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6話 人の目的、敵の目的

 メグが食べ終わったあと、少し落ち着かせてから外に出かけようと思う。

 想定よりも早いが、宿にいてもやることがない。ご飯もこれで済ませるわけには行かないし。

 でもその前に、

「メグ、身体洗うぞ」

 メグを綺麗にすることにした。昨日から外に出ていたというのに、お風呂に入っていない。それは由々しき問題だと思う。

 かと言って、こんな宿に風呂が常備されているわけがない。そもそも、家庭に一つなんて手軽なものじゃないかもしれないし。

 湯船はともかく、俺がいれば洗うのは造作もない。

「でも、洗うには、お水が必要だよ?」

 水って。普通お湯だろうに。水で身体洗っていたのかよ。

 ここにいると、日本に豊かさを思い知らされる。昔は日本もこんな感じだったんだろうか。

「水、というかお湯は、俺が出せるから安心しろ。俺が洗ってやった方が早く済むんだが」

「・・・・・・・それでもいいけど・・・・・・・見られるのは、恥ずかしい」

 何がいいのか。見ずに洗うのは出来なくもないが、流石にきつい。複眼の魔術を使ってやるのもいいが、それじゃあ俺が変態みたいで嫌だ。

 仕方ない、水を何かに張って、自分で洗ってもらうか。だけど、器になりそうなものがない。

 ・・・・・・・液体を浮かせるのは結構魔力を使ってしまうが、やむを得ないな。

 アイテムボックスから、道中の川でゲットした水を取り出す。もちろん不純物ゼロの綺麗な水だ。

 それに魔力を使って発生させた熱を混ぜる。程よい温度にして、最後に俺の魔力を練り込んで完成だ。空中に塊にして浮かせる。

「すごい」

「これに息を止めて入ればいい。数秒で出て構わないから」

「それだけでいいの?」

「ああ」

「でも、出たら部屋濡れちゃうよ?」

「それも心配いらないから。出たらこれで身体隠せ」

 そう言ってタオルを渡す。これも再構築して生成した物だ。

「・・・・・・・これで?」

「拭かなくていい。隠すだけで。服脱いだら俺に渡してくれ。そっちは向かない」

 メグに背中を向けて椅子に座った。

「でも、着替えないよ?」

「ああもう面倒くさい。全部俺に任せろ」

「う、うん」

 萎縮した感じで、そそくさと服を脱ぎ始める気配がする。

 服、そういえばあのとき助けたときの服装のままだ。結構ボロかったし、新しく買ってあげた方が良さそうだ。

 修繕してもいいけど、物体の再生魔術は魔力を使う。生成魔術とそう変わらないのだから。

 って、考え方が親みたいになってて、なんか苛つくな。

「・・・・・・・これ、脱いだ服」

「ああ」

 身体の向きを変えないまま、手を差し出す。その手に服が置かれたので、しっかり掴んで目の前に持ってくる。

 ボロいし汚い。これで過ごすとか、俺だったら絶対ごめんだ。気づかなくてメグに申し訳なくなってくる。

 後ろでは、今水の音が鳴った。メグの小さな身体が水に入ったのを何となく感じる。

 俺もさっさと作業を終わらせる。さっき出した温水と同様のものを作って、その中に服を入れて洗濯機みたいに回して洗う。それを二、三秒やって服を取り出す。

 それだけでいい。それだけで綺麗になる。

 メグもお湯の塊から出たようで、そのあとに浮いた水で少し遊んで、タオルを身体に巻き付けた。

「終わった、よ」

「ああ、こっちも」

 汚れ一つない服を軽く上げる。

「なんか、すごい。すっきりしてるし、髪もなんか、」

「それは俺の魔力のおかげだ」

