結界3
「《聖の魔法》(リカバリー)」
ラムは傷口に回復魔法をかけ、立ち上がる。
白いローブが血で赤黒く染まっていた。
「ラム、動くなよ」
ムスはタオルで傷口を縛る。
「止血したから、大丈夫。動ける」
「俺、抱えるから!動かない!!絶対に駄目!」
ムスの服もラムの血で赤黒く染まっていた。
ムスは必死だった。ラムを離さないように、抱え込む。
(むせ返るような血の匂い。出血は多いとみていい。平気そうな顔をして確実に無理をするのは目に見える)
ラムは佇んでいる黒いローブの人型を見ていた。
「やっと、見つけましたからね、本物の聖女を。貰って」
(本物?偽物もいるのか?まずは対処が先)
ムスは疑問に思った。だが、口には出さない。
「お喋りね」
アルマは低い声を出して、腹を蹴り飛ばした。
黒いローブを着た者を突き飛ばした。
その場所にアーマラとアステラがいたため、2人で黒いローブを切る。
しかし、全く手応えもなく、傷もつかず空を切った。
「これはー」
(本体じゃない。実物はいない。生きていない、呼吸がない、違う。これは、何)
ムスは切られた瞬間に異様な気配を感じ取った。
「魔法の可能性が高いか」
アステラとアーマラは構えたまま、ラムの方へ移動。
「《闇の魔法》(拘束)」
影から手が伸びてくる。
「ーー全員!?」
(これ、難しい魔法なのに)
ムスが驚く。
「《光の魔法》(異常回復)」
ラムが簡単に全員分拘束解除の魔法で《闇の魔法》(拘束)を打ち消す。
「まだ、動けるか。狙いはいるからいいが」
「ーーヴァーゴ。《聖の魔法》(身代わり)」
ムスが魔針を動かして人型の模様を描く。
これは攻撃を代替わりする効果がある。
(星霊は優先的に護らないと。魔法がある、攻撃はこっちに移し、身代わりに。あれは呪だ。実際に力を集めて攻撃している?人ではない。呪の塊か?絶たなければいけない)
ムスは攻撃が星霊に向いていることに気づき、身代わりを造る。その間もあれが何か探っている。
「ーー守護者か」
「ーー!貫通は流石に」
ムスは身代わりが機能ていないことに気づく。
魔法師が《聖の魔法》(身代わり)を貫通する攻撃に切り替えたのだ。
魔力球に徐々にひびが入る。
「ヴァーゴ、おいで」
ラムがヴァーゴの名前を呼ぶと、魔力球から小さな子供が出て、ラムの腹部に乗った。
「聖女様!」
「護れ、大切なものを。守れ、大事なものを。一片足りとも侵入を許さぬ、城を《守護の魔法》(シールドハート)」
ラムが唱えると髪に淡い黄色い光が溢れる。
大量の魔力を消費した証。
光が星霊ヴァーゴの周囲に集まり、透明な城の形が出来上がる。
「《守護の魔法》(シールドハート)は魔力消費により威力の増減が認められてるけど、、これ、は」
ムスが魔法の完成度を呆然と見ていた。
(一片の隙もなく、綺麗な城。侵入は許さず、大魔法ですら傷をつけられないぐらいに完璧な魔法。ーーーこれが、得意とする魔法に全力を注いだラムの力)
「駄目だよ、こんな可愛い子に酷いことをしては駄目」
ヴァーゴが目を丸くして息を呑む。
(そうだよな。守護者は魔法の完成度はわかる。魔法みたら驚く。そして、これなら)
「ーー本物はそっちか」
「この!」
ムスが銃を取り出し、弾を入れ替えて撃つ。
(弾は魔法を呪を打ち消すもの。繋がりを断つ。おそらく実体がないから、これなら効く。魔法か呪かどちらかが正解)
「ん?」
「〈還れ〉」
ムスが一言告げる。
「ーーー!?」
(変なものが消えた。これが本体に繋がっているもののみ)
「今なら物理攻撃で倒せるから、お願い、皆」
「貴様、名は」
「ーー合わせるぞ」
アーマラとアステラは合わせて槍、騎士剣を振るう。
「ーー代わりに」
「ーー回避は不可か」
アルマの身体が透ける。
「アルマ!」
ラムが手を伸ばす。
「ラム、動いたら駄目!!傷、駄目だから」
ムスがラムを押さえ込む。
(動かしてはいけない。開いたら大変なことになる)
「代わりだ。そこの武器を持ったやつと、聖女は一緒にこい。聖なる夜が終わりの日に荒野で待っている。交換だ」
黒いローブの者は切られて消えた。しかし、アルマも一緒に消えた。結界はーー
バリン
凄まじいガラスの音と共に壊れた。