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ちょとした用事


ーーー王都の人通りの少ない教会にてーーー


 建物は王宮についで二番目に大きく、明るい季節の花が咲く庭園と清らかな水、聖水が湧く聖女の祈りの間、数人の居住区、ミサが開かれる大広間、外の入口に続く受付の部屋で構成されている。

 朝には人がたくさんいるのだが、今は日が傾く夕暮れ。遅くには人があまりいない。

 ムスは受付の部屋にいた。

 受付の部屋は複数の木のテーブルと椅子があり、協会の受付を担当する人は一番奥にいる。奥行きがあるため、この部屋は広い。

 ムスは奥にいる受付の人に用を申し付け、近くの席に座る。聖騎士長が来るまで待つことになった。

 時間がかかるだろうと思ったムスは人が周囲にいないことを確認する。

 すると、小さな声でコーグをよぶ。


「コーグ、ちょっとおつかい頼まれてくれないか」


 座ったまま何気なく、声を出す。

 精霊は見える人が少ないため、怪しまれないようにぼーっとしているように見せるためだ。


「いいよー。なに?」


 呼ばれたコーグは瞬間的に現れ、お気に入りのムスの肩にぽすんと座る。


「ジールに土と種も使うから水やり用の水魔法を貰ってきてほしい。冷たくも熱くもない5度ぐらいの温度が目安で。最悪、凍らない温度であればいいと。今日中ならくれると思うから」


「いいよー。砂糖菓子ねだってもいい?」


「高いものじゃなければな。後はジールがいいなら」


(ジールが電話している間に頼むつもりだな)


 笑わないようにこらえながら、ムスは答える。


「帰ってきたらご飯、一緒に食べよ!」


「そうしよう。頼むな」


「うん!」


 コーグは返事をすると、蝙蝠のような翼から景色に溶けていくように、姿が透明になっていく。やがて、コーグはムスの肩からいなくなった。

 ちょうどコーグが消えた数分で受付の人から呼ばれる。


「ムスさん、お待たせしました」


 後に赤いマント、無骨な銀光する肩当てと鎧、腰に騎士剣を帯剣した厳つい顔つきに短く刈り上げた聖騎士長がムスの前まで来て、丁寧に礼をする。


「セイジさん、お久しぶりです。聖水の予約をしたいのですが」


 丁寧な聖騎士長セイジに習い、席を立って頭を下げる。

 お互いに席についてから要件をいう。


「そうでしたか。では、聖水が余った時に聖騎士の者に知らせを向かわせます」

 

「お願いします。自分は明日から数日出かけますので、いない場合は母に知らせてください。母がこちらに伺いますので」


 聖水は毎日、一定の量で湧き水のように湧く。聖水は浄化や傷口の消毒、軽い呪いや毒を薄める効果がある。症状に効果がある薬草と一緒に使うことで薬草の効果が倍増する便利なものだ。なので、聖水は普通は瓶に入って薬草店やギルドで売っている。売れはするのだが、聖水は水源がある場所では毎日たくさん湧くため、聖水が売り捌けず大量に教会に貯まっていく一方。教会も大量の聖水の保管は大変なため、大量に使う商売人や武器職人等に余った日は格安で売るというシステムがある。大量にいる人は予約すれば、そのシステムが使えるため、予約だけしにきたのだ。


「わかりました。そのようにします。今回はどれくらい欲しいですか?」


「いつも通り水瓶2つ分で大丈夫です。すぐ入り用ではありません。余った時に水瓶を持って汲みにいけば充分です」 


「わかりました。予約表を持ってきます」


「お願いします。セイジさん、後は今日の聖水が余っていれば、2瓶ほど頂きたいのですが、ありますか?」


「護身用ですね。今日はまだあります。そちらもご用意します」


「ありがとうございます。では、お願いします」


(一応、出かけるなら何かのために持っておいた方がいい。傷を負うつもりはないが、傷口の消毒と浄化ができる聖水はあって損がない)


「お待たせしました。こちらが予約表で、聖水2瓶で400ラータになります」


「ありがとうございます。お代です」

 

 ムスは財布から聖水の代金を払い、予約表を受け取る。日付と名前、住所と聖水の量を書いて予約表をセイジさん渡す。


「確かに受け取りました。処理しておきます。

ムス、外に行くなら気をつけてください。最近、外のモンスターがおかしいようです。しかも、王都で女性の誘拐が多数多発しています。今、どちらも王が部隊を派遣して原因を調べていますが、時間がかかりそうです」


「わかりました、気をつけます。ですが、モンスターの様子がおかしいとはどういうことですか?」


(誘拐、、誰か何の目的でしているか気になる。近所で被害にあった人もいる。正直、早く犯人が捕まって欲しい)


 ムスは誘拐の話は奥様方の会合から情報を得て知っていたのだが、モンスターは初耳なので聞き返す。


「ゴブリンが集団でいるようです。群をつくるモンスターではありませんが、最近は10人以上いるそうです。他にはウルフは従来から農作物を襲いますが、今の春の時期になぜか被害が多発しています。普通は実りが多い秋に多いはずです。ギルドも首をひねっていますし、被害者が増えるので聖水の出荷が増えています。ムスのように商品のために使うなら歓迎しますが、怪我人ばかりに使われるのは、、良くないことです。怪我人は少ない方がいいので」


「集団に異常行動ですかーーー。縄張りに強いモンスターが入り込んだなら、納得できますが」


 縄張りに強いモンスターがいれば、逃げるためや食べ物のために異常行動を起こした例はある。


(いつも以上に気をつけた方がいいのは確か。異常行動を起こしているモンスターは好戦的になる。教えてくれたセイジさんには感謝だ)


「その情報は今のところありません。もし、見つかったら私か副団長に連絡が入るようになっています。今は必ず私か副団長が教会にいるようにしてまして、警戒体制を維持しています。ムスも何か発見したら連絡してくれると助かります。解決は早いほうがいいので」


(聖騎士は護りの戦いに特化している。剣には聖女の加護がかけられていて、物理が得意の相手でも剣が通る特徴がある。対応として的確なので何があったら教会にこよう)


「わかりました。ーー魔法を使わない相手だといいですね」


「だといいですが。厄介なやつは大抵、魔法が使えることが多いです。特に認識阻害系か精神異常系を使われたら最悪でしょう。もしかしたら、ユリアさんが駆り出されるかもしれません。ギルド長が声をかけてそうです」


「母は魔法無効ですからね。魔法使いにとっては反チート体質ですから、適任でしょう」


(母は自分自身にかけるタイプの魔法、攻撃魔法、補助魔法、回復魔法は全く無効という珍しい体質。自分以外に影響を及ぼす強化魔法なら効果があるが、そもそも母は魔法使いに対して素早く近づいてノックアウトすればいいだけなので、かなり有利。ギルド長はこの事を知っているため、厄介な魔法使いに対しては母に依頼することが多い。

まあ、モンスターが魔法を使うかはわからない。初戦に依頼はこないだろう)


「最初に索敵、次に本格的に討伐にでる予定です。ユリアさんみたいな方は貴重ですから助かります。では、あまり時間もありませんから、これで失礼します。くれぐれも気をつけてください」


「はい。セイジさん、ありがとうございます」


 二人共、礼をして席を立つ。

 ムスは外へ、騎士団長のセイジは教会の中へと歩を進めた。






 



誤字を発見したので、修正しました。

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