事情聴取2
ラムとコーグ、ムスが座っていると部屋の扉が開く。
「おまたせしました」
丁寧な言葉ではあるが、意思の強そうな低い声がした方へムスは軽く視線を向ける。
(見覚えある声?)
ムスは疑問に思いながらも、姿を確認する。
その人は輝くさらさらの銀髪に、海のような蒼い瞳。丁寧に仕立てられた白と青を基調とした上質な服。名はあえて名乗らないのだろう。
ムスは呆然としていた。
(何で、今、ここにジールが来るの!?うわぁぁぁ。余計なこと言わないよね、大丈夫だよね!?巻き込まれたくないというか、ラムに知り合いだとバレたらとても大変なことに!しかも、職務放棄してない!?くるなよ、事情聴取なんかに!!)
この人物は間違いなく、アステラティーア王国の王子、ジール・オプティクラーズ。この国の2番目の権力者である。なぜ、ここにいるのかとムスは言いたいが言うわけにはいかない。
ムスは内心の叫び声と疑問を無理やり飲み込んだ。
「あー!トニトだー!!久しぶりー!!」
コーグはラムの腕から飛び出して、ジールの肩にいる、黒い丸い球体に目がついたぼやぼやした光に声をかける。
(うわぁぁぁ。そうだよね、トニトと知り合いだもんね、コーグ!突っ込まれたら誤魔化せないし、どうしましょう、これ!?)
ムスは頭の中がパニックだった。自由なコーグは今はラムの腕の中から抜け出してにこにことはしゃいでいる。
コーグが俺に関して何か言ったらアウトな状況。ムスは胃が痛くなってきていた。
「コーグか。久しぶりだ。証言はお主がするのか?ジール、100%真実だ」
(よし、トニトの言う通り!速く帰れ、ジール!)
ムスはトニトにエールを送る。
「トニト、早急すぎる。事情聴取はしよう」
ジールが精霊の言葉に首を振る。
(頷かない!!もう、コーグだけに聞いて欲しい、、)
ムスはがっくりと内心項垂れた。表情は何とか取り繕って固まっている状態である。
トニトと呼ばれる精霊は雷を司る精霊の総称の名前。ぼんやりした光を出しているが、戦闘になると恐ろしく攻撃的になる。滅多に怒らないが、怒るとその場所に1ヶ月は落雷が収まらないという伝説をもつ。
「お主が言うなら、隣で聞いている」
ジールの右肩に乗り、大人しくしているトニト。
「トニト、後で一緒に遊ぼー!」
「遊ぶ時間は今はない。もろもろ立て込んでいる。また、時間がある時に。国内が落ち着いたら訪問する」
「残念。ん?来てくれるの!?わーい!今から楽しみ!事情聴取?始めよー!」
コーグはしょんぼりしたかと思うと、嬉しそうに飛び回ってから、キリッとした表情でラムの手に座る。
(コーグは大人しくなったから、ひとまず安心。もう、速く終わってくれ)
ムスはコーグが真面目になったのをみて、少し落ち着きを取り戻す。
「では、始めよう。2人共大丈夫か?」
「はい、お願いします」
ラムは軽く頭を下げる。
「お、お願いします」
ムスはしどろもどろに返事をする。
(苦手なんだよー、こうゆう重苦しくて堅苦しいのー。泣きたい)
「2人共、質問内容を読み上げてくれ。精霊の言葉は私が翻訳する」
「では、始めます。被害者は地下にいたとのことですが、間違いありませんか?」
「ないよー」
「はい」
「はい。牢屋みたいな場所でした」
2人とコーグが頷く。
コーグの言葉をジールが通訳して伝えている。
魔法使いが文を読み上げて、証言をメモする。
「わかりました。次に何の取引きをしていたかですが、わかる範囲でいいので教えてください」
「コールビット伯爵が誰かを引き取る話でした」
「上玉5人と言ってました。誰かを選ばせる予定みたいです」
「目的は?」
「途中でタイミングを失敗しまして、奇襲の形になってしまい、聞いてません」
(母さん、母さんが大人しくしていれば、、とりあえず、家に戻ってもらったから今は安全)
「一応、建物は無事です。お茶を飲んでましたし、全員生け捕りしています。全員弱いです。情報はそれ以上は知りません」
「彼奴等、ぶっ飛ばしてトニト!あの2人は悪いことするつもりだよ!邪な空気流れてた!黒!よくない。嫌い」
コーグが激しく主張する。
(爆弾投入した、コーグ!?え。どうなるの、これ?)
ムスは呆然とコーグを見つめる。
「まて。コーグ。黒とは?」
「嫌な空気たくさん。人を不幸にしようとする黒霧がぼわわって湧き出てる。よくないから、ポイしないと。放置すると呪いになるよ?恨み妬み増加して取り返しつかなくなる。たくさん、恨まれてる」
「ジール、急いで処罰しなければ危険だ。コーグが呪になるというほど念が強いなら、危険だ。今すぐ、取り調べるべきだ。闇精霊は感情の機敏に詳しい。コーグほど危機察知能力が高い精霊は少ない」
「2人共、他にいうべき点はあるか?ないなら、すぐにあの2人を尋問しよう。危険なようだ」
ジールが事情聴取を切り上げようとする。
(よくわからないけど、コーグの見立てではかなり危険で呪いが出てるらしい。やばい。危険である)
「案内したメイド。武器持ってましたが護衛ですか?斬りかかる様子がなかったので、放置しましたが。隠してる様子もないし、敵意もない。コーグがいたから安全だと判断しました」
「え。ええ!?ラム、本当に?」
(ちょ、王宮こわ!!武器をメイドが持ってるの!?敵意は間違いなくないのは俺の〈見破り〉に引っ掛からなかったから間違いないけど、危なすぎ!)
ムスは目を丸くする。
「歩き方、少し違う。見た目より重すぎるから、武器持ってるよ。足に隠してるだろうから、ナイフかな」
部屋の中にいる王宮側の人達が静まりかえる。
「ラム、すごい!コーグ、気づいてたけど、害がないから言わなかった。弱々だったもん」
(コーグもわかってたの!?まあ、コーグは危険がないと言わないから大丈夫だろうけど)
コーグがぴょんと跳ねて、キラキラした目でラムをみる。
「可愛い、、」
「うわぁ。こわっ。王宮怖いよ、、。俺、気をつけよう、、」
(ラムはナイフ持ってても平然としてたってことは対処できるということ。ラムも怖いよ、、)
コーグを撫でるラムと震えるムス。
「武器携帯を許可した者か確認しよう。協力感謝する。他は?」
「呪いを撒かれたら嫌なので、気休めの守護を置いていきます。ギルドに納品している物です。使えると思ったら使ってください。逮捕は任せます。後はお願いします」
(念の為は置いていこう)
ムスはバッグから魔工品を3つだす。ギルドに収めているもので、効果は長くないが呪いを弾く効果がある。
「わかりました。ありがとうございます。お二人を帰してよろしいですか?」
「精霊も他に言うことはないらしい。大丈夫だ」
「では、失礼します」
「お願いします」
2人は軽く頭を下げて、外へ出る。
ムスはすれ違う瞬間に口パクで、ジールに「何してるの」と聞く。
ジールの口が動いた。音はない。ムスは「王宮のゴタゴタ処理」と読み取れた。どうやら、ジールは大変らしい。今度、離れに呼んで二人でお茶を誘おう。王宮は本当に悪意まみれで嫌いだ。婚約者の件もあるし、落ち込んでいるだろうから。
ムスは部屋を出た。




