街
ラムはその言葉を聞くと立ち上がる。
「ムス、とりあえず着いてきて。私が一時的に防御魔法で塞ぐ。塞ぐの間に合わない状況でしょう」
ラムは傷口に触らないように歩きながら玄関に向かっている。
「え!?ちょ、距離あるよ」
(あまり無理させたくない)
慌ててムスが後ろをついていく。
「見えれば塞げるよ。防御魔法は目視距離が最大射程。強度の問題で長距離で使わないだけで、魔力が多い人なら長距離でもそこそこの強度にはなる。正式に塞ぐまでの時間稼ぎになる。早くしましょう。モンスターが入る方が面倒」
(自分はできるって言ってるということは、やっぱり強すぎでは)
ムスはラムのはっきりした物言いと決意に頷くしかない。
「あ。はい。綻びた陣ははっきり見えるの?」
「流石にそれは遠くてみえない。門外ギリギリにあるでしょう?」
「結界だからねー。やっぱり見えないか。じゃあ、図面描くから待ってて」
「覚えてるの!?」
ラムは目を丸くする。
「まあ、一応。住んでる場所の結界に使ってる魔法の陣ぐらいは。あれ、1ヶ月に1回点検してるけど、近づけば見えるし。これだよ。綻びは範囲だね。強度強化も壊れたかも」
さっと紙に《光の精霊》(シールドライト)の陣の✕と丸い円の模様に上下に数字が描いてある。数字が範囲だが、強度強化に鎖模様であちこちに装飾された陣である。
「これが元の陣、今は下半分消えてるからこの辺消えてるよ」
紙を破ってラムに渡す。
「ありがとう。これぐらいの範囲なら問題ないね」
扉からラムが外にでようとすると
「ラムちゃん、私も行くわ。心配だもの。ペディロもついていけって」
ユリアが後からラムを護るように前へ出る。
ラムより先に玄関の扉に手をかける。
「ペディロさんは?」
「父さん、強いから大丈夫。こっから魔法を使いながら闇魔法で隠れられるから。1人の方が強いよ」
(多分、コーグに伝言頼みながら攻撃するか、遠視魔法使って魔法を使うだろう)
「ええ。まともにやり合うより影から魔法飛ばした方が強いの。いきましょう」
「わかりました」
3人は一緒に扉をあけて外へ出る。
ーーーーガァァァアアアアーーーー
咆哮が聞こえる。
獣の声。
空を見上げる。空は魔法の陣で埋め尽くされ、結界が張られている。
その中に黒い点がある。それは、ゴツゴツした翼に蜥蜴のような胴体をもつモンスター。おそらく、ワイバーン。
ワイバーンは街の外側を浮遊している。
門近くに留まっているのはギルド所属の冒険者達が応戦しているから。
そのワイバーンが入るぐらいに結界に穴が空いたのだ。
ラムが神経を研ぎ澄まして魔法の陣を見ようとした時、
「あそこ。共有使えば一発だろ」
ムスがラムの手を握って指をさす。
「あーー」
ラムが息を呑んだ。
「え。これ、全部見えて」
ラムが空一面を見たまま固まる。
(一気に魔法の陣が見えるようになったら、驚くよなぁ。だから、普段は使わない。お店に視線を合わせると守護の陣が見えたり、王宮に何重もの魔法の陣がみえたりするぐらい技能値が高いから)
ムスは自分の技能値が高いことを自覚していた。普通は視界に入った魔法の陣や守護系の協会が使う加護まで見えるのはありえないから。
「技能使ったから。技能名は〈見破り〉。共有は手を触れればできる。魔技師の固有技能の1つだよ。本来は魔工品の内容を見極める技能だけど、俺はこの技能強いから。応用すると魔法の陣は全て見えるようになる。見えすぎて気持ち悪いなら、弱めるよ。大丈夫?」
「ううん。見えるならちょうどいいから」
ラムはムスが指さした方をみると、魔法の陣が途切れ、穴が空いているのがわかる。
「敵が襲ってくる様子がないみたい。ラムちゃん、私が抱えるわね」
ユリアはラムの身体を気遣い、腕に座らせる。
