よくないもの
「え!?まだ、入れてないのに!」
ムスは慌てて立ち上がり、ネックレスから距離を取る。黒いモヤがネックレスから溢れてくる。
「だーめー!」
ムスの頭の上にいるコーグが、襲い掛かろうとする黒いモヤから守る盾を出す。
それはうっすら紫色を帯びた盾でムスを包み込む。
「隔絶せよ、大地より夜空より暗い場所へ《闇の魔法》(ダークホール)」
ペディロが落ち着いた声音で黒いモヤを捕まえようと魔法を唱える。
魔法が正確に発動。黒い球体が現れ、黒いモヤが球体に吸われ始めた時、一部の黒いモヤはムスから離れて違う場所へ向かう。
それは、金属の扉の隙間から部屋の外へ出ていく。
「あれ!?父さん、逃げられてるよ!?」
(目標が違う?)
ムスは自分が狙われると思っていたので、目を丸くする。
「強い魔法だ。全て吸い切るはずだから安心しなさい。黒いモヤなのに、一部が吸い込まれず逃げるということは意思があるか、目標があるか。これがトカゲの尻尾切りのように一部を犠牲にして生き残るものなのか、判断する必要がある」
「追いかけた方がいいよね?」
「ムス、その前にネックレスを分析していきなさい。コーグが守っている間なら大丈夫だろう。私の魔法なら時間がかかっても黒いモヤは逃さない。外に出るつもりなら、盗難防止の魔法を攻撃に切り替えた。今、出ようとするなら、磔だ」
「あ、はい」
(いつの間に、磔が発動するように切り替えたのかなぁ。父さん、やっぱりすごいよ)
ムスは父親が全く詠唱してないのに、いつ切り替えたのか疑問に思った。だが、父親は色々と魔法に関してはおかしいので、気にしてもわからないから、頭の隅に追いやった。
「コーグ、ネックレスに近づくから防御よろしくね」
「うん!任せて〜」
頭の上にいるコーグはムスから漏れている魔力を使って防御を張っている。
防御の強度を強化したので、ムスは魔力の消費が大きくなったのがわかった。
「えーと、集中して」
ムスは机に置かれたままの格子状のサイコロの中に白い石が入っているネックレスをよく見る。
そのまま技能を使う。〈見破り〉を使ってよくみるとーー
「あれ?」
「どうした、ムス」
「魔法の陣が増えてる、、。えー。最初に見破れなかったのか?これ、遠隔で視る魔法と、悪夢、、違うな、精神攻撃する魔法だ。しかも、追加でどんどん増えて。姿隠し?空間に閉じ込め」
(数分でどんどん増えて、解析が追いつかなくなりそう)
「ムス、対象は誰になっている?それは、今、ネックレスを媒介にして魔法を使っている証拠だ!はやく!」
ペディロがムスに途中で止めるように指示する。
「対象。対象はーーー」
ムスは追加される魔法の陣の解析をやめ、対象を探す。
マークを見つけるため、探すと女性のワンピース姿のマークに、赤いものがたくさんついている。
「えーと、女性で、、場所が2階、、ラム?もしかしてラム?」
ムスが2階にいる女性と示されているのをみて呟く。
すると、まだ、ネックレスから溢れてくる黒いモヤがムスに襲い掛かる。
「わっ!」
視界が黒く染まる。
黒が強すぎて視界が遮られる。
「む。コーグ怒る!どっかいけー!」
コーグが翼をはためかせた後、近くで爆発音がした。
ドゴーンという大きな爆発音と共に黒いモヤは瞬く間に黒い球体に吸われていく。
「コーグ、助かったよ。爆発音で耳が痛いけど」
耳鳴りがするムスは耳を抑えていた。
「わーー!ごめん。大丈夫?」
コーグは心配そうにムスの周りを飛び回る。
「暫く休めば戻ると思う」
「ごめんね、ムス。とりあえず、黒いモヤ出てこなくなってきたよ」
コーグは言葉を言い終えると、ムスの頭の上に大人しく座る。
「ムス、聞こえるか?」
ペディロがムスに近づく。
「うん、なんとか」
ムスは頷く。
「魔法は止まってるか?」
ペディロの言葉に慌てて、ネックレスに視線を向ける。
ネックレスから見える魔法の陣は止まっていない。
「止まってない、、。え。黒いモヤがいないのに?逃げたのは吸ってないからもう消滅してるはず。なんで、ラムが狙われてるの?力は弱くなってるけど、やばい」
目を丸くして、ムスは慌ててラムの部屋に行こうとする。
「ムス、まて。これで止まらないなら、呪いか追跡攻撃されてる。魔法を返さないと終わらない」
「ーーーー誰、そんなことしてるの」
(皆に不幸をばら撒く呪いは許せない。ラムは見るからに人を不幸にするような悪い人じゃない)
ムスの声が一段とトーンが低くなり、目つきが鋭くなった。
「念の為にユリアを呼ぶ。ラムさんを守って貰おう。私が干渉しているのに対しての防御を張ろう」
「まずはラムを見てからだけど、全部返していいよね?追跡は?」
「私がしよう。返した魔力を追う」
「わかった。手加減なしで相手を叩き潰していいね。コーグ、いこうか」
「うん。防御するー」
ムスとコーグ、ペディロはそれぞれ移動を開始する。
コーグはムスの頭の後に移動して張り付いていた。




