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ムスの作戦



 ムスは《空間魔法》(テレポート)を発動させ、門の外にある草原へ無事に出ることができた。

 門の近くにいる先程のワイバーンより一回り大きい、真っ白な身体のワイバーン。

 ムスは気を引くため、翼を狙い銃を撃つ。 

 パンッと音が響き、白いワイバーンがムスを認識する。

 ムスは踵を帰して草原へ全速力で走り出す。後ろの観察はコーグに任せていた。

 草原にゴブリンの死体がみえるが、ムスは器用に間をぬうように走っている。


「コーグのムスに火の球を向けちゃ駄目!嫌い!」


 コーグは周囲に誰もいないのを魔力で確認しているため、白いワイバーンに向かって黒い球で攻撃している。


「グルルル」


「防御。シャーー!」


 コーグはやる気満々で白いワイバーンに威嚇している。


「えいっ!」


 その隙にムスは速度低下の異常状態を発生させる《闇の精霊》(影縫い)の弾を当てる。

 すると、草原から黒い手が出てきて、白いワイバーンの足を掴み、地面に叩きつけようとしている。

 白いワイバーンは動き辛そうにしながらも振り切ろうとしている。


「あ。ムス、そろそろラムとユリ母さんが来るから、大人しくしてるね。攻撃する位置だけ教える」


 コーグは、ムスの頭の上にお行儀よく座る。

 攻撃はもうしないと決めたようだ。


「わかった。頼む!」


 ムスは異常状態が効いている内にまた走り出す。

 息が切れてくるまで、全力で。でないと、助かる保障と町から離す意味がないからだ。

 走る。走る。走る。


「ムス、火の球右!」


 ムスは慌てて、左側へ逃げる。

 着弾した場所は黒焦げになってしまった。これに、当たったらと思うとムスはゾッとする。


「次は左」


 ムスは右に逃げる。

 何とか当たらない範囲まで逃げ切れたが、全力で逃げないと間に合わない。とても、緊張感がある。

 

「正面」


 ムスはそのまま速度をあげて、息を切らしながら走る。

 距離を離して回避するつもりだからだ。

 服が焦げたような気がするが、何とか回避できた。

 次は、と思った瞬間ーー


「ガァァァアアアア!?」


 ワイバーンの悲鳴が木霊する。ムスが後ろを振り返ると、母親と母親に抱えられたラムが視界に入った。


(助かった、、、。流石にこれ以上、逃げるのはきつい)


「うーん、胴体にも当てたけど硬い、か。これより貫通に向く技は詠唱長いから、やっぱり凍らせるしかないかな」


「ムス!こっちに!門から離れたから私が迎撃するわ!」


「はぁ、はぁ、、。母さん、、、やっぱり速い。助かった。流石に全速力はキツイ」


 ムスは息を切らしながら、走るのを止めて立ち止まる。

 ユリアはムスの前に立って、ワイバーンに向かって構える。


「ムス、時間欲しい。多分、全部凍らせないと駄目。《光の魔法》(ブレイクライト)で翼の柔らかい肉の部分しか貫通しなかった」


「え。あ。いつの間にか穴が空いてる、、。時間稼ぎに色々したけど効果薄くて。魔法耐性が高いというより、鱗が硬いのと拘束に力不足で。俺の弾だと、、、。可能性がある拘束系は2発しかない。強力な拘束は磔だけど、磔の弾は2発で地面から離れすぎてる。これだと、使えない」


「ペディロさんは?」


「父さん?ーーああ、なるほど。父さんが拘束するなら、できると思う。叩き落として、磔すれば元から力もあるし、いけるよ」


 ムスは頷く。


(磔の魔法は相手の影から無数の手を生やして拘束する魔法。影が小さいと効果は薄い。地面に叩きつければ効果がある)


「呼べないかな、、。拘束は力がいるから、私だと傷口開いちゃう」


 ラムはどうしようかと悩んでいると後から数人が追ってきていた。


「ムス、よくやった。ここなら、叩き落とせる。高度も低い。後でそのお嬢さんのことは聞かせてもらうぞ!」 


「あ。ムキムキきたー。勝ったねー」


(ムキムキはギルマスのことか、、)


 ムスは笑いを堪えながら、コーグの呟きは聞こえない振りをした。

 その間に大剣を持った筋肉ムキムキの背の高い40代ぐらいの男性、通称ギルマスが跳ぶ。


「ギルマス!え!ちょ、何するつもりですか!」


 ムスが慌てた様子で声をかけるが、既に遅かった。


「叩き落とすに決まってるだろう!」


「あーー!まさか。〈飛竜殺し〉使えるの!?」 


 大剣が赤く光りだす。


「ラムちゃん、合わせるから口を閉じて!」


 ユリアも跳ぶ。

 ラムは言われた通り、しがみついて口を閉じる。


「おりゃあー!」


 掛け声とともにドラゴンすら悲鳴をあげる切断技〈飛竜殺し〉を大剣が繰り出す。

 赤く光る大剣から4つの斬撃がワイバーンに襲い掛かり、翼の根元を傷つける。


「ギャアアア!」


 ワイバーンの悲鳴。

 その傷口に塩を塗るように


「落ちなさい!」


 ユリアの拳が翼の根元に当てる。さらに、技〈骨砕き〉までのせていた。


 ボギッ!


 骨が折れる音がした。


「アァアアアアア!」


 悲痛なワイバーンの悲鳴。

 痛みで飛べなくなったワイバーンが地面に落ちる。

 地面に落ちた先にいつの間にか用意されていた氷の槍。剣山のように鋭く尖っている。


「グルルルル、、」


 真下に落ちたがワイバーンの鱗を貫通するほど威力がない。魔法使いの力がなかったようだ。

 ユリアとギルマスは地面にそれぞれ下りて、距離を取る。

 氷を振り払うために尻尾をワイバーンが動かそうとした瞬間


「!?」


「父さん!」


 地面から黒い布が生えてきて、拘束する。動こうとしたワイバーンは強い力で地面に縫いつけられる。


(タイミングばっちり。見てたな、こりゃ)


 ムスは心の声は言わずに成り行きをみている。


「淡い光、照らせ暗がりを《光の魔法》(ライト)」


 ラムはすかさず一番弱い光魔法を唱える。

 ワイバーンの真ん中に淡い光を出しているシャボン玉ぐらいの玉が浮かびあがる。

 玉が位置につくと、光が強くなりワイバーンの影が小さくなる。真下にブレスを吐いても磔の魔法は解除できなくなった。


(ああ、これだと磔の魔法は解除できない。磔の魔法の弱点は自分の影を一瞬でも消せれば無効化される。だが、魔法が発動したタイミングで、影を小さくすると影を消すのが難しくなり、拘束ダメージも入るため実質、不可能になる)


 ユリアは足早にギルマスの元へ向かう。

 ギルマスはいつの間にかムスの隣にきていた。


「ペディロは大丈夫!ムスー、ギルマスー、これ、どうやってしとめる?」


「相談してきめる、、、。王都はのんびりなのか」


「ユリアか。助かったよ。ワイバーンが出たときは焦った。そちらのお嬢さんも、場馴れしてる強い魔法師で、見事だ。今から、ペディロの負担を減らすためにとどめを刺す相談をしている。魔法が効きづらいなら、戦士達で〈骨砕き〉〈飛竜殺し〉をするつもりだ」


「魔法貫通したよ?」


「鱗に魔法耐性あるみたい。翼は鱗なかったから。身体に貫通させるのは大変だよ」


「〈鱗剥ぎ〉〈関節切り〉〈木端微塵〉の技能もちいないの?いたら、物理も魔法も楽に通るよ」


「お嬢さん詳しいな。いなくはないが、熟練者は今はいなくて。森の異変調査に王宮の兵士達と同行してしまってな。今は無理だ」


「なら、帰る。私は魔法しか駄目だもの」


「俺も駄目。戦士じゃないから、そんな技は習得してない。ラムを預かるから母さんは加勢してきて」


 ギルマスの他に何人か強そうな戦士がいる。見た感じ、ラムはこの面子で倒せそうなので、任せることにした。

 そして、ラムは地面に下りようとしたが、駄目だとユリアに言われたのでムスに抱えられることになった。


「お嬢さん、少しムスと待っててくれ。ムス、警戒だけ頼む」


「はい。ラム、少し待ってて」


 ムスはラムをユリアから慎重に受け取る。

 自分が抱えやすい位置に移動して、ラムを落とさないように安定させた。


「重くない?」


「え?軽いよ?ラムはもう少し食べた方がいいよ」


「普通に食べてるよ」


「んー、なら魔法使うと消費激しいからかもね。甘いやつ増やそうか?」


「!いいの!?」


「軽すぎるから、少しだけ多めにね」


「やったー!」


(甘い物、本当に好きなんだなぁ。子供みたいにはしゃいでる)


 緊張感ない二人はワイバーンが討伐されるのを見ながらのんきな会話をしていた。



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