「ありがとうございます。頑丈なる盾、我等を守れ。《光の精霊》(シールドライト)」
ラムはその場で強い魔力を込めて光魔法を唱える。
淡い白い光がラムの身体を包んで弾ける。
結界の綻びにぴったりと重なり、穴が一時的にかさぶたのように塞がった。
魔法の陣は綻びを修復してる人がいるので、少しずつ復活している。
「すご。完璧な蓋。あれなら、問題ないね。制御できるってすごい」
ムスは魔法がわかるので、《光の精霊》(シールドライト)が完璧に蓋になったことがわかり、頷く。
(この距離からちょっと殴ったぐらいでは、壊せない強いものができた気がする。ラム、かなり強い魔術師確定だよ)
ムスは内心、ラムの技量に驚いていた。大魔法が使えるだけでも強いのに冷静で判断も早い。明らかに戦闘慣れしている。
「ラムちゃん大丈夫?」
「久しぶりだから、少しきついかな。でも、問題ないよ」
ラムは左右に首を振る。
(無理してそう。ゴブリンの時も痩せ我慢していたみたいだったし)
「ーーじゃあ、あれ加勢しにいくか。街を壊されたらたまったもんじゃない」
ムスがワイバーンを指差す。
「ラムちゃん、確か魔法の維持費がかかるわよね。近づきましょう。近い方が楽なはずだし、私が逃げ回るから任せて」
「いいのですか?」
ラムがユリアを覗き込む。
「ええ。私は速いもの。体力もあるし!ムスも街を壊されるぐらいなら、撃破しにいくわ」
「速く動きをとめて叩き潰さないとヤバそうだもん。流石にいくよ。まあ、殺傷力ないから倒せないだろうけど。そういえば、あのモンスターがはっきりよくわかってないけどワイバーンであってる?」
(念の為、間違ってたら恥ずかしいから)
「合ってるよ。ワイバーンとは戦ったことない?」
ラムが頷く。
「ない。実物見たことないけど、素材は知ってるから、予測が当たってよかったー。鱗があるから皮膚が硬いよね?だと、弓より魔法で落とした方がいいで合ってる?」
「合ってる。氷がいいよ。寒冷地からきてないなら、翼を凍らせれば落ちる」
「なら、《氷の精霊》(アイスストーム)を込めた弾でいいか。ありがとう。助かる」
ムスは銃弾を取り出してショルダーバッグから違う弾を込める。
「じゃあ、私は翼をもげばいいのね。よろめいたところに、付け根を狙って打撃を加えるわ!簡単でいいわね。いきましょう!」
ユリアがラムを抱えたまま走り出す。
「母さん、はやっ!まって、まって!高所取ったほうが有利だよ!」
ムスが後を追いかける。
「それもそうね!屋根に登らせていただきましょう。非常事態だもの、大丈夫ね」
「なら、私が魔法で」
ラムが魔法を唱えようとすると
「大丈夫よ!せーの!」
ユリアは元気よく断って、助走をつけて地面を蹴る。
猛スピードで走り抜け、家の壁を駆け上がり、屋根にぶら下がるとラムを抱えたまま壁を蹴りながらよじ登った。
「え。えええーー」
「あ、母さん!少し説明ーー、あー、行っちゃった」
「ユリ母さんの大ジャンプ!」
コーグは嬉しそうにはしゃぐ。
「あーあ。ラム、びっくりしてるよ。俺は魔法使おう」
ムスは手速く紙とペンを取り出し、《空間魔法》(テレポート)の陣を描き、場所を指定して移動を開始する。
ムスは魔法を使って屋根の上に着地することに成功した。
「母さん、めちゃくちゃすぎ。ラム、落ち着いて。母さんが尋常じゃないだけ。俺は普通だから」
(明らかに動揺してるよ。可哀想。母さんが普通じゃないと言っておこう)
「う、うん」
ムスの言葉に頷く。
「?じゃあ、行くわよ〜!」
ユリアはわからない表情をしたが、気を取り直して、声を出す。
「はい、お願いします」
「母さん、追いつける速さで頼むよ!」
1人は抱えたまま、ムスはユリアの後をついていく。
屋根の上を2人はワイバーンの方へ屋根から屋根へ走り抜けていく。




