ラジオ2
慎太郎がいつもはダラダラ流していただけのラジオ番組にリクエストをしてみようと思ったのは、初恋をした女性が結婚するという話を耳にした日だった。
綺麗さを可愛さがほとんど覆いつくしていた彼女は、いつもニコニコしている子で、当然のように男子たちから人気があったし、それをよく思わない女子たちからは疎まれていた。自分が疎まれていることを知っていたのかどうかわからないが、小学生の頃から仲良くしていた子たちの中にいて、いつも楽しそうにしていた。
そんな彼女に惹かれていくのに時間はいらなかった。そしてそんな彼女に告白して撃沈していく男子を何度も目にしていたため、最初から彼女とどうにかなりたいなんて思っていなかったのだ。ただ笑顔を見ていられればそれでよかった。だって、自分の手が届くわけがないのだから。
そんな彼女と口を利くようになったのは、くじ引きの席替えで隣になったからだった。その頃の彼女は、決定的な欠点があることを周りに知られはじめ、疎ましがられる綺麗さを持つ可愛さも受け入れる女子が増えて、教室の雰囲気も明るいものになっていた。
その彼女の欠点というのが、かなりの勉強が苦手で嫌いなところだった。つまり勉強ができないというところだった。毎日のようにやっている10問ほどの数学や漢字の小テストさえ毎回再テストだったし、中間テストの結果なんて、聞いただけで一瞬聞き間違えたかと思うほど、よくない点数を取っていた。
彼女を疎んだ女子は憐みの視線を送るようになっていたが、彼女はそんなこともたいして気にせずニコニコ楽しそうで、そしてとても優しい子だった。勉強がかなり苦手だとわかっても男子たちからは相変わらずモテていたし、そういうところを重視している男子は、自分を含め、そう多くないように思えた。
そんな彼女が隣の席になり、慎太郎は小テストのたびに先生に気付かれないように答えを彼女に見えるように彼女側にずらし、彼女の腕に自分の肘を当て、『見な』と合図を送った。彼女は小さく首を振り、『ダメだよ』と声に出さずに言った。その仕草に心は撃ち抜かれた慎太郎に、彼女は「勉強を教えて」と言ってきた。
学年でも上位を争っていた慎太郎は、彼女に勉強を教えることで常にトップでいるようになり、教わる方の彼女は、「わかった」と微笑みながらも、相変わらずの点数で、本当にわかっているとは到底思えないほどだった。
そして勉強を教えている放課後、教室に誰もいなくなった時に、その言葉を口にした。
「俺、『ジュリエットのために』っていう歌が好きなんだけど、聴いたことある?」
「うん、いい曲だよね」
「あのさ、……俺のジュリエットになってもらえないかな?」
「ドキッてしちゃった」
彼女が、そう慎太郎の目を見て微笑んだ。すでに撃ち抜かれて穴だらけになっていた慎太郎の心に、もう一つ穴ができた。その穴に詰め込んでいた彼女への想いは、抑えようもない衝動となって彼女の唇へと引き寄せられて行った。
トップの進学校へ進んだ慎太郎とは真逆の方向にある私学に進んだ彼女とは、会う機会が減っていき、相変わらずの愛らしさを振りまいているらしい彼女のモテ話を耳にするたび、嫉妬の炎を燃やした慎太郎は彼女に別れを告げた。テストの結果が思わしくなく、成績もどんどん下がっていたために、勉強ができるというプライドを保つのに必死だったこともその手助けとなった。
そんな彼女が、実は慎太郎を深く想い続け愛し続けてくれていたことを知ったのは、彼女が結婚することを知り、ラジオリクエストを送ったあとのことだった。




