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魔力の塊


ーーーー5分後ーーーー



 部屋にメイドがきて、お菓子を置いていった。

 そのお菓子は、ふわふわに焼けた小麦粉の生地。上にはたっぷりの蜂蜜にブルベリージャムとラズベリージャムがのせられていて、脇にはたっぷりの生クリーム。いわゆる、パンケーキである。

 さらに、メイドはフォークとナイフ、取り皿の他に追加用のラズベリーとブルーベリーのジャムの瓶をそれぞれ2つ、右側に置いていった。

 飲み物のダージリンの紅茶も置かれていたが、ムスの目には入っていない。

 

「うまそう、、。コーグは一枚でいい?」


「一枚で充分!ブルベリージャムかけて食べるー!」


 ムスは取り皿にパンケーキを一枚おき、小さくナイフできる。生クリームを脇において、追加の瓶の一つのブルベリージャムを半分ぐらいたっぷりとかける。


「よし、フォークを使って食べるんだぞ」


 ムスは小さなフォークにパンケーキをさして、コーグに差し出す。


「ありがとう!いただきまーす!」


 つぶらな瞳が弧を描くように細められ、嬉しそうにフォークに刺さったパンケーキを一口で口にいれる。


「ああー。おいしいー。甘いのは至福だー」


 ムスのパンケーキはラズベリージャムで埋もれていて見えない。明らかに皿はジャムの海になっている。

 よく見ると、追加ジャムの一瓶は既にない。


「おいしい!」


 コーグはパンケーキを頬張り、嬉しそうに食べている。


「やっぱり王室のジャムはいいやつ使っているから、酸味と甘味がちょうどよい。一瓶、バッグに持って帰りたい」


 次々にジャムまみれのパンケーキがなくなっていく。正直、パンケーキよりジャムの方が多いぐらいなのだが、ジャムの方がなくなる量が多い。

 ジャムがなくなったら、生クリームをたっぷりぬって食べるムス。

 コーグはムスの隣でパンケーキを食べ進めている。




ーーーお茶をしながら待つこと数十分ーーー



「すまない、待たせた。ーーージャム足りないか?」


 ジールが、腕に荷物を抱えて入ってきたのだが、ムスの皿にジャムが残ってないのをみて足を止める。


「両親から心配されるから、埋もれるぐらいしかかけないことにしてる。しかも、一日一回だけ。早死したくないから」


「ーーそうか。余ったジャムは持っていっていいから、鞄にいれとけ」


「ありがたく頂く」


 さっと、鞄の中に3瓶を入れて、食器を隅によせてテーブルの上を片付ける。

 コーグはまだ食べているので、そのまま皿を持ってムスの肩の上に座った。


「これが品物だ。プラチナ、エメラルド、光の防御魔法が2つ。風の魔力の塊の玉が2つ。後、連絡したら《風の魔法》(ウォームウインド)の魔力の塊を3つ。微細に効果を変えたので、好きなのをどうぞだそうだ。さらに、アルマのシルフの好きな場所を再現するため、草原に花が生えるようにノームの加護を受けた土と種を貰った。使えるなら使って欲しいそうだ」


 ムスが見ると、プラチナはすでにリング型に作られ、エメラルドもカボションカットされて加工は終わっていた。後はプラチナのリングに模様を彫るだけ。5センチぐらいの透明なビー玉のような物には、光の防御魔法が込められていて、中から凄まじい強さの防御魔法を感じる。綺麗な風の魔力の塊の玉も2つあり、どちらも強い魔力を感じる。ここまではよい。

 なぜか、ありえない物が登場した。ここに《風の魔法》(ウォームウインド)の魔法が込められた玉が3つと、種と土?もう、わけがわからない。


「連絡したらくれたって、何それ。しかも、好きな場所を知ってるって何?理解が追いつかない」


「ムス、俺も理解がよくできてないんだが。電話して必要な物を行ったら、物をもってるから、5分ぐらいで用意できるって言われて。そして、精霊達がこれもって言ってるからと、《空間魔法》(テレポートで渡された。他に何か必要な物があれば、今日中に言ってくれれば、早めに用意するとも言われた」