 俺の魔力は、自動で汚れを感知して除去してくれる。それを纏っている俺は風呂に入る必要はないし、それを水に付与すれば万能の洗剤になる。

 それを一塊に集める。大きな塊にして、アイテムボックスに収納した。

「あれ?濡れてたのに」

「俺の魔力が込められてるからな」

 更には自在に操ることが可能だから、周りを心配する必要ない。例えどんなに離れても、服が濡れても、気化しても、人の体内に入ろうとも回収出来る。

「・・・・・・・すごい便利」

「いいからさっさと服着ろ」

 正直俺もそう思った。今は風呂にも入る必要がないのであまり使わないが、生前欲しかった能力トップ3には入る便利さだ。布や紙が濡れても大丈夫とか最強すぎる。

 ただ、今の俺からしたらただの器用貧乏だ。力は使われるところにあった方がいいと、常々思う。

 あるに越したことはないが。

 少しの間、背中で布がこすれる音を聞いて、メグが服を着たところで振り向いた。

「・・・・・・・着たよ」

「ん、じゃあ行くか」

「うん」

 メグからタオルを受け取ると、さっさとこの宿を後にする。外はまだ早いが、早いに越したことはない。もう人通りもあるだろうから問題もない。

 さっきよりも潤いを取り戻したように見えるメグを連れて、宿を出る。肌がすった水分とか、綺麗に光る銀色の髪の毛、それらに湿気を残しているからだろうか。

 どうでもいいことを考えながら、準備することもない俺たちは、颯爽とこの宿から姿を消した。




 街は既に、朝の静寂の空気を忘れて、人がそれなりに行き交い賑わっていた。まだ早いと言うのに、早朝の空気は見る影もない。

 昨日は魔族がいる事実に意識を引っ張られたが、町は極めて平和で、人間には感心する。魔族も、俺が統治していた頃よりも幸福そうに笑う。

 それでも俺は後悔しないし、今更それに思う事もないが。

 人の流れのひとつとなって、俺も進行方向へと歩き出す。最初に行くところは既に決まっている。第一に重要なミッションをクリアしに行く。

 同じ目的地の人を見かけ、全く所作を変えることなく後ろについて行く。恐らくそんな事しなくても分かるだろうけど、念のため。

 そして辿り着いたのが、酒場『ラクトス』。俗に言う冒険者ギルドだ。市民からの依頼や兵舎からの依頼を、冒険者と呼ばれるフリーターに紹介する業者だ。

「・・・・・・・ここに入るの?」

「ああ」

 ごつい男たちが出入りする店だし、メグのためらいと疑問ももっともだ。子供を連れて入るところではないし、単純に怖いのだろう。

 だが、ここは情報を得るには最適だ。元々情報交換の場であるから酒場と併設してるわけだし、今は朝だ。朝から酒場で酒飲んでるような奴が、まともな生活をしているとは思えない。

 つまり、余裕がない、金に目がないということ。余裕がない奴は人の事情に無駄に踏み込みはしないし、金を払えば何も考えずに答えてくれる。

 そういうわけで、メグには我慢してもらうしかない。開けっ放しの扉を通って中へ。

 左には依頼の張ってある掲示板、正面には受付、右が酒場といった内装だ。掲示板に群がる人、そして受付の女性の方々を素通りして右へ、酒場に入る。

 と、その目前で。

「こんにちは」

 声の方に一瞬遅れて視線を送る。さりげなく確認したその人は、やはり俺に声をかけたようだ。

 ・・・・・・・またか。朝のデジャヴだな。

 さらに一瞬遅く足を止める。正直無視して進みたいが、確認してしまった手前、手招きされている中無視するのは少し違和感が出てしまう。気づかぬフリすればよかったものの、こうなっては回避不可だ。

