商品
ムスはジールに頼まれた指輪の模様を魔針で彫っていた。
作業していたら、ラムが作業場を見たいと言ったので、席を用意した。ラムは大人しく座り、ムスの隣で作業をみている。プラチナの指輪に模様を彫るのが疲れたので、次はレース糸で薔薇の花が作る。七色光沢絹糸なので、綺麗である。
ラムは飽きないで、薔薇の花が作られるのをみている。
「うーん」
「編みミスした?」
「いや。してないけど、、、見てて面白い?魔技師になりたいわけじゃないだろうし、ただ糸が模様になるだけだしさ」
(見てるだけで楽しいのかな?)
ムスは隣で飽きもせず見ているラムに問いかける。
「私もマフラーぐらいは編むよ。刺繍も趣味で少しならできるから、見てても飽きない。寝てなさいと言われても眠くないから無理だよ」
椅子に腰掛けて身体を伸ばす。
「編み物できるの!?」
ムスは目を丸くしながら、ラムの肩を掴む。
「え。う、うん」
「うさぎ用アクセサリーのマフラーと手袋編んで欲しい。冬用アイテム。帽子、花、とりあえず編めるなら何でも!かぎ針使える?」
「マフラー、手袋ぐらいなら簡単なやつはできる。かぎ針は使えるよ」
「戦力きた!やった!説明書と本を持ってくるから待ってて!糸とかぎ針も!」
(作れるなら先に言ってほしかった!!これで、店頭に少しでも商品が並ぶ)
嬉しそうにムスははしゃいだ後、慌てた様子で部屋から出ていく。
ムスは超特急で2階に駆け上がり、書庫から目当ての本を1冊取り出す。次に物置部屋に移動。そこから糸とかぎ針の予備を仕舞っている場所から大量のレース糸を取り出す。素材は絹や綿、ウール等、色とりどり。あ、これも。これもと、糸を乗せていくうちに、前が見辛くなった。完全に山盛りである。
ムスは落とさないように階段を下りて、作業場へと戻る。
「持って来た!何編む?糸も好きなの使っていいから!」
本一冊とかぎ針、腕にいっぱいのレース糸玉を持って来てラムの前に近づく。
「え」
レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルーの他にも山程糸玉を抱えてきたムスにラムは目を丸くする。
「あ、あれ?父さんと重要な話してた?後からの方がいい?」
(反応が鈍い。好みの糸じゃなかったのかな?)
ムスは見当違いの方へと考えをめぐらせていた。
「ラムさんと世間話をしていただけだ。彼女は糸を山盛り持って来たから驚いているだけだよ。一気にもってきすぎだ」
「あ。あはははは。やり過ぎたかぁ。下ろすよ」
笑いながら糸玉を下ろす。すると、作業机の半分が糸玉で占める結果になった。その中からかぎ針を捜し出し、引き出しから本を1冊取り出す。
「かぎ針はこれで、お願い」
2号のサイズのかぎ針をラムは受け取る。
「糸は何でも良いよ!ラメ入ってるのもあるし、普通の絹糸や綿、後はベビー用品の柔らかいコットンもあるから!」
ムスは試しに淡い色の糸玉をラムの手にのせる。
「す、すごい」
レモン色の糸玉をラムは手の中で、もきゅもきゅと握ったり離したりする。
「それにする?あ、本はね、これとか、これ。こんなのもいいよ!」
ムスが見せた本は簡単な小物が作れるレース糸の本。初心者でもわかりやすい本だ。中身はマフラーや、手袋、花、コースター、帽子等の小さな小物が見本で作られていて、後に編み図が載っている。
「わぁ」
ラムは本を受け取ってパラパラとめくっていく。
「気に入ったやつ編んでくれていいから!時間はかかってもぜんぜん構わないから、丁寧に歪にならないように注意してくれればいいよ」
(興味津々みたいだし、これは好きなの選んでくれそう)
もう1冊本があるのだが、ラムは渡した本をすっかり気に入ったようで、離さなかった。そのため、残りの本は机に置いている。
「これがいい」
小さな花のワッペンをラムは指差す。
「これね!これは、たくさん編むと花束になるよ!」
本を開いたままクリップで固定する。台は音楽の譜面台のような物だった。
「これで花束に?」
「枝は針金使ってくっつけた。一つでも口に加えさせたら可愛いしねー」
「へー。なるほど」
「で、やり続けると集中力切れるから、休憩してもいいし、気分転換に持って来た」
引き出しの中から出てきたのは複雑な模様が描かれた一枚の布。済に刺繍されていて、どうやら蔦のようだ。
