依頼
ーームスは家に戻って父親に軽く事情を話すーー
2人は家にある作業場、金属の扉がある部屋にいた。
部屋の中は金属を研磨するベルトが数台ある。その左側には布や綿、糸を使う作業スペース。そのすぐ後ろには水が張ってある深さがない箱と、少し大きく水が張ってあり、深さがある箱。さらに前方には大きな棚があり、魔法が込められた球が大量に収納され、あらゆる工具、裁縫箱や石のカットや加工につかう魔針、後は刺繍枠、設計図やスケッチに使う紙等がある。この部屋の一番奥にはでかい金庫がある。
「ふむ。事情は理解した。ムス、何がいる?揃えた方がいいだろう」
ペディロは話を聞いて頷き、重要な物だと理解したので、預かった材料を全て金庫、背景の壁と同化する色に塗られたのにしまう。
「彫るのに、かなり細いのじゃないと模様が潰れて駄目だから、先に修理にだしてた一番細い魔針をとりにいく。真っ先に使うのが結婚指輪になるとは思わなかったけど。他は、空間に収納して住みやすくするのはいいけど、お花畑にするみたいだから、聖水に浸したい。流石に聖水に浸してないだろうし、、。先に花を発芽して時間を止める魔法をかけたほうがいいのか悩んでるところ」
「花は育てたことがないから、錬金術士か生花店にきいた方がいいかもしれないな。花の種で種類がわかるかもしれないし、奇麗に花がさく方法があるかもしれん。背丈まで固定できたら、したいのだろう?なら、発芽させてからにしよう。できれば、生花店の人に任せるのもいいかもしれない。土と種をとりあえず、見せてみよう」
「うーん、やっぱりそうなるかぁ。結婚指輪の入れ物いるから魔針を取りに行くついでに皮はベルベットで作ってもらうつもりだけど、中はやっぱり刺繍してレース詰めたいから糸が大量にいるなぁ」
入れ物も綺麗で可愛くて、素敵と言ってもらえないと嫌だ。
ムスは何処までも職人だった。
「ーーそこまですると2ヶ月かかるぞ、ムス。納期は半年ぐらいか?」
「多分。今年中だから今は春だから、秋に発表だったはず。四ヶ月ぐらいで造らないとアウトかなぁ」
(品物の出来も見せなければいけない。少し急がないといけない。
納期を考えると違う物を造っていたらやばい。魔法を石に込めるのは一日で終るが、魔法を馴染ませながら彫る時間と花と土がある。彫るのは一ヶ月かかりそう。魔法連動調整に二週間だから、うーん、やばいなぁー。徹夜するかなぁー)
ムスが悶々と悩んでいると
「ーースケジュールがカツカツだから、魔工品は急ぎのものはなかったはずだ。指名以外は私が造ろう。店の方は多忙につきで商品を減らす。いいな」
ペディロから容赦ない現実を突きつけられる。
「ううーー。減らしたくないーー。アクセサリーがぁ」
「諦めろ。早く造れる品物じゃない。全力を注がないとあれは失礼になる。見るからに魔力も一級品だ。恐らく、種も土もだろう。寝不足は質が落ちる。流石にあれは私に手が出せない」
「はい。ワカリマシタ」
(そうなんだけど。それが現実なんだけど、うさぎのアクセサリー好評なのに、作れないなんてー)
ムスは肩を落とす。
「すぐに行動するぞ。お得意先に手紙は出しておく。王室からの依頼だ、貴族は文句を言わないだろう。幸い、指名魔工品の注文はない。無茶を言う人はいないはずだから、大丈夫。早く種と土を見せに行ってこい。速達郵便も出して魔針を明日に取りに行くことは出しておこう。《空間魔法》(テレポート)で飛ばしてやる。帰りは徒歩で帰ってこい」
(すごい大盤振る舞いだー。父は滅多に使わないのに飛ばしてくれるなんて。納期がやばいからだろうなぁ)
父親の発言に頷く。
「まず、倉庫からプラチナリングとエメラルドを聖水液につける。3日間でいいかな。工具もつけるから、裁縫箱と魔針全部と革用の針とレース針一式。買ってきた糸も入れて、終わったら聖水を代えないと」
「それは全部しとくから、早く土と種を聞きにいけ。買い物もしてこい。財布だ。下準備はしておく。糸は何を買うつもりだ」
「七色の絹糸に光沢入り。レースを編む。後は空色の絹糸。彼女の目の色。ベルベットによく合うからこれで、箱に刺繍する」
聖水につけるものをムスは全て出した。結構な量だ。
ペディロは代わりに金庫から財布が入ったバッグをムスに渡す。
「わかった。聖水も予約しておいて時間ある時に壺いっぱいにもらっておけ。ーー終わるのかそれ」
「終わらせる。魔法込めないやつは徹夜しても間に合う。うん、いける!」
(どんな柄にしようかなぁー。花がいいかなぁ。中を花にするから、箱は風になびくツルと蕾にして縫うといいかな!)
嬉しそうに頭の中に図面を描く。ムスは夢中で全く外にいく気配がない。変なスイッチが入ってしまったらしい。
「あーー。もう、何も言わん。早く種と土を聞いてこい。図面は後でかけ。買い物してこい。もう、夕方だ。閉まるぞ」
ペディロの冷静な声にムスが我に変える。
「あーーー!そうだ!いってきまーす!あ、やば!花と種を大事に布に包んで。よし、これで大丈夫!いってきまーす!」
パタパタと金属の扉をあけて出ていく。
「いってらっしゃい」
ペディロは嬉しそうに目を細めながら、ムスを見送った。