 ゆっくりと足の向きを変えて、そちらに近づく。後ろにメグも。

「・・・・・・・どうも」

「あなたは、初めて見る顔ですね。ベテランの方ですか?」

 金色の長髪を持った上品な様相の女性が、俺とメグに順番に目線を向けた。この人は来る人全員の顔を覚えているのか。

「いえ、旅人です。酒場に来ただけですが」

「そうなんですか、すみません。てっきりベテラン冒険者さんかと」

 完璧な笑顔を振りまいて、自分のミスを軽く笑う。

 感覚というべきか。この人は仕事の長いベテランのようだ。その感覚で俺の偽装魔術まで見破ったのなら、それはもう賢者か何かになってしまうわけで、あり得ないことだが。

「お金に困ったら、いつでもいらしてください。簡単なクエストもありますので」

「どうも」

 無愛想に軽く言って、速やかにその場から離れようと動く。が、「それともう一つだけ」と、再び止められてしまう。

「最近は、この辺で盗賊団が目撃されているので、お気を付けください」

「盗賊、ですか」

 俺が他人から盗まれるものは、見た目的に何もないと思うが。

 そこで、その稀有な事例を一つ思い出した。金目の物を持ってなさそうにもかかわらず、襲われる。

 その答えを、彼女が小声で言ってくれた。

「・・・・・・・少し前に、村が一つ被害にあってしまい」

「・・・・・・・」

 まさしく、メグの村だ。子供に聞かせる話じゃないと、声を潜めてくれて助かったと言うべきか。

 ほぼ殺し目的であろう放火。あの景色に加え、残った魔力の痕跡、そして街の様子を見て、一つ思い至った仮説があった。

「あのそれって・・・・・・・いや、やはりいいです、では」

 思い直して、さっさとその場を離れた。背中の奥で何か言っていたが、立ち止まらずに酒場に入った。

 俺がどうしてここで情報収集しているのかを思うと、あの人に聞くのは違う。公的職業で、しかも記憶力までいい人に印象付けられるのはよくない。

 それに、メグの前でする話でもない。メグの心境の変化とかがあれば面倒くさいし。

 それに彼女の仕事も。去る理由はそれだけで十分。

「話さなくて、いいの?」

 メグが余計なことを聞いてくる。反応を見るに、なんの話かは分かっていない。

「ああ、それより、何頼むかは俺が適当に決めるが、いいか?」

 当然その答えはイエスだった。返答の分かり切った質問を無意味に流しながら、近い席を選んで座る。

 メニューを見て、テキトーにお米と野菜の健康的な朝食を頼んだ。飲み物はもちろんお茶だ。

 酒場と言えど、朝から酒という気分にはどうしてもなれない。俺はどんなに酒を飲んでも、体内で解毒出来るので酔うことはないが、好んで飲むほど好きじゃない。

 少し待って料理が届く。料理は二人分。俺も普通に食べたほうが自然だ。久しぶりにお米食べたかったし。

 だが、食器を手に持ったタイミングで来訪者があった。何とも間の悪い。

「・・・・・・・どうしたんです?」

「いえ、すみませんお食事中に。先ほど何か聞きたそうだったので」

 それだけで来るとは、何とも親切なこって。でもそれは、人によっては迷惑でもある。

「お人好しですね。お仕事は?」

「他の同僚に任せてあります。今は人足が少ないので。ですが、そろそろ忙しくなる頃合いなので、食事中だったのですが、お声がけしました」

「そこまでして声かける必要あります?」

 俺にしては単純で正直な疑問だ。

「それは・・・・・・・」

 そこで彼女が口ごもる。その目はメグに向けられているようで。

 正直彼女に聞くのは避けたかったが、ここで断るのも良くない空気になってしまった。

「メグ」

「ん?」

「少し話してくるから、先に食べててくれ」

「え・・・・・・・」

 不安の色。薄くはあるが除き切れていないようで。子供の心の弱さは何とも面倒くさい。

 浅く溜め息をついて、席を瞬間的に確認する。

「・・・・・・・見える位置にいるし、すぐ戻るから」

「・・・・・・・うん」

 メグの了解を聞いて、受付の女性と席を離れる。さっき確認したメグの正面にある、少し遠い席を指定して、そこに向かう。

 ・・・・・・・まずったな。感情が無意識化で発露してしまった。

 俺が不満の色を見せれば、メグは何も出来なくなる。俺が圧倒的に立場が上で、メグが一方的に俺に頼っている側だから。俺に見放されれば身寄りがなくなるから、機械のように指示に従うしかない。

