フェニックスとムス
ムスはスケッチが終わり、並べられた刺繍糸を吟味。色糸を悩みながら選び、嬉しそうに糸を針に通す。
「上質な糸!綺麗な色になりそうー!」
(さらっさら。素晴らしく綺麗で、上質なのはわかる)
まずはベースになる赤や黄色を大まかに刺していく。
(フェニックス、ラベンダーの側で佇んでいて綺麗。いやー、七色を表現するに、厚みを出しながら刺さないと。コーグは頭の上でニコニコ笑っているのが一番いいから、そうしよう。蒼い水晶の目。この透明感をどう現すかだよね)
ムスは考えごとをしながら、フェニックスの身体に色を加えていく。
そのスピードは速く、普通のレベルではなかった。
(瞳の色は白と蒼に水色で混ぜながら、キラキラ光る銀糸を混ぜて、、)
「ムスと言ったか?」
「ーーやっぱりもう少し金色が」
「聞こえてないのか?ムス?」
フェニックスがムスの目の前に迫り、頭をつつく。
「うわっ!え?」
ムスが顔をあげるとフェニックスが目の前にいた。
「集中すると声が聞こえなくなるようだな。ムスと言ったな?」
「は、はい!」
ムスは刺繍する手を止めた。
「お主は魔力が多い。しかも、闇属性。光も闇も人間には珍しい。我が主は光だが、全てにおいて魔力の精度がよい。お主は下手なのはわかるが、加えてその腕輪。制御用だな?お主、魔力操れてないだろう?」
「ぎくっ。聖獣って、そんなにわかるの?」
「わかる。寿命も長い。お主は普通の人ではないな」
フェニックスは目を細める。
「え。そ、それは、、」
(聖獣はお見通しか。俺はモンスター、ヴァンパイアの血が流れている。この腕輪は制御のため。叔父が完全な純血のヴァンパイアだった。父がハーフ。俺はクォーターで、下手くそで魔力制御ができない、ヴァンパイアとしてはダメダメなのだが)
ムスは一度、深呼吸して覚悟を決めてフェニックスをみる。
「だったら、何かする?」
「いいや。主に危害を加える気がないなら、別にいい。ここのバース領は妖精、エルフ、狼人間、モンスターとハーフも山程いる珍しい領だ。侯爵は力量がある者で素行がよい民なら全て受け入れる。モンスターが多い激戦区なのに一部からは楽園だと言われているぐらいに。お主のことなど気にしないだろう。主もお主のことは気に入っているようだし。素性を言うつもりもない。それは、些細なことに過ぎない。私が聞きたいのは別のことだ。ヴァンパイアは長命だと聞く」
「そうなのか。なら、何?」
(ーー時代は変わったなぁ。バース領ではヴァンパイアがいても気にしない時代になるなんて、、)
「聖獣界ではあるヴァンパイアを探している。ディーラと言うヴァンパイアを。親族でもよい。連絡が取れれば、なのだが。同じヴァンパイアなら知らぬか?」
「えーーー。俺の祖父の名前だけど?祖父が何か?」
ムスは目を丸くする。
「本当か?」
「あ、うん。ディーラは祖父の名前。英雄伝説の結界を創ったヴァンパイア」
「間違いない。孫なら話は速い。実はディーラの持ち物、アクセサリーを聖獣界に保管している。なくなる前、皆で話し合い、遺品を聖獣界と精霊界に保管した。製品劣化しないように処置したのが精霊界に。魔法遺物は聖獣界に預かっている。是非、親族に受け取ってもらいたい。あれは、大事なものだとはわかっていたが、親族を見つけられなかった」
「ええ!?なら、父と一緒に行ったほうがいいかな。俺ではわからないだろうから」
(確か、遺品は何もないと父親から聞いてたけど、あったのか!?あるなら、おばあちゃんが喜ぶ)
「構わない。私から聖獣王に報告しておく。訪ねる日付が決まったらコーグに言うと良い。あの精霊は大精霊だ。聖獣王とも知り合いで連絡の取り方は知っている。お主を気に入っているから、いつも側にいるだろう」
「え゛」
(大精霊、、、って。確か、精霊の種類の中で一番強い精霊が名乗るもので、普通は人間に協力しない者だったような、、)
ムスは固まった。
「ん?その様子だと知らなかったのか?あの精霊はかなり変わり者でな。精霊王の元にもあまり顔を出さないし、人間が大好きで、気に入るとずっと側にいるタイプだ」
「うぇぇぇ!?コーグ、人型にならないよ!?大精霊は人型になれるはず」
「ああ、なれたとしても、ならないのだろう。変わり者だと言っただろう?絶対にならないを選択している。頭に乗れなくなるのが嫌なのだろう。ーー強いか弱いか。精霊と聖獣には筒抜けだから、互いにわかる。コーグは大精霊だ。間違いない」
「ーーありそう。可愛くないコーグはコーグじゃないとか言いそう。とりあえず、落ち着いたら貰いにいっていい?」
(今は忙しいし、アルマさんのこともある。ラムもほっとけない。コーグは大精霊でも大精霊じゃなくても、コーグはコーグだからいいや)
「ああ。急ぎではない。何より引き取り手を見つけられてよかった。精霊王もお喜びになる。ムス、私が動けない時は主を頼むぞ」
「え?」
「聖獣は主が危機だと思えば、護れるが、今回の主は些か変わっている。戦闘はできる、癒せる、自力で何とかする、要は強すぎるのだ。私を喚ぶのは滅多にない。見ていればいいが、ずっと見てはいられない」
「ーーまあ、側にいる限り」
(ラムは考えて見れば、ヒーラーだ。俺より後衛なのに、攻撃魔法使えるから前に出るし、心配なのはわかる。妙に強いし、平然としてるしなぁ。あの若さで)
「充分だ。作業に戻るといい」
「そうします!!」
(思わぬ収穫があったから、後で連絡しよう。今は美しいフェニックスに集中しよう!!)
ムスとフェニックスは会話を終え、フェニックスはラベンダー畑へ、ムスは刺繍を刺す作業に戻った。




