表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冷え込む頃

作者: タマネギ

急に冷え込むのは

わかっていたから、

着るものを探した。

とりあえず。


とりあえずの暮らしが

変わることはなく、

変わらなくてもいいと

何年か前から思う。


なぜなら振り返っても、

思い出せなくなった。

勝手に頭に滲むのは、

やはり、夏の光。


冷え込む今頃というと、

何があっただろう。

着るものを探しながら

考えてみた。


子供の頃なら、

シロという犬が

庭をウロウロしていた。

携帯電話のあの犬。


白いからシロだったか。

たぶんそうなんだろう。

犬は喜び庭駆け回り、

冬の童謡の通りだった。


大人たちが集まって、

餅をついていた。

父や叔父、母や祖母、

近くの、若い人たち。


冬のことのひとつの、

あの石のうすや

大きな杵はしばらく

家にあった。


楽しかったか。

勝手に頭に滲まないと

いうことは、

そうでもなかったか。


人々とどんな風に

過ごしたのか。

前田さんという若い人に

遊んでもらったような。


時間に溢れた種。

前田さんの種が、ぬっと

芽を出してくるように、

わりと具体的に甦る。


それから、それから。

他にはどうだろう。

夏の光を降らせた

あの山間を思えば。


囲炉裏に足を突っ込んで、

靴下が焦げて、

大泣きしたことが、

一番、鮮やかになった。


まだまだあるとわかる。

冷たい冬というのは、

たくさんの出来事を、

冬眠させているようだ。


冬眠させていたり、

種にして春を待ったり、

夏の光にはない、

強さがあるらしい。


着るものはあった。

そりゃあ、あるだろう。

誰も触っていない。

他に誰もいないのだから。


いったい何をして、

何を感じてきたんだろう。

夏の光、冬の種、

誰も何にも知らない。


自分でもわからなく

なってゆくのかしら。

話してもあなたには

つまらない気がして。


とりあえずの暮らしを

してきたら、

こういう人になって、

だから、良かったのか。


冷え込んだ町に

とりあえず出てみると、

今日も色んな人たちが

流れていた。


みぞれ混じりの雨が

降り始めて、

傘を差す人、走り出す人、

自分はそれを眺める人。


濡れるので店の軒先に

立ったままになった。

町と人間の様子を飲む。

久しぶり、美味しいよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 優しい思い出に浸るのは、それだけ幸せな時間があったということで。素敵な詩で、過去を振り返ることができました。ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