 ドニは脈を測ったあとで、セレアの瞼を上げて目の状態を確認し、熱を測って、そのあとでセレアの手を取って彼女の体に軽く魔力を流した。

 そして考え込むようなそぶりをしてから顔を上げる。


「私も詳しいわけではないですが、おそらく力の使いすぎかと思われます」

「力の使いすぎ?」

「ええ。魔術師が魔力切れを起こしたときの症状に似ているんです。ただ、聖女を診察したのははじめてなので、おそらくとしか言えません」

「力の使い過ぎだった場合、セレアはどうなる?」

「安静にしていればじきに治ると思います」

「そうか……」


 力の使い過ぎと言われれば、もちろん心当たりはある。

 何故ならセレアはこの一か月で、三か所の大きな瘴気溜まりをすべて浄化したのだ。それだけではない。騎士や魔術師の負担を減らすべく、騎士たちが手間取るほどの強大な魔物を浄化して回ったのである。


(平気そうな顔をしていたから気がつかなかった……)


 聖女の力は無限ではないと、知っていたのに。

 聖女を酷使し死なせた例があると、知っていたのに。

 元気そうだから大丈夫だと、楽観視していた。


「熱が下がるまでは安静に。それから、動けるようになった後でもいいので、可能であれば聖女を診たことがある医者に診せたほうがいいと思います」


 ドニが「念のため栄養剤だけ出しておきますね」と液状の薬の入った瓶をニナに手渡す。

 何かあったら連絡してほしいと言ってドニが去ると、ジルベールはそっとセレアの頬を撫でる。


(無理させたんだな……)


 セレアのおかげで、領地の瘴気溜まりはすべてなくなった。限界まで彼女はこの領地のため、ここに住む人々のために頑張ってくれたのだ。

 聖女を診た経験のある医者ならば、ジルベールは王都で一人だけ知っている。城の侍医頭だ。セレアが回復したら、王都に戻って、国王に頼んで侍医頭の診察を受けさせた方がいいだろう。


「セレア……」


 セレアを攫ったのは、レマディエ公爵領の瘴気溜まりを浄化してほしかったからだった。

 けれども――こんなつもりではなかったのだ。


(無理させて、ごめん……)


 ジルベールはそっと、目を伏せた。






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