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物忘

作者: 長万部 三郎太

わたしは物忘れが激しい。


気が張っている仕事中はある対策でどうにかなっているが、スイッチがOFFになるプライベートはまるで出鱈目だ。


宅配物を送ろうとガムテープを探すのにも、開梱しようとしてカッターナイフを探すのにもひと苦労する有様。配達に来た郵便局員も大変困惑していた。



自分のあまりの情けなさに、ついにわたしは仕事モードを私生活でも取り入れてみることにした。それは手のひらや甲といった、すぐ目に留まるところに油性ペンでタスクを書き残すという手法だ。


例えば家の掃除をする際には、モップをどの部屋までかけたのか、掃除機は今どこに置いているのか、窓はどこまで拭いたのかなど……。まるで映画『メメント』のような状況だが、わたしは至って真剣そのもの。


ひとしきり掃除を終えたわたしは、メモだらけになった両手を綺麗にすべく洗面台へと向かう。石鹸を手に取りいざ洗おうとしたそのとき、気になるメモを見つけた。



『9:47 長万部』



そこには何故かわたしの名前が書いてあった……。


ガムテや掃除機、窓拭きの進捗ならまだしも、自分の名前とは?

わたしはついに自分の存在すら忘れてしまったのだろうか。

ぞっとする不安に襲われたそのとき、家のチャイムが鳴る。


手を洗うのを中断し、玄関を開けるとそこには郵便局員がいた。


「Amazonからお届け物、もうひとつありました」


ああそうだ、通販で頼んだ物が今日の午前中に届く手筈であった。

すっかり……忘れていた。


それにしても「もうひとつ」だって?


だめだ、思い出せない。

健忘もここまでくると病識すら感じてしまう。


商品を受け取ってドアを閉めたわたしは、このことを忘れないよう自分の手に受け取りのサインを書いた。





(具合が悪いシリーズ『物忘』 おわり)

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