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21話 自傷

「・・・・・・・な、なにこれ」

 数秒使って、放心状態から目覚める。状況が一変して、唖然としてしまった。

 犯罪グループの男たち、把握できる範囲で全員、死んでいた。赤い血を噴き出して、一気に。

 それは・・・・・・・鎖。

 地面から突如現れた黒い鎖が、敵全員を貫き、命を一瞬にして刈り取った。

 子供たちの周りの男も、もちろん死んでいる。その男に殺されかけていた子供たちは、無事だ。

 分からないことだらけだったけど、誰がやったのかは明白だった。

 レイカだ。

 そのレイカは、さっきよりも分かりやすく、登り始めの月を仰いでいた。月明かりに照らされ、血が髪を伝って落ちていく。

 なにはともあれ、レイカが子供たちを救って、

「がはっ・・・・・・・」

「え?」

 血が舞う。月明かりに照らされて、しっかりとその赤が見えた。

 レイカの吐血だ。そしてそのあと、またも見たこともない光景が広がった。

 レイカの頬が、手が、腕が、裂けた。裂けて、血が噴き出始めた。

 そして、足元に出来た血だまりに、倒れ込んでしまう。

「レイカっ!!」

 一瞬遅れて、足が動く。レイカの傍まで行き、身体を仰向けにして、持ち上げる。

 地面につけた私の足は、びしょびしょになっていて。出血量が酷い。レイカの意識は、目覚める気配がない。

 なんだこれは。見たこともない。頬や腕だけじゃない。全身だ。全身が裂けて、出血しているんだ。

 どうして・・・・・・・こんな。

 血の気が引く。思考が止まる。手が震えて、歯が音を立てる。どうすればどうすればどうすればどうすれば・・・・・・・。

「落ち着け」

 声が、響いた。耳からじゃなく、心から。

 再三レイカに注意されたこと。落ち着け。そうだ、落ち着かないと。

 一つ、深呼吸を入れる。

「・・・・・・・ごめん、レイカ」

 止まっちゃダメだ。失う怖さに飲まれちゃダメだ。まだ生きてる!今度は私が、救わないと!

「く、かはっ、はぁはぁ」

「あ!レイカ!」

 意識が戻った。血を吐いて、凄く辛そうに。早く治してあげないと。

「・・・・・・・け、かい」

「え?」

「・・・・・・・もどって」

 声がまともに出ていない。けど、何を言ってるのかは分かった。

『結界、戻って』

 限られた出せる声で、レイカはそれを言った。

 今すぐにでも治療してあげたい。この苦痛に歪んだ顔を見たくない。もしかしたら、死んじゃうかもしれない。

 でも、レイカがそこまでして出した言葉。それを、無視できなかった。

 レイカにバリアを張って、慎重に前に抱える。急いで戻って、急いで治さないと。




 浮遊魔術で速度を出す。

 レイカに衝撃を与えないように、細心の注意を払って。さらには周囲の人間も。

 レイカがそう言ったのは、バレたくないからで、目撃されるのは避けたいはず。それでも優先するのは速さだけど。

 子供たちは、申し訳ないけどそのままにした。確認したけど、犯罪集団はみんな死んでいた。だから危険はない。

 多分結構目立ってたから、そのうち兵士が様子を見に来てくれると思う。

 事実どうあれ、構っていられるほどの余裕はない。

 森を抜けて、街に入る。急造の認識阻害の術式で、どうにか隠す。

 私はテレポートの術式は使えない。私が使うのは、あらかじめ設置した門を起動して使うテレポートだけで、そこに行かないと結界までショートカット出来ない。

 速く、速く!もっと、もっと、速くしないと!レイカが!

 ・・・・・・・初めて、知った。こんなの、初めてだ。

 人に知られなくて、忘れられて生きてきたから。大事な人を失うかもしれない恐怖。それがこんなにも、絶望的な事だなんて。

 物語では読んだことはあっても、経験しなきゃ分からないことだった。一ミリも分かっていなかった。

 間に合わなかったらどうしよう。ここでレイカが死んじゃったら。

 そう思うと、気が気じゃない。さっきから震えが止まらないし、視野が狭いし、胸が締め付けられる。

 ・・・・・・・涙が、落ちる。お願い、間に合って。

「・・・・・・・え?」

 私の手に触れてるレイカの指。少し力が入った気がする。

「レイカ・・・・・・・ごめん」

 それは気のせいかもしれない。目も開かないし、表情にも変化はない。だけどそれでも、落ち着いた。

 今考えればいいのは、速く戻ることだけ!それ以外はいらない。考えない!