「ーーー異次元みたいな魔法の使い方してないか、それ?物に《空間魔法》(テレポート)って、難易度高いし。早いのはいいことだけど」


(精霊達から物を貰うってことは、仲が良い証拠。それだけでも驚くのに、5分で《風の魔法》(ウォームウインド)を3つ。結構な注文をしたのに、簡単に用意された。しかも、風の暖かさを微細に変えている。3つの中から好きなのを選べという意図だろう。さらに、加工しやすいように微細に土の魔力までおびさせている。先程の土と種の相性をよくするために、僅かにいれたのだろう。そして、これを見抜けない魔技師は造る資格がないとも言われているような気がする。こんな良いものを用意され、下手なものは造れない)


 全ての物を確認し、満足の行く道具の数々なため、ムスは黙り込んだ。


「ムス?黙り込んでどうした?何か駄目か、足りないか?返却するものがあれば、いってくれ」


「ーーーいや、返却しない。あまり、魔力が強いし素晴らしすぎるから、失敗できないと思っただけ。全て持ち帰るから、できたら連絡する。手紙でいいよな?コーグに呼ばせた方がいいか?」


「頼む。連絡はコーグにしてくれ。その方が安全だ。返事は今回みたいな手紙をだす」


「わかった。報酬は」


「掛かった費用+相場より2割増+王室お抱えの魔技師の給料一ヶ月で」


「ーー高すぎじゃないか?現物は既にあるから、俺の加工賃だけだろう。相場の2割増だけでも充分だ」


「いや、ほぼ強制的にムスに押し付けるつもりだったから、それぐらい出さないと駄目だろう。一生に一度の結婚指輪だぞ?中に迷惑料も入ってるし、俺も妥協したくない。だから、お前を呼んだんだ。一応、王室の魔技師に聞いてからという体裁をとったが、俺の中ではムスに頼むつもりだったんだよ。最初からな」


 ジールは苦笑して心情を吐露した。


「ーー金銭感覚が違うのは仕方ないとして、迷惑料は貰う。妥協をしたくないのもわかったが、給料一ヶ月分の半分は食べ物でくれ。一気にお金でもらったら、決算が大変なことに」


(お金も大事だけど、王室の依頼を受けるなら、王室の調理師が作る激ウマ甘々お菓子の方が価値がある。絶対に普通は頼めないし) 


「ーームスがそれで、いいなら。何がいい?」


「ブリズーの実のジャム!他に甘い焼き菓子に、甘い新作のケーキ。プディングを。余ったら美味しい食材で調整してくれ。もしくはジャム」

 

 ブリズーとは寒い場所に実をつける小さな赤い実で、みかんのような酸味と、黒砂糖のような甘味がある実。ただ、実になる量が少なく、市場に出回る量が自然と少なくなるため、高価になりやすい。取れる場所は、ガーディソード公爵がいるバース領のみ。

 ムスはこの実が大好きなのだが、高価なためなかなか買えない。


「要求が甘いものしかほぼない、、安定のムス」 


「?なんか言ったか?」


「いいや、なんでもない。料理長に頼んでおこう。いい物を用意しておく」


「よっしゃあー!甘いものが、王室のジャムが食べれるー!ジール、頼んだからな!楽しみにしてるからな!」


「わかった。では、任せた」


「任された。納得いかなかったら、叩き壊していいからな」


 半分本気、半分冗談でムスがいう。


「叩き割った瞬間に、煙が出てきたり槍が飛んできたりしないだろうな?」


 冗談で返すジール。


「風船が割れるようにする。騒音でモンスターを気絶させるぐらい連続割りする」


「やばいな、それ。時間がもうないから、出るぞ。焼き菓子は入口にいる受付の人からもらってくれ」


 ジールは笑って自分の結婚指輪だけを大切にしまう。

 ムスは机に広げてた、プラチナリング、エメラルド、風の魔力の塊、《風の魔法》(ウォームウインド)の魔法の玉、土、種、設計図を鞄にしまう。

 そして、コーグを撫でてから立ち上がる。


「長居した。コーグ、食べ終わったか?」


「うん。ジール、バイバイ」


 食べ終わったコーグは大人しく、皿をテーブルに置いて肩に座っていた。


「またな、コーグ、ムス。バイバイ」


 ジールはコーグに手をふる。

 2人と精霊は別れ、受け付けで焼き菓子をたくさんもらってから、ムスは家に帰った。


 


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