ひみつ
「おばあちゃん、こんにちは。」
「あら、いらっしゃい、あやちゃん。」
あやちゃんは、いつものようにおばあちゃんの家に上がると、ランドセルを置きました。
「学校はどうだった?」
「毎日楽しいよ。」
あやちゃんは、ハンカチで汗をぬぐいながら答えました。
「おばあちゃんこそ、毎日一人でつまんないでしょ。」
「そうねえ、子供たちが出てってからは、さみしい時もあるわねえ。だから、あやちゃんが来てくれると、とてもうれしいのよ。」
「あやもおばあちゃんといると楽しいよ。」
「今日はおまんじゅうがあるの、食べるでしょ。」
「うん。」
あやちゃんは、おまんじゅうをほおばりながら言いました。
「ママには、ここに来てる事はひみつだよ。ママはいつもうるさいの。知らない人には、ついてっちゃだめ。知らない人からは、物をもらっちゃだめ。寄り道しちゃだめって。」
「そうねえ、あやちゃんに最初に会った時も、孫みたいに思って声をかけちゃったんだものねえ。」
「だから、ママがお仕事から帰って来るまでには、家にいないとねえ。」
「ねえ、あやちゃん。」
「なあに?」
おばあちゃんはお茶をすすりながら言いました。
「おばあちゃんも、ひみつを話してあげようか?」
「なになに、ひみつって?」
「この辺には、まだたぬきが住んでるのは知ってる?」
「知ってる、見た事あるもん。」
「昔からの言い伝えがあってね、子供たちが巣立ってしまったたぬきが、さみしさのあまり人間に化けて、人間の子供におやつをあげるって話よ。」
「たぬきが化けるの?」
「そうよ。だからもしかしたら、私はたぬきかもしれないわよ。」
「平気だもん、あや、たぬき好きだもん。でも、おばあちゃんがたぬきって事は、ひみつにしとくね。」
「ふふふ、あやちゃんといると本当に楽しいわ。」
それから二人は、しばらくおしゃべりをしました。
「あっ、もうそろそろ帰らないとママが帰って来ちゃう。」
「気をつけて帰るのよ、あやちゃん。」
「おまんじゅうをもう一個もらっていい?」
「いいわよ、でもママに見つかちゃうんじゃない?」
「食べながら帰るからいいの。」
「じゃあ、また寄ってね、あやちゃん。」
「うん、それじゃあね、バイバイ。」
あやちゃんを送り出したおばあちゃんが部屋に戻ると、あやちゃんのハンカチが置いてありました。
「あら、忘れ物。」
おばあちゃんは、すぐに家を飛び出しました。しかし、通りには人の姿が見えません。
「今出たばかりなのにおかしいわねえ。」
おばあちゃんは辺りをキョロキョロ見渡しました。すると、裏山に続く細い道を一匹の子だぬきが歩いて行くのが目に止まりました。
「あら、小さな子だぬきだこと。」
子だぬきが急に振り返りました。その口はおまんじゅうをくわえていました。
おばあちゃんは、びっくりしましたが、すぐに笑ってしまいました。
「ふふふ、まさかねえ。」
子だぬきは、何度も振り返りました。
おばあちゃんは、子だぬきが裏山へ消えるまで見送りました。
(了)