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草原


ーーーームスはそのままゴブリンを無視して森を抜けたーーーー



 ゴブリンはなおもムスのことを無視している。


「ムス、この辺はゴブリンだけだよ。さっきの子は左側にいる。すごい勢いで倒し続けてる」


 コーグがムスの肩で言う。

 

「じゃあ、怪我したのはその子か。血の匂いもそっちからする。じゃあ、そろそろ」


 ムスは革で作られたホルスターから銃を取り出す。

 武器である銃は小さい泥団子ような金属の弾を中に入れて、トリガーを引くと弾が飛び出していく仕組み。弾があたるとモンスターにダメージを与えられる。用は弓みたいな武器である。

 そして、ムスは弾に細工していた。弾が当たった瞬間に魔法が発動するように弾に魔法の陣を刻んであるのを数個用意してある。これなら、遠距離から魔法使いと同じように攻撃できる。しかも、弾に刻んでいるので魔法防御では防げない。手間はかかるが、身を護ることに手は抜いてはいけない。 

 銃に弾をセットする。この弾は《闇の精霊》(影縫い)が刻んである。動きを止める効果がある簡単な闇魔法。


「コーグ、とどめは任せる。とりあえず、向かってるゴブリンを倒しながらいこう。それで、目的の人が見えたら攻撃を止めてくれ。相手はコーグが見えないだろうから」


(精霊がみえない相手からしたら、詠唱なしでモンスターが吹っ飛ぶホラー映像。怪しまれるのは避けたい)


 肩でコロコロ転がっているコーグにお願いをする。


「わかったー。見えないと困るもんね」


 コーグは素直に頷く。

 ムスは手始めに自分から近い位置にいるゴブリンに銃をむける。

 パァンと高い音が響く。

 弾がゴブリンに命中した事でゴブリンがやっとムスを認識する。

 でも、一番近いゴブリンは《闇の精霊》(影縫い)の効果により動けない。他のゴブリンも叫び声に気づいてムスに駆け寄るがそれは遅い。


「バイバイ!」


 コーグがそう言うと黒い球体が身体の前に浮かびあがり、同時に複数のゴブリンの影から黒い手が伸びていく。 

 そして、ゴブリンが手に捕まった瞬間、球体が消えると同時に影に引きずり込まれ消えた。

 ゴブリンがいた周囲には何も残らなかった。ただの緑の草原が広がるばかり。見える範囲は仕留めたので、ゴブリンもいなかった。


「相変わらず、えぐい、、」


 引きずり込まれた先で黒い球体にとどめを刺されていることを知っているムスは怖がる。


「だって、ゴブリンの素材使う?」


「使わない」


「なら、地面に跡がつかないようにぺしゃんした方が草木きれいだもん。影の中で潰すの正解」


 コーグは手加減より草木を優先したのだ。


「確かにそうだけど、もう少し慈悲を。痕跡を残してもいいよ」


「なら、黒焦げにする?置物になるよ」


「やめろやめろ。こわいこわい。最初のでいいから。進むぞ、進む!」


(墨にするつもりだ)


 コーグは自分の家族とお気に入りの人達以外には厳しい。コーグにとって置物は慈悲扱いだった。

 ムスは諦めて先に進むことにする。

 目的の人物が見えるまでコーグど撃退しながら進むと1人の人物が見えた。

 格好は紫のシンプルなカットソーに、茶色のズボン。肩にショルダーバッグをかけ、腰に細剣を帯剣している。


(武器を使ってないってことは、脇腹とか腕を怪我したのか)


 ムスはあちらの方はまだ、自分に気づいてないのを確認する。


「コーグ、消滅やめな。足止めだけして近づく」


「わかったー。肩でコロコロしてるー」


 コーグは頷くと攻撃をやめて、肩に転がる。


「って、囲まれてるからあぶな」


「打ち砕く閃光、貫け闇を《光の魔法》(ブレイクライト)」


 早口の詠唱。

 魔法の発動が圧倒的に速く、ゴブリンの急所に的確に突き刺して絶命させていた。

 しかも、位置関係を把握して一番近いのに命中させつつ、近づかせないように倒している。


「すご。一回で複数のゴブリンに当てて立ち回っているのか。ーーよし」


 ムスはゴブリン相手に弾を当て、動きを止める。


「大丈夫か!?」


 ムスは声をかけながら、ゴブリンの動きを止めつつ、怪我をしている人へ駆け寄った。

 顔をよくみると、乱雑に切られた髪はショートカットの金髪。光があたるとキラキラと光っていて手入れがされていることがわかった。アイスブルーの瞳はブルートパーズのように透きとおっている。

