重大な問題
「え?嘘だろ?王室が作る魔工品はお抱えの魔技師が作るじゃないか。何で造れないんだ?」
ムスの疑問はもっともだった。王室には何人もの魔技師がお抱えとしている。皆、将来有望株や、技術が高い者が国中から集められるため、一級者しかいない。だから、造れないといわれて疑問しか浮かばない。
「技術長のラーさんが亡くなったんだ」
「え。本当に!?あのラーさんが?」
年齢は60近いとは思う。しわが刻まれた顔と垂れ目で優しそうな風貌だが、実際は誰よりも魔工品に関して厳しい人だ。一ヶ月前に魔技師通しで会合があってその時に出席したら、嬉しそうに作った魔工品を見せていたし、お酒もバリバリ飲んでいた。
「信じられない。一ヶ月前は元気で、魔工品見せてもらったし、、。新たに亀の形に光をいれた可愛らしいカットとつぶらな瞳を見せてもらった。今はうさぎの研究していて、完成したらみせてくれるって、約束してたのに、、。あああ、すげー見たかったのにーーー!!そんなぁ、嘘だろ。偉大な人が、、」
悲しい事実にムスは机に突っ伏していた。
「お前は、魔工品に関しては見るのも作るのも好きだよなぁ、、。俺も突然だったから、驚いたよ」
「うさぎーー、うさぎ、、見たかった。息子がいたよな、、資料や設計図だけでもみたいっていったら、みせてくれるかなぁ。ああ、新たな作品が見れないなんて、、ううう、お悔やみを渡さないと、、」
「ムス、続きを言っていいか?」
「もう、何も頭に入らない。
ーーん?いや、まって。ラーさんが亡くなったけど、息子さんもいるし、王宮お抱えメンバーで結婚指輪に加工ぐらいできるだろ。ラーさんが、亡くなったなら品質が落ちるかもしれないが、造れないことはないだろう」
ガバっとテーブルから顔をあげて、問題の本質と矛盾していることに気づく。
「実はな、俺の方の結婚指輪は先に完成している。実はアルマの方が完成してなくて、、。俺は魔技師の技術や原理がわからないから設計図をみてもさっぱりで。悪いが設計図みせるから判断してくれないか。他の皆が引き継げないという理由を説明してほしい。息子のルーは、自分は風の魔法の適正がなく、今の力量ではとても不可能だと」
「それは、いいが。お前の結婚指輪が完成してるなら実物見たほうがはやい」
「そういうと思って、俺の方はもってきている」
ジールが懐から一枚の紙と結婚指輪をみせる。
ムスは2つを見比べることにした。
(紙の方は魔工品の完成図の見込み。かなり難しい王家の模様(月光草)がプラチナ外側に飾りとして彫られている。さらに内側にかなり強い光の防御魔法が込めてある星空の模様が彫られている。中央の丸いエメラルドには風の精霊の、、魔法じゃない。解読に時間がかかりそうだから、ジールの方を先に見る。
ジールの結婚指輪は外側は設計図と同じ。内側の模様も同じ。ただ、中央の石は丸いシトリンで雷の精霊の、、、こっちも魔法じゃないな。精霊関係ではあるが)
精霊とは、世界の綺麗な魔力がたまる場所にいる光り輝くものたち。もし、精霊が見えるか聞こえると気まぐれに力を貸してくれる存在で、近年は数が減っている。それに比例して、精霊が見える者も聞こえる者も年々減っている。
ジールとムスはこの時代には珍しく、精霊が見え聞こえる者だった。
ムスは中央の石と外側の模様をじーっと見比べる。
さらに、指輪の内側と外側の模様を何度も確認する。
(もし、何か加護を与えるか繋げるなら模様だと思う。月光草以外に何か、、蔦か?異様に長い蔦が月光草を飾るように彫られているが。それか、プラチナ自体に仕込むか。プラチナに仕込むなら強度強化じゃないかなぁ。強度強化しないとプラチナは何回も使える魔工品にならない。あ。あった。これか。強度強化は十字架だけど、小さっ!これは技術がいるなぁ。ということは、後は石だけど、ポケットみたいな気がする。おそらく、予想が正しければ中に収納空間がある)
くるくると回しながら掌に指輪を握って、暫く考え込む。
やがて、試しに魔力を込めるため、精霊を呼ぶことにした。
「コーグ。いるか?」
ムスがコーグという愛称で呼ぶ、闇精霊のデネブラという種類の者を呼び出す。
すると、大きさは9センチぐらいで、つぶらな黒い目に蝙蝠のような形をした者が、ムスの肩の上に乗った。
「ムス、どうした?仕事?」
無邪気で可愛らしい声が部屋に響く。
「そう。魔力を込めるのに協力して欲しくて。割ったらやばいもんだし、確信を得たい」
「いいよー」