 俺からしたら、メグに対しての責任がないし、メグを旅に連れて行くメリットがほぼない。いてもいなくてもいい存在ゆえに、自分の意思、行動に影響されないようにする。そんな考え方、俺はしたくない。

 メグが俺についてきてるわけじゃない。俺がメグを連れているのだ。

 俺が魔王だからと言って、それらしく支配思想を持っているわけじゃない。俺は魔王だが、魔王である前に俺だ。子供にすら気遣えないだなんて、人としてどうかと思う。

 こうして反省をすることは、俺にとって無意味ではない。俺にとって、重要な過程だ。誰にも知られないが故に、自分の中で大切にしまい込んだ。




「あの」

「はい?」

 席についたタイミングで反省を終わらせる。意識の半分を思考に費やしたせいで、少し違和感を与えたか?

「申し遅れました、私はフローラ、フローラ=フレールです」

「どうも、レイカ=アルスです」

「レイカさん、ですか。よろしくお願いします」

「それはこっちの台詞ですけど。で、話に来た理由、いや、質問を聞きに来た理由は?」

 聞かなくてもそれくらいわかる。だが、聞くという工程は知っていたとしても意味を持つ。

「はい。それは、先ほど言った盗賊について、言っておきたかったのです。あそこではお子さんがいたので、お話すべきではないかと」

 お子さんて。

「俺、子供いるような歳に見えます?」

 眠っていた時間を除けば、俺は今二十二歳。魔族のその長い寿命に釣り合わないとはいえ、多少若いうちの成長が遅い。今の容姿的に、俺を人間とした容姿年齢は多分高校生くらい。偽装魔術も自分の見た目はほぼいじっていない。