 目鼻立ちも整っていてとても綺麗な子だ。

 魔法師が1人で戦っているのはとても珍しい。魔技師の技能〈見破り〉で軽く相手の能力をみた。

 本来は宝石に対してどれくらい魔力が入るかや、呪われていないかをみる技能なのだが、魔力をみるぐらいなら簡単。

 魔力、絶大。他、ネックレスに変な魔法の陣が見えるけど害はない。

 勘的にも、強いというのだけはわかった。だが、近づいてみたら酷い血の匂い。見た目以上に血を流しているようだった。


「ちょっ、止血先だろ、それ!ゴブリンの動き止めとくから、止血しとけ!」


 ムスは慌ててショルダーバッグから青色のハンカチを相手に差し出す。


「ーー?聞こえない?」 


 相手から反応がない。むしろ、自分をみて固まっている。よくみれば視線の先は肩。肩にはコーグが暇なので、コロコロ転がっているが。


(まさか、見える?精霊が見えるのは極少数。相手が見えているとは思えないが)


「おい!?聞こえてるか?、、まさか、意識が遠のいて」


 慌てて相手の手を掴んで揺さぶろうとする。


「ーーあ。ちょっと驚いただけ」 

 

 相手はハンカチを受け取った。

 だが、止血はせずにハンカチを握りしめ聞き返す。


「動き止められる?」


「え?あ、ああ。射程内に入れば。動きは一時的。最短1分、最長2分が限度。ゴブリンは魔法耐性が低いから、感覚ではあるがそれくらい、だな。見る限り強力ではないから最長が効くと思う。速く止血しろよ」


 ムスは何発か撃ってゴブリンの動きをとめていた。

 相手を心配しつつも、警戒はゴブリンにむけたまま、質問に答える。


(血の匂いがきついから止血して欲しいけど、まだする気ないな、これは。マイペースなのか、確実に相手に隙ができてから余分な行動をするか。おそらく、相手は後者の人で場数を踏んでるタイプだろう。お互いに初対面。どれくらい時間があるか計算しているみたいだ)


 ムスは諦めながら答えている。


「射程はいくつ?連射制度は」


「えー、25メートルぐらいは殺傷力ある状態で撃てる。当てるだけなら50メートルぐらいか?弾によるが。連射速度は5秒に一発ぐらい。弾切れがあるから、七発撃ったら補充しなきゃいけないが、30秒ぐらいでおわる。けど、俺の武器は殺傷力にかけるから、群れなら逃げた方がいい。止血さえすれば、すぐ近くに王都があるから、詰め所で対処すれば大丈夫だ。逃げるぞ」


 口早に言って、左手で方角を指し示す。

ムスとしては2人で逃げようと提案したつもりだったのだ。だが、相手は


「時間が稼げればいい。ここで、仕留める。門にモンスターがたくさんいたら大変でしょう?」


 予想できない末恐ろしい回答がきた。つまり、相手さんは時間さえ稼げればこのゴブリンの群れ(30近く)を一網打尽にできる攻撃があるということだった。

 魔法師怖いと思った。しかも、肩で転がっているコーグは普段は黙っているのに


「ムスー、この子、魔力集中し始めたから大魔法使うつもりだよー」


 と暢気な声で知らせてきた。

 

「は?いや、ま、止血をー」


「紅に染まる焔。紅く、赤く、朱く。火の精霊が舞う空。時が満ち、蒼い空が染まる夕暮れ。地平線から覗く太陽が世界を照らす」 


 本当に大魔法の詠唱が始まった。

 俺は付き合うしかないなぁと諦めてゴブリンの動きを止めることに集中することにした。



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