 そしてすぐに、設置したポータルに辿り着いて、結界までショートカットし、結界に入る。

 きっとメグちゃんは家の中だ。家の中にもって行く時間すら勿体ないので、家の前まで移動して、レイカを草原に下ろす。

「レイカ!レイカっ!」

 すぐさま治癒魔術を使って、傷口の修復を始める。顔を治すのと同時に、服を脱がす。

「っ!!どうして・・・・・・・こんな」

 その身体のありさまを見て、涙が止まらない。

 酷い傷が無数に。胸に、お腹に、背中側にも。きっと下半身にも。なんでこんな・・・・・・・。

「レイカ?」

「!!メグちゃん!」

 外の様子に気づいたのか、メグが玄関の扉から顔を覗かせる。メグちゃんに見せちゃ・・・・・・・でも。

「え、れい、」

「メグちゃん!中から包帯とタオルとお水、ありったけ持ってきて!!」

「レイカ?え?」

「早く!お願い!レイカが死んじゃう!」

「あ、うん!!」

 他のことを考える余裕なんてない。出血を止めないと。それにメグちゃんにも何かさせてあげたほうがいい。

 メグちゃんだって、ただの子供じゃない。

「・・・・・・・どうして!こんなに治らないの!!」

 裂けた傷口の治りが遅い。全力でやってるのに、いつもより遅い。

 このままじゃ・・・・・・・このままじゃ、レイカが。

「早く!早くっ!!」

 もしかして、レイカのあの鎖は・・・・・・・代償魔術?

 良くは知らないけど、そういうのもある。レイカのあの腕だって代償魔術の一種だと思うし、なにかを犠牲にすることで成り立つ魔術。

 レイカが、自分の身体を?どうして!じゃあ、どうして私がやれなかった。なんでレイカに背負わせた。

 私が、命でも何でも使えば良かったんだ。

「シャルちゃん!!これ」

「え?あ、メグちゃん、包帯腕に巻いて!出来る?」

「レイカ・・・・・・・うん!!」

 メグちゃんにまでこんな悲しい顔させて。

 私、ダメだ。人と関われなくて、それでも関わりたくて、でも関わったらこれだ。私は人を不幸にするから、人と関われないようになってるんだ。

 これで、レイカが死んじゃったら・・・・・・・私、もう・・・・・・・。

「レイカ!レイカ!!起きてよ!!起きて、よ。お願い、だから」

「れい、か・・・・・・・起き、て・・・・・・・」

 メグちゃんも泣かせて。私、なんて・・・・・・・。

 ・・・・・・・あ。今ここで、私も代償魔術を使えば。

 私の命で、レイカを治癒すれば。きっと、治せるんじゃ。

「レイカ!!お願い!!どうか、治って!!」

「レイカっ!」

 やり方なんて知らない。でも、試さないと。出来ることをやらないと!

「レイカッ!!」

「レイ、カ!」

「レイ、」

「う、っさい!」

 え?

「レイカ?レイカ!」

「人の枕もとで叫ぶな。頭に響く」

 このとき、レイカが生き返った。




 ※




 ・・・・・・・意識が、重い。

 目が開かない。身体が動かない。指先の感覚がない。

 薄っすらと、声が聞こえるような気がする。

 感覚がないのに、痛みは感じる。全身から、耐えがたい苦痛。そして、割れるような内側からの痛み。でも、あの左腕よりは、マシ、か。今度は全身だが。

 暗い。目を閉じているのだから、当然だ。が、そういう暗さとは違う。

 紫、黒、なんだか、魔力が、渦巻いているいうに・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・脳が、溶ける。

 ・・・・・・・・・駄目、だ。このままだと、死ぬ。

 気を抜けば、この意識を切れば、そのまま事切れると、俺の直感が、言っている。

 なんか・・・・・・・・いや、何も考えない方が、いい気がする。

 記憶が曖昧だ。いや、ただ記憶を掘り起こす余裕がないだけか。とりあえず、身体がバグっていることだけは分かる。

 それと、シャルロットがずっと傍にいることも。

 ・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・ん。

 少し、少しだけ、何かが変わったような。外の状況は全く分からないが、少しずつ良くなっている感覚が。

 ・・・・・・・そうか。シャルロットが、治療してるのか。そういえば、最初も少し、こんな感覚があったような。

 ・・・・・・・あー、意識がはっきりしてきた。指先が少し動くし、感覚も戻ってきて。

 身体痛いな。痛みも一緒にはっきりしてきた。裂けてるところがくっきりと。

 右腕は包帯が巻かれていて。治癒は顔にされていて。耳もゆっくり聞こえて・・・・・・・。

「レイカ!レイカ!!起きてよ!!―――――――」

「レイカ!!」

 シャルロットと、メグの声が。メグは聞いたこともないようなボリュームで。シャルロットは、また泣いてるのか。メグもだけど。

「レイカ!!お願い!!―――――――」

「レイカ!!」

 なんだか。

「レイカッ!!」

「レイ、カ!!」

「レイ、」

「う、っさい!」

 頭にっ!響くっ!

「レイカ?レイカ!」

「人の枕もとで叫ぶな。頭に響く」

 声を出すのもきついのに、言わせるな。

「レイカが、生き返った!!」

「死んで、ねえよ」

「・・・・・・・よか、った」

 薄ら目から、メグがヘタるのが見える。また心配かけちゃったか。

 俺が寝ている状況のことも、ぼんやり思い出された。耳が音を取り入れて、認識できなかっただけで勝手に処理していたらしい。

「とりあえず、治癒はいつも通り、効いてる。シャルロット」

「え?う、うん、でも、いつもより効かないの」

「そう感じるだけだ、そのままでいい、から、頼む」

「そう、なの?うん、もちろん!」

 多分気が早って感覚がずれただけだ。一応しっかり治っている。

 実際傷は深くない。自傷ダメージなのだから当然だ。それよりも出血量の方が酷い。少しは覚悟していたが、まさかここまでとは思わなかった。

 俺自身の魔力も残っているが、自分での治療はしないほうが良さそうだ。このまま、シャルロットに任せるか。

 それより。

「シャルロット」

「ん?」

「・・・・・・・あいつら、全員殺しちまった。すまん」

 あれ以外の方法は思いつかなかった。拉致された子供は三か所に分けられていて、同時に守るには、全員殺すほかなかった。

「いいよ、そんなの。それより、もうこんな・・・・・・・やめてよ」

 思ったのと反応が少し違って、目が開く。

 シャルロットが泣いている。いや、元からだけど、なんかいっそう、悲しそうな声で、大粒の涙で。

「敵さんより子供、子供よりレイカが優先、だよ。死んじゃったらどうしようって」

「・・・・・・・すまん、俺もここまでとは思ってなかったもんで」

「・・・・・・・私のせいで、レイカが、犠牲になっちゃったらって」

「悪かっ、た」

 犠牲、か。自己犠牲っていうわけじゃなかった。ただ、危険を冒しただけ。それが思っている以上に、危なかっただけ。

 でも、そこじゃない。なぜ危険を冒したか、だ。あの状況で、感情が発露したわけじゃない。ちゃんと分かってたはずだ。自分が安全に出来る範囲での結果は分かっていて、嘆くほどの結果にはならないことは。

 これまでに大量の死を呼んで、それに比べたら他愛もない死だ。俺が危険を冒す必要はないはずだ。

 ・・・・・・・俺は少し、不安定だ。

 封印から解かれてから、自分の意思が分からない。想定した思考理論との差異が大きい。

 俺は少し、変わった。いや、変わっている。

 それがいい事なのか、悪い事なのか、俺には分かりかねる。今回のように、自分を脅かすことになるのなら。

 ・・・・・・・俺は自分を、制すべきだ。

 薄い意識の中で、俺は治療の温かみを感じながら、薄暗いシャルロットとメグを眺めていた。




 治療は一晩中続いた。

 身体は包帯グルグル巻きで、顔以外ミイラ状態になった。怪我は上半身にまんべんなく、下半身は右足に少しって感じだ。

 シャルロットの魔力も残り少なかったので、あまり治療出来ていない。まあ死にはしないから問題ないし、一晩経って魔力も安定してきたので、自分で血を足せるようになった。

 具合はかなり悪い感じだが、上半身を起こせるようにはなった。痛いのには変わりないが。

 メグとシャルロットは、俺の傍でぐっすり寝ている。メグはまあ当然として、シャルロットは魔力の使い過ぎで倒れたって感じだ。

 無理にその場で立ちあがる。流石にきついが、喉が渇いた。

 壁に寄り添って、壁伝いに家の中に入る。コップで水を飲んで、また外に戻って、また地面に腰を落とす。壁に背中をあずけて。

 もう日が昇っている。明朝の時間だ。どうりで肌寒い。

「・・・・・・・んー、・・・・・え。え!?レイカ!?」

「うるさい、メグが起きる」

 シャルロットが起きた。思ったより早かったな。

「レイカー、っとっと」

 いきなり立ち上がって、転んでいる。当然だな。

「あまり動かないほうがいい。魔力の使い過ぎで、まともに動かないだろうから」

「え?あ、そっか。でも!レイカの怪我、」

「は問題ない。ありがとな、治療」

「治ってないでしょ!治さないと!」

「急ぐことじゃないから大丈夫だ」

 急いだところで、魔力に関してはどうしようもない。結局魔力の回復を待つしかない。

「大丈夫じゃないよ!痛いでしょ!痛いのは大丈夫じゃ、」

「うっさい!!」

 らしくもない声が出てしまった。

「で、でも!」

「少し落ち着け。メグが起きるし、急ぎたくても急げないだろ」

「そ、それは、そうだけど・・・・・・・」

「とりあえず、聞きたいことがあるんだろ。こっち、来れるか」

 俺の隣を促す。メグが寝てるそばよりは、話しやすいだろう。

「・・・・・・・うん。どうして、ああなっちゃったのか」

 言いながら、俺の横まで四つん這いで移動する。まああんなことには普通ならないからな。あんなの、書物でも確認したことなかった。

「あれは、代償魔術なの?」

「は?違うけど」

「え?違うの!?」

 全く違う。ああ、命とか何とか言ってたっけか。

「まあ違うな。というか、そもそも俺が子供のためにそこまですると思うか?」

「イメージとは、ちょっと違うけど」

 ちょっとどころじゃないと思うけどな。

「そもそも、代償魔術ってのは契約時に人に仕掛けるものだ」

「仕掛ける?」

 こいつ、勉強してたんじゃないのか?いや、ちゃんとやる性格じゃないか。

「呪いの一種だ。決められた制限を破ると、かけられた本人の魔力を使って術式を起動、不利益をもたらす。それが代償魔術」

 呪いは常時効力があるもので、代償魔術は決められた状況下で能力を発揮する魔術だ。そもそも相手との交渉によって容認されたうえで使うものだから、呪いよりも使いやすい。まあ、起動条件を設定しなければならないので、もちろん術者の腕はいるが。

「じゃあレイカのあの腕は?」

「あれは別物。そもそも、魔力を生成しようとするのは基本不可能だ。身体の生命エネルギーと魔力が本質的に類似しているから、魔力を生成できる。いうなら、変換魔術か」

 さらに言えば、生命エネルギーは魔力よりも上位のエネルギーだ。だから魔力を生成するのは可能で、魔力から生命エネルギーにそのまま変換するのは不可能なのだ。

 魔力生成は基本、人間や魔族、魔物に備わっている機能でしかできない。

「・・・・・・・じゃあ、あれはどうやって?黒い、鎖?みたいなやつは?」

 あんまり理解してないようだが、気にせず続けるか。

「あれは俺の固有魔術だ」

「え?固有魔術?」

 固有魔術。その者独自の魔術。といっても、百パーその人しか使えないというわけではない。

 例えばフェイの氷樹。あれはグートル家の固有魔術で、代々引き継がれているものだ。その術式と、それに適した魔力があれば誰でも使えるということだ。

 それが他人にはほとんどいないがゆえに、固有魔術と呼ばれているわけだが。

「固有魔術持ってるんだ!凄い!」

「俺は一応魔王なんだが」

「でも、あの怪