 なのに、なぜそれで納得されるのか。百三十年という月日で常識が塗り替わったのか。

「見えないですけど、人それぞれですから」

「そですか」

「お子さんなんですか?」

「親戚が死んで、仕方なく引き取った子です」

 そのことは、メグとも打合せしている。まあ覚えてるかは知らないし、重要でもないが。

「へえ、良くなつかれていますね。見かけによらず面倒見のいい人なんですね」

「お決まりは言いませんよ」

「あら、つれない」

 見かけによらずは余計だなんて、いや余計なのは面倒見のいいってところだ。

「脱線してしまった。それより、本題を」

「そうですね、お子さんも待っていることですし。言ってしまえば、あなたにとって盗賊が危険だから、声をかけたのです」

「・・・・・・・」

 沈黙で、次の言葉を待つ。今の俺にとって通常盗賊が危険になりえないから、という理由は確認するまでもない。盗賊の思考回路では、俺は獲物ではない。

「盗賊が村を襲ったと、教えましたね。その村は裕福でもなんでもない、そういう噂すらもない村でした。つまりは、」

「・・・・・・・盗賊が、襲うわけのない村」

 フローラが待っていた答えを、少し間を置いて答えた。

「はい、そうなんです。その襲われた村を調査した兵士によれば、村人は全員殺され、家は焼き払われていたそうです」

「・・・・・・・金目当てでない、いわば殺人集団ってことか」

「はい」

「だから、対して金の持たない、さらには子供と俺一人で動く襲いやすい俺たちが危ないってことですか」

「・・・・・・・理解が早いですね」

「どうも」

 感心されてしまった。少し不用心だったか。

 まあそんな分かり切った話はどうでもいい。時間にも限りがあるので、さっさと切り出す。

「その集団って、魔族なんです?」

「いえ、人間の男しか目撃されていないそうです。その中には魔力を行使する者もいるそうですけど」

「なるほど」

 魔力。それは生物や大気に存在し、エネルギー源となるもの。そして、それの行使に必要不可欠な魔力適正。

 魔族はともかく、人間は全員が全員魔法を使えるわけじゃない。およそ全体の三割ほど。街の人間を見ても、現代もさほど変わっていない。

 ゆえに、魔力に攻撃の性質を持たせる人間は、有能と呼べる。

「快楽集団か、あるいは・・・・・・・・」

 もう一つの考えを口にするのはやめておいた。そうするとどうにも現実味が帯びてしまうような気がする。

「?」

「ああいや、それより、魔族の動向が気になります」

「魔族、ですか?」

 正直へたなことを言うと変に怪しまれるかもしれないが、ここで尻込みしている場合ではない。出来れば明日にはここを出たいのだ。

 こういう状況になったのなら、聞いてもいいだろう。

「人間くらいだったらどうにでもなりますけど、魔法相手はやはり苦手で」

「やっぱ戦える人なんですね」

 それ自体は別に珍しい事じゃない。冒険者が一定数いる世界なんだから。

「例えば、魔王幹部、とか?」

「幹部、の報告はあるわけないですよ。私が生まれてから一度もないですし、そもそも幹部は魔王の封印で力を失っていますし」

 笑いながら一般常識のごとく俺に教えてくれる。自然と腹立たないところが、この人のコミュニケーション能力の高さを証明している。流石社交的。

 だが、今の世界では魔王幹部は衰退したと思われているのか。そんなことは無いはずだが、それは知らなかった。

「すみません、田舎から出てきたもので。ですが、魔王が封印から解かれたのなら、そればかりではないのでは?」

「確かにそうですね。魔王の対処はこの国全体の最優先事項ですけど、勇者様がいれば大丈夫ですよ。勇者様は歴代で最強なんです。これも時間の問題だと思いますよ」

 歴代最強、ね。魔力や魔法適性は遺伝性があり、基本的に代を重ねるほど強くなっていく。以前対敵したのより数段は強力になっていることだろうし、強者も増えていると思う。

 まあ大地を更地にする魔王が、小細工じみた魔術に長けているとは考えていないがゆえに、俺がこうして紛れられているのだろう。弱体化のおかげでもある。

「他に何か、危険そうな情報は?」

「危険そう、ですかー。・・・・・・・思い当たりませんね」

「そですか」

 なら問題はない。とりあえず俺の優先的に気になることは聞けた。

「他に聞きたいことは?」

「・・・・・・・いえ」

 フローラに聞けることはあまりない。そもそも知らないだろうし、変な奴と思われるとそれだけ危険が増す。人との関係が希薄とはいえ、疑問を積めば、それだけ疑惑が香るものだ。

「そうですか。レイカさん旅慣れしてるんですね」

「いや、そうでもないです。始めて短いですし」

「危険を知ろうとするのはその証拠です。今までどういうところに?」

「別に、大したところには。ただ、現状の生活にうんざりして逃げてきた、ただのガキです」

 適当に話を合わせる。

「そんなこと、レイカさんはしっかりしてますよ。大人っぽいですし、お子さんも連れてますし」

「それはもういいでしょ」

 イタズラっぽく笑う彼女に、少し飽きれてしまう。好感をの持てる彼女に、そう見せようという気概を感じないから。

「お名前聞いても?」

「自分で聞いてください」

「分かりました」

「では、そろそろ戻ります」

 メグがこちらに向ける視線の数が多くなっている。向こうから動きかねないからな。

「はい。あの、よければ冒険者の資格を取っておきませんか?お金に困ったら、各地で稼げますし、簡単に取れますので」

「・・・・・・・考えておきます」

「はい。本当に、盗賊団に気を付けてくださいね。また会えるのを楽しみにしておきます」

「近くに来たら寄ります」

「いい旅のお話、聞かせてくださいね」

 恐らくその機会は訪れないだろうが、人にとっては大事な縁ってやつだ。その細く、でも多く束ねられたそれは、ほんの少しだろうとも自分の助けになる。

 体験はないし、知識もないが、そんな気がする。もっと人と交わっていれば、その真偽も分かっていたのかもな。

 でも俺に、そんな時間はない。そんな暇はない。

 ・・・・・・・そんな余裕はない。なくなる。

 そのときまで、テキトーに準備を進めるだけだ。俺らしく、したいように過ごしていく。

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