嘘はつけない
ーー翌日ーーー
昨日、ムスは下の仕事場で夜を明かした。怪我をしている彼女が目を覚まさなかったため、心配になり自室へ様子を見に行くことにした。
起きてないだろうと思いつつ、扉を空ける。
「ーーあ!起きた?気分は?って、ベッドから出ちゃ駄目だ!だめったら、だめ!!」
身を起こそうとするラムに慌てて駆け寄って、ベッドに寝かせる。
「ひどい怪我だし、貧血だし、寝てろって。どこか具合い悪いとこある?」
(危なかった。様子を見に来てよかった。彼女、歩こうとしてたよ)
ラムをみると、真っ青だった顔は紅が戻り、具合も良さそうだ。
ムスは様態が悪化しなかったことに安堵する。
「大丈夫。手当、してくれたのでしょう?ありがとう。迷惑かけたから、一日休んだらすぐでていく。急いでるし」
ラムはとんでもない事を言い出した。ムスは引き止めなければと思い慌ててまくしたてる。
「いや、一日で治る怪我じゃない!仮に回復魔法使えても、開いた傷には効果が薄いだろう!迷惑とか、そういう問題じゃなくて。ーーあ。 いや、えっと、あ、う」
(うわぁぁぁぁ。余計なこといったぁぁぁ!怪我の内容言っちゃだめだろ、俺!やっぱり隠し事できなかったああ!)
ムスはやってしまったと、顔を手で覆い隠す。
「?ムスさん、どうしたの?」
ラムは自分を覗き込んでくる。
きょとんとしている顔は子供っぽい表情。着ている寝間着は母さんの趣味でシンプルな黄色のワンピースで可愛らしい印象を受ける。
(後悔しかない。なんで、男だと思った。明らかに綺麗な顔立ちだった、仕草は可愛らしいし、華奢だし、軽かったし、女性だと思えよ、当時の俺。うう、許してくれますように)
ムスは心のなかで祈りながら、会話を続けることにした。
「あ、名前、覚えててくれたのかーー。じゃなくてーー。 うん、ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げる。
「?」
「あーー、その、傷が酷かったから、落ち着いたからしっかり薬草使って手当した方がいいと思って。で、俺、てっきり、男性だと思ったから遠慮なく服を脱がせてーー、その、身体、見ちゃって。ーー本当にごめんなさい。触る前に母さん呼んだから、母さんに手当してもらった。でも、見たことにはかわりないからーー、本当にごめんなさい。殴って気が済むなら殴っていいし、責任取れっていうなら、責任取る。最初によく確認しとくべきだったーー」
暫くの沈黙。
ムスは何をされるか、身構えながら頭を下げたままラムの言葉を待つ。
「ああ、そういうこと。最初に応急処置してくれたから、その時に気づいたと思ったのに。今の会話なら黙ってれば気づかなかったよ?」
「ーーえ?あ。ーーうわぁ、やったか、俺」
(墓穴ほったぁぁ。馬鹿すぎだろ、俺)
やはり、自分は隠し事は苦手だと自覚したムス。
「ふふ、嘘ヘタだね。ーー大丈夫。手当してくれた人に責任取れとか言わないよ。わかりにくい服装にした私も悪いし。しかも、見ようとして見たわけしゃなくて、手当しようとしてくれたのでしょう?戦闘に出れば、そういうのは普通だもの。気にしないよ。まあ、故意的にした人なら燃やして縛るぐらいはするけど」
(なんか、燃やして縛るとか末恐ろしい言葉を聞いたが、許してくれるようだ)
「ーーよかったぁ。話がわかる女性で」
ムスはホッとして、顔をあげる。
「うん。とりあえず、いかないと」
(なんで!?本当に急いでるってことか)
「いや、まてって。何か事情があるのは察するけど、今動くのは治りが遅くなるからだめだって。何したいの?代わりに行ってくるから。とりあえず、寝て」
驚きつつも、起き上がろうとしたラムを再び制する。
これは事情を聞くしかないと思ったムスはラムが口を開くまでまつ。
「ーー妹を探しに来たの。妹が攫われて。兄さん達は大丈夫だって言うけど、心配で。婚前だし、なんとかしたい。魔法で探したのだけど、馬車が多すぎて絞りきれなかった」
(婚前の妹を拐われたら、心配になるよな。急ぐ訳だ)
