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商売道具


ーーーー王都から東にある町[バラーヤイヤー]にムスは《空間魔法》(テレポート)で飛ばしてもらったーーーー 



 今日の空は雲一つない晴天。

 町の街路樹は全てピンク色の可愛らしい花が咲く桜が植えられている珍しい町。今はちょうど桜が咲き乱れ花吹雪となっていた。

 この大通りの町並みは全て木造建築で統一されていて雰囲気もよい。今の時期は観光としても人気で人がごった返すほど多く、景観を楽しむには飲食店や流れる川に浮かんでいる船の上からしかゆっくりみれない。   

 商店街の飲食店や宿泊施設は今がかきいれどき。凄まじい客引きの声。

 ムスはその大通りを強引に横切って、商店街の奥、鍛冶屋や武器屋、ギルドが立ち並ぶ方へと足を進める。

 その中でもレンガ造りの鍛冶屋だとわかる剣と盾の下に『ガーディア』という名の看板が掲げられている店へ入る。


「いらっしゃいませー」


 ムスはいつも通り動きやすい半袖のシャツに、ズボンの軽装。ショルダーバッグを肩に下げた他所行きの格好。腰には自分の武器である愛用の銃を右の革製のホルスターにしまい、弾丸は左側のホルスターにしまってある。

 奥には火が燃えており、トンカチの音がする。

 床は汚れており、数名の職人が作業中。

 入口近くのカウンターは流石に綺麗ではあるが、無造作に置かれている印象だ。

 無愛想な挨拶にムスはすかさず返す。


「いらっしゃいませー!」


「は?って、お前かよ、ムス」


 意外な返答に奥で作業をしている、腕がパンパンに膨れた筋肉質の男性が顔を上げる。

 客をみた瞬間に厳つい顔をしかめた。


「いらっしゃいませー!」

 

 にっこり笑ってムスは言葉を繰り返す。


「あー、もう、いい。修理した魔針をもってくるから。お代はいつも通りそこにおいてけ」


「追加で魔針よろしく!」


 依頼していた一番細い魔針の予備の道具である、同じ物2本をカウンターにだす。


「ま、た、か!お前、摩耗しすぎだろ」


「だってー、うさぎのアクセサリーが好評で!小さいの造るからさ、一番細いのだけ摩耗激しいのは仕方ないだろー。4本あるけど、1本だけじゃ完成しないし。今回は強敵プラチナとエメラルドだからね!1本は半分で駄目になりそうだし」


「どれぐらい彫るつもりだ」


 諦めた男性が修理した魔針をカウンターにだしながら、ムスに尋ねる。


「結婚指輪の裏面に最小で模様を全面。エメラルドにも水、花、土、風、閉じ込め、強度強化、魔力変換は刻むね!」


「地獄か、それは。その2つも急ごう。終わったら届けてやる」


「いいのか?」


「プラチナに全面は足りないだろう。お前の消耗的に2本で無理に決まってる」


 男性は呆れながらムスを見ている。


「えー。そうかなー?あ、ベルベット青も注文よろしく!用途は結婚指輪の入れ物で。外側に刺繍するから、空間いれといてね!内側もレース花いれるから空間よろしく!」


「無理だって。はぁああ!?ここは鍛冶屋だ!ベルベットは自分で調達しろよ!せめて革だろ!ベルベットは違う店いけ!」


「えー。ホルスター作ってくれたじゃん。加工上手いだろ?素材も伝手あるだろ、伝手!俺が見つけるより、ぜっっったいベルベットいいやつ見つけられるだろうし、頼むよ〜。貴族が見栄でベルベットで造れって依頼来るだろ?」


(お飾りの剣だと、鞘の内側は革だけど外側はベルベットだったり、ベロアだったりすることはよくあるのだ。実用的目的だと全くの邪魔だけど)


 にこにことムスは笑いながら言う。


「お見通しかよ。この、装飾品マニア。ーーーったく、ふんだくるぞ」


「いいよ、相手に請求するから。納期は夏までね。因みに、最高級の素材で最高の腕利きの人に作らせてね。でも、実用的じゃないのはアウトな。高価であればよいって客じゃなくて、いい素材で上品でいい品物が欲しい人だから」


