アステラティーア王国
「今日は新鮮な鮭が入ったよー!」
「今日はあまーいキャベツがオススメだよー!」
今日も威勢のいい声が市場の方から聞こえる。
素朴なレンガ積みの建物が立ち並び、ガス灯の淡い光が舗装された石畳の通路を照らす王都。品の良い、でも過度な装飾はされてない落ち着いた街並みは住みやすく、居心地が良い。
その石畳の通路を駆けて行く、両腕に重そうな買い物袋をもった、動きやすい半袖のシャツに、ズボンの軽装の20代なるかならないかぐらいの金髪の男性がいた。
その男性は一つのレンガ積みの家に入る。
「ただいまー。とりあえず、安い食材とキャベツ、卵に狼の肉を買ってきた」
「おかえりー、ムス!朝ごはんできてるわ。今日も息子が可愛い」
茶色いシックな木の扉を開けて、靴を脱いで玄関を通り過ぎる。
木の扉をあけると、中は白を貴重とした食器棚と長方形のアルミの箱、木の椅子に木のテーブル、桐の箪笥。他には本棚と新聞。奥に続く金属の扉と、上に続く木の螺旋階段がみえる。
木のテーブルに買い物してきた物を下ろすと、元気な可愛らしい声が響くと後ろから長い金髪、可愛らしい丸いブルーの瞳、服装は動きやすい菫色のワンピースに花柄のエプロンを身に着けた30代ぐらいの女性が、背中から抱きついてきた。
「ぐふっ。いきなり、抱きつかないで、、母さん。卵が割れるよ」
咄嗟にテーブルに手をついて衝撃に耐えきったムスは、下ろした荷物を潰さないように腕をぷるぷるさせていた。
「おかえり、ムス。ユリア、早く離してやれ。本当に卵が潰れる」
落ち着いた低い低温ボイスが響く。金属の扉から現れたのは真っ白な肌によく映える、黒い瞳に黒い短髪、服装も黒いシャツに黒いワイドパンツの40代ぐらいの男性。
「ペディロ、おはよう!」
声が聞こえるとムスを離して、ペディロに正面から抱きつくユリア。
「おはよう、ユリア」
そのまま抱きしめ返すペディロ。
ユリアは満面の笑みを浮かべながら、腕の中にすっぽりと収まっていた。
(朝っぱらから両親がイチャイチャ、甘々ラブラブなのは全力でみなかったことにして、と。とりあえず、食材を冷蔵庫にいれよう)
ムスは買ってきた食材を長方形のアルミの箱の中に入れる。中は氷魔法でキンキンに冷えているため、これがこの世界のいわゆる冷蔵庫だ。
「父さん、母さん、朝ごはんたべようか」
まだ、イチャイチャしている両親に声をかけて、テーブルの上を片付ける。
「そうね!パンとスープにサラダをだしてくるわ!」
ユリアは元気に台所に向かっていって、用意しているご飯をテーブルに並べる。
「いただきます」
三人はテーブルに座ってスープにパンを浸しながらたべている。
両親がイチャイチャしているのを除けばごく普通の朝の光景の家庭。
「ムス。手紙が王城から来てた」
「え?なんで?」
(目立ってないし、父さんとしている装飾品店ダーラスだって、変な物は売ってない。一般から貴族向けの物まで売ってるが違法ではないし、うまくやってると思う。配達も注文された装飾品を届けているだけで、検問に引っかかってない。魔技師の方もそもそも注文は固定客しか承ってないし、身元と用途がはっきりしている人にしか作ってないし公表は表立ってしてないから、思い当たる節がない)
ムスの職業は魔技師だ。
魔技師とは魔工品を作る者。魔工品とは魔法を何かに込めた装飾品の総称で、一般的に石に込める。
「さぁ。私もわからん。読んでみたらどうだ?」
「食べ終わったら、読む」
三人が食事を終えて、仕方なく手紙をあけると中には今日の昼に王宮へ来いという内容が書いてあった。
「はぁー!?なんで、俺の名前なんだよ!城にどーしていかなきゃならないんだあーーー!」
ご近所に迷惑になるくらい大きな声で絶叫した。
叫びを聞いたペディロに諦めろと言われ、ユリアが慌ててお隣に謝りにいくという慌ただしい朝を迎える羽目になったのだった。