ムスの肩の上から蝙蝠のような翼を使って浮かぶ。
「おっ、コーグだ。こんにちは」
ジールは現れた精霊に対して視認し、挨拶をする。
「ジールだ。こんにちは。後でお菓子頂戴。あなたの依頼でしょ?」
「完全に見抜かれてるなぁ。格別にうまいお菓子を土産に用意しているから好きなだけもらってくれ」
「やったぁ!ムス一緒にたべよ」
「そうだな。じゃあ、頼む。少しでいい。流れだけ確認したい」
コーグの頭を撫でて、ムスは自分の魔力をコーグに渡す。
ムスの魔力を受け取って、コーグは魔力をコントロールして指輪に魔力を流す。
すると指輪が光を帯びて、魔力を流すのを止めると光が収束していく。
(ああ、なるほど。石の周りには魔力が帯びるけど中には入っていかない。つまり、石本体は魔工品ではない。そして、この感じだと石の中は空間になってて、中に何か入れることができるものだ)
「んー、ジール、聞いていいか?」
「なんかわかったか?」
「えーと、婚約者が、何か魔技師に依頼しなかったか?例えば持ち運びたいものがあるとか。石の中にポケットがあるけど、なんのポケットかわからなくて」
「それは、俺とお揃いで、軽くて丈夫で壊れなくて綺麗なのがいいとはいってたが」
ジールは考え込む。
「デザインの話ではなくて。これだけは一緒にとか。人でもいいが。ペットとかも。後は思い出の品とか」
「ま、、まて。ひ、人!?人なんか収納できるのか!?大きさ違いすぎるが?」
眼を丸くするジール。
「そんなの、魔法で解決できる。論理上は可能。問題は酸素がないから、死ぬだけ。逆に酸素を閉じ込めるーー、そうだな。守護系の魔法が彼女に使えれば、生きたまま入ることは可能だ。外側から石が壊されたら一緒に死ぬから、死ぬ前に石から出なきゃ行けない制約はつくけど、身を護る観点からみれば、斬新で確実性もある。婚約者はバリバリモンスターぶっ飛ばすだろう?なら、思いつきそうだし」
(あそこの公爵家は王国の一番端に領地がある。それは、モンスター討伐を主に得意とする騎士の家系で、王家の信頼も厚いから。現にあそこの公爵家は、男性女性に縛られず実力者しかいない)
ムスはうんうん、と一人で納得する。
「いやいや、お前はどんな思考して俺の婚約者を見ている!?しかも、一人で納得するな!そんなこと、考えるか!!変なこと吹き込むなよ!魔技師達に口止めしとかないと!」
「口止めするってことは、やりそうなんだ?
ああ、魔技師に口止めはしなくていいよ。論理上可能だと知ってるのは俺ぐらいだろう。他にも知ってる人はいるかもしれないが、そもそも魔工品は身を守るためのもの。収納ポケットは普通なら、造らないし、何かいれるという発想にいたらない。大丈夫」
(そう、魔工品は守るためのもの。普通は収納ポケット、魔法が使えれば中に入れる空間は造らない。何をいれるために造ったのか。それが鍵。むしろ、石の色が違うから、色から関連するものを導きだした方がよさそう。お揃いなのに、石の色か違う。お互いの目の色や髪色でもないなら、緑色と薄黄色である必要があったということ。有名なのは魔法の色だが、、風と雷の色ねぇ、、。そーいえば、石がカボションカットだ。ラーさんにしては珍しい。丸いのも素敵だけど、ラーさんはプリンセスカットが得意だよなぁ。そもそも宝石の光沢を最大限にいかすデザインがすきなのに珍しい)
真剣に石を眺めている。
「ーーーお前さ」
「どうした?」
「いや、相変わらずだなと。20分ぐらいしか経ってないのに仕組みをおおよそ理解したんだろ?王室の魔技師はポケットすら言わなかったが」
ジールは深い息を吐く。
その目は穏やかで、感心したようにいう。
「技術的な問題は勉強不足だろ。石だけじゃなくて、最低でも魔法、金属、ガラス、武器、精霊、花ぐらいは勉強しないと」
(丸い形をポケットにすると、中のものが傷つかない。傷つけたくない、生き物かなぁ。モンスターをいれるとか、、、?非常食。大量の爆弾とか、、?ありそう)
「さすが、魔工品馬鹿と有名なだけある、。皆、もしかしたら、わかるかもしれないと言うわけだ、、」
「なんか、言ったか?」
「いいや、なんでもない。
そーいえば、アルマは仲の良いシルフと一緒に嫁いでくると言っていたなぁ。住む場所を造るかと聞いたら、もう、できるから大丈夫だって言って教えてくれなかったなぁ。気にはなって」
「そ、それだぁーー!!間違いない、それだ!!この不自然なポケットは、精霊の住居だ!」
ムスが大声をあげた。