「これはバンダナ。全面刺繍で終わってなくて。後はハンカチ」
さらに引き出しの中から数枚の薔薇の花が描かれたハンカチ、まだ刺繍はされていない。
「薔薇は色違いで作製しようとしたけど、時間がなくて。ワンポイント刺繍だけど、飽きたらこれでもしてて」
薔薇の刺繍の仕方が書いてある記号図と見本、バンダナの方はプロがするような細かい色糸に複雑に刺繍する図面である。
「薔薇にするね、、、。バンダナはわかんない」
「ぐふっ。やっぱりこれ、難しくし過ぎたかぁ。父さんからも否定されて」
(完成したら絶対に綺麗だけど、とっても時間がかかる図面にしちゃったんだよねぇ。まあ、綺麗だからいっか)
ムスは本と一緒に薔薇の刺繍の仕方が書いてある記号図と見本をクリップで挟めた。
「色糸使いすぎだ。王室の装飾品飾るレベルの図面など、したくない」
「うぅ、ひどい。楽しいのに」
(刺して花になってくのが楽しいのに、父さんはあまり刺繍は好きじゃないから、わからないよね)
「売れるのか?かなり高いだろう」
「店前に飾る!刺繍レベルをアピールして客寄せするだけ!欲しい人がいたら売るけどね」
(完成図は素敵になるから、誰か買ってくれる金持ちはいるかもしれないし)
「はぁー」
「ため息!?なんで!?」
「いや、周りからお宅の息子さんは変わってますねぇって言われるのもわかる」
「えー!?」
ムスは意味がわからないと不満をペディロにぶつける。
「何で難解なやつを店前に飾りとして出す。普通はもっと簡単なやつをだな」
「惹かれないじゃん。客寄せにならない」
ペディロは頭を抱える。
「ーーまぁ、綺麗だとは思うけど店に入るかは微妙」
「え。ラムまで!?」
「敷居が高いと入らないよ。むしろ気軽で可愛い方が売り上げはよい。何をターゲットにするかだけど、、、。私ならチョークで看板を描いて、本日のおすすめで実物と一緒に面に置くかな。その方がいい」
「かなり、商法的なアドバイスがきた」
(チョークかぁ。可愛い絵を書けば客寄せにはなるよなぁ。黒板、安い時に買ってもいいかも)
おおっとムスが声をだす。
「だって、城下町でしょ。美しいのもいいけど、庶民向けならそうかな。盗難防止に魔法をかけとけば宣伝になるし。でも、生計をこれでたててる訳ではないでしょう?そこまでガツガツしなくてもいいのかな、とは思います」
「ーーラムさん、これでもムスはアクセサリー製作で生計をたててる。魔工品も顧客はいるが、そこまでではない。売れはするが」
「なら、今の生計が成り立つなら大丈夫だと思いますけど。わりと裕福だと思いますが」
「ムス、自分の趣味に費用をかけ過ぎだ!全く、、。売り物に金をかけろ」
「うっ、、。バレた。返せない」
(半分ぐらい趣味で大作を作りたくなって、バンダナ刺繍してるのバレちゃったよ)
ムスは項垂れる。
「売れないのわかってたの、、。じゃあ、なぜ私に勧めたの?」
「偶に燃えるようなやばい奴をやりたくなる、、。仕方ないじゃないか!売れるのは小さいのだし、可愛いのも好きだけど、たまに大作を作りたくなるのは、止められない、、!ラムさんに勧めたのは実は熟練者かなと思って」
「これが、職人」
ラムは何故かムスをみて納得している。
「まぁ、金勘定だけはしっかりしろ。もう、何も言わん」
「大丈夫、できたらティーダルさんに飾ってもらえる交渉はしてるから。大作は必ず見せるように約束してるから。少しは取り戻せる」
ムスは流石に無策ではないことを伝える。
「そうか」
諦めたように返事をするペディロ。
「私、編む。ムス、ここってどこになるの?」
「それはね、下の部分。ここが花弁だよ」
図面を指しながら説明する。
「えっと、立ち上がりは丸くするから、引き抜き編みで」
「うん、こうして、こう?」
「そうそう。後は目印にマーカー使うならこれ使って」
作り目用のクリップケースを渡す。中には可愛らしい鳥型のクリップが収められていた。
「ありがとう」
ラムはマーカーをつけながら、黙々と編み続ける。
(うん、うん。丁寧だし、編み目が均一。これは、いいものができそう。問題なさそう)
ムスはラムの様子をチラチラと見ていたが、大丈夫そうだとわかるとプラチナリングにまた月光草の模様を掘り出す。
そうして、時間は過ぎていくのだった。




