3. 社長の谷川さん
よろしくお願いします。
本社との契約上の都合もあって、最初の出勤は、来週の月曜日からとなった。
採用されてもすぐには働けないらしく、初出勤時に提出する雇用契約書、給与振込登録申請用紙、労働条件通知書などといった書類を貰った。
また、自分で準備する書類一覧とその注意事項が書かれたA4用紙を貰ったのだが、健康診断書や住民票記載事項証明書と一緒に履歴書も書かれていた。
履歴書の注意書き部分には、しっかりと「面接時に必ず店舗に提出すること」と赤字で書かれていた。
これらの書類は、面接終了後に、採用が決定したことを電話で聞いた岸辺店の店長兼社長でもある谷川さんが持ってきてくれたのだ。
谷川さんは、目のきりっとした、少し面長の背の高い人で、肌は白く、黒縁のメガネをかけている。
谷川さんは、僕に気づくと、軽く自己紹介をしてくれた後、これからよろしくと言って丁寧に深く会釈までしてくれたので、俺も慌てて会釈をした。
谷川さんは、岸辺店を一旦閉めて来てくれたらしい。
そもそも、たこ焼き屋太陽は、遠藤さんと谷川さんの二人で二十年前に開業し、これまで従業員もアルバイトも雇ったことがなかったが、遠藤さんが突然、アルバイトの募集をしたいといいだしたことが募集のきっかけらしい。
全くの正反対の性格の2人がどういう経緯で一緒に開業を決めたのかは、非常に気になる。
谷川さんは、もともと大手の銀行マンだったらしく、非常にてきぱきと書類の説明をしてくれた。
遠藤さんは、たぶん、ほとんど理解できなかったらしく、首をかしげてなぜかニヤニヤしていた。
必要書類である履歴書の欄に話が移り、履歴書の提出を頼まれたので、机に放りだして置いてある履歴書をクリアファイルに挟んで提出した。
横目で履歴書なんて持ってこなくてええねん!と言い放った張本人である遠藤さんを見ると、腕を組んで真面目な顔で「分かってましたよ」と得意げな顔をしていたので、少し腹が立った。
書類の説明を聞き終わり、お礼を言って店を出た。
遠藤さんとはこれからよろしくな!と言って、握手をして別れた。
谷川さんは、これまた丁寧に会釈してくれた後、急いで岸辺店の方へ原付に乗って帰っていった。
時刻はすでに11時を過ぎていた。
僕は、午後の授業を受けるために、来た道を引き返して、駅へと向かった。
読んでいただきありがとうございました。