「ーー深刻なのはわかった。人拐い、か。最近、王都でもおおいし、物騒だ。情報収集したいってことか?」
「うん」
ラムは頷く。
「ギルドに頼むのが速いと思うが。特徴は」
「名前はアルマ。年齢16。身長165cm。職業、拳闘士。金髪のショートカットに空色の瞳。私より活発で、軽装を好むかな。その辺の剣なら叩き折れる、魔法は回復魔法が使える」
(母さんレベルだ、、、人拐い、倒してますよ、それ)
「ーー探す前に人拐いぶっ飛ばしてそうな気がするのは俺のきのせい?」
依頼を出すべきかと悩むムス。
「婚前の女性だよ!もし、何があったらと思うと心配なの。お相手も待ってくれるかわからないし。何年も見つからなかったらーー、私が探知魔法かける前に剣士に邪魔されて。あの人は強い。私の魔法二種合せ技を回避されたし、あの人がいるなら危険なの!アルマに怪我してほしくない」
ラムは必死に訴える。
ムスは、魔法二種合わせ技を回避という単語に反応する。
「ーー腕利きの奴がいるのか。もしかして、その傷は」
「その時に切られた」
(ゴブリンの群の立ち回りからして、切られるというのは相手が相当な腕だということを証明している。これは、話が変わってくる)
「ーーー、依頼してくる。母さんがギルドに加入してるから、何か入ったら連絡してくれるように頼んどくよ。だから、大人しくして待ってて」
(王都の人拐いと関係してないといいが)
「いいの?」
申し訳なさそうな声。
あまり人に頼ったことがないのかもしれない。
「また、倒れられる方が迷惑。それに」
「それに?」
「ラムも女性なんだから、後衛職が一人で歩かない。人拐いも多い。魔法を無効化する道具は山程ある。危険だ」
「心配してくれるの?」
(ああ、あまり心配されたことないのかな。ありえないみたいに、驚いているから)
ムスは少しだけ悲しそうな表情をする。
「当たり前だろ。俺も後衛職だけど、一応、近接も護身程度には使える。後衛職といっても、俺は阻害系を使えるから一人でも平気だし、いざとなったら拘束してる間に逃げれる。魔法は威力は申し分ないが、どうしても詠唱時間か陣を描く必要がある。詠唱時間はある程度は短縮できるけど、場所指定は集中しないと精度も落ちる。速い人は速いが時間はかかる。前衛職がいない場合、一人で旅するには最も向かない職業だ」
「ーー詳しいね。陣なんか普通は使わないよ。陣を描いた場所に範囲指定されちゃうから」
やっぱり、ラムも陣を知ってるか。
今は魔法師でも陣を書いて魔法を発動させることはない。下手をすれば、知らない場合もある。理由は簡単。使わないからだ。描く時間がかかり、範囲指定され、発動に時間がかかるなら、陣ではなく詠唱した方が速いから。
ラムは魔法師でも珍しく勉強家だとムスは思った。
「普通は、な。でも、王宮は陣で魔法を張ってあるだろ。陣は護りには便利だ。発動条件はおそらく、邪な心をもつ者が入ったら、魔法内容は自動排除する系。強力だからここからでも見える。綺麗な陣だし、認識阻害魔法、隠す魔法が何重にもかけられてる。見ようとしないと魔法があることさえ気付かない。正直、気づく奴が何人いるかだけど、ラムは見えてるよな?陣を知ってるなら」
「ーー!!」
ラムは目を丸くして固まっている。
ムスはその様子を見て、納得する。
「ーーやっぱり見える、か。その魔力の多さなら。まぁ、俺は一人でも何とかなるから。土地勘もあるし、心配しなくていい。ギルドに頼んでくるよ。あ、忘れてた!食欲ある?」
ラムに慌てて聞く。
「う、うん」
「食べれないのとかある?」
「ないよ。辛いのは苦手だけど」
「よかった。母さんに食欲あるって、言っとくよ。食べれるなら食べた方が治りも速いし。早速、出かけてくる。あ、そうだ。父さんにも言ってあるから、治るまでうちにいていいから。ただ、父さんは日光に浴びると火傷するぐらい皮膚が弱くて。だから、窓を開けるときは事前にいっといてくれ。じゃ、後でまたくる」
ラムが元気そうなのを確認すると、扉から出ていく。