「へー。随分、気前がいい客だな。品物の価値をわかるのもいい。依頼人は?」


「言ってもいいが、叫ぶなよ?」


「約束する」


「ジール王子。造るのはプロポーズする婚約者用の結婚指輪。因みに片方は完成しているから、片方もなるべく同じように造らなきゃいけない」


「ーーーな、ま、、、ちょ、嘘だろ!?そもそも、王室の魔工品はお抱えが造るだろう。何かの間違いじゃないか?」


 叫ぶ前に言葉を飲み込み、驚いた表情でムスに聞き返す。


「えー、今の王室お抱えの魔技師が仕組みを理解できなかった。たまたま、俺が呼ばれて、まあ、仕組みが俺以外にわからなかったという。一応、招待状も持って来たけどみる?」


(まぁ、普通は信じられないよなぁ、、。俺もそうだったし)


 鞄から手紙をだす。


「いらん。恐ろしくてみたくもない。で、お前、解読したのかよ」


「できた。設計図あるから、他の人もできると思ってたよ、俺は。一人は技能不足の適正なしだから仕方ないとしても、皆で協力すればいいのに」


「ーーーわかった。結婚指輪の入れ物は用意しといてやる。最高の品を造ろう。できたら、連絡する。で、お前は大丈夫なのか?」


「?大丈夫って?」


 首を傾げる。


「スランプになったらやばいだろう。そもそも、手が震えそうな品物だぞ?大丈夫か?プレッシャーに押しつぶされるなよ?」


「ああ、そういうこと。結婚指輪は前も造ったことあるし、それと変わらないから気負いはないよ。それに、加工は前の人がしてくれてたから、彫る作業と魔力を入れるだけだから大丈夫。完全に同じ物にはならないって言ったし」


「一番重要な作業だけ残ってるじゃねーか!それは、大丈夫と言わねぇ」


「でもさ、本当に石のカットしてくれて助かったから。カット技術は俺の方が明らかに技能下。だから前任者は彫ると魔力を入れるのを残したんだと思う」


「知り合いなのか?」


「うん。もし、仕事で食ってけなくなったら、食わせてやるから来いって言われるぐらいには気に入られてたから。多分、魔力入れが得意なのは見抜かれてたはずだ。彫るのもね」


「魔技師同士の会合はこわいな、、」


「こっちは、生存確認みたいな意味もあるからね。俺は完全に鑑賞会としてきてたけど。皆が造ったやつタダで見れるとか得しかない!みんな、可愛くて綺麗で最高で。石の輝き、糸の煌めき、バランス、色合い。あー、みんななんて素敵なんだろう!」


 作品を思い出したムスは目に焼き付けた皆の魔工品を思い出して幸せそうに笑う。


「あ。しまった。戻ってこーい!ムス、請求書、払え。請求書!金!現実に戻ってこい」


 ムスの肩を揺さぶる。


「ふふふ」


 完全に聞こえてない。


「ちっ、てりゃ!」


 おもいっきり舌打ちした後、一番軽いトンカチを道具箱から取り出す。


「いたい!ちょ、トンカチで肩を叩くなよ!いたいって!3回も叩くなよ!」


 ムスは文句をいう。


「話しかけても反応がないなら、殴るしかないだろうが。金を置いてけ。依頼書を書いてけ」


「ひどい。名前でかけばいいの?ソーマス?」


「店の名前にしろ。俺の名前を使うな」


「はーい」


 ムスは言われた通りに紙を取り出して、依頼書、『ガーディア』と書いて、物はベルベットの青、結婚指輪入れとかく。補足に刺繍糸の番号をかき、合う色にしてくださいとかく。納期は夏まで厳守なので、でかでかと文字を書いた。別の紙に、魔針2本もかく。

 自分の方にも注文したとメモを残す。

 自分の魔針を受け取り、ショルダーバッグにしまう。代わりにお代の1000ラータをだす。


「できた。後は代金も」


「ーー確かにもらった。修繕と強度強化はしたが、そろそろその魔針は寿命だ。新しいのに新調した方がいい」


「やっぱり、そろそろだめ?」 


「後、2回の修繕が限度だな。3回目は折れるかもしれん」


「じゃあ、1本頼む。先はダイヤモンドで。芯は鹿の骨、牛の骨、おすすめがあればその骨で。軽くて丈夫なものならいいから。結婚指輪で納期カツカツで暫くは減らないから時間がある時でいいよ」


「そうか。なら、時間がある時にいいやつを見繕っておく。準備ができたら手紙を出すから見に来い」


「そうする。じゃあ、よろしくな!」


「ああ」


 ムスは明るく『ガーディア』を後にした。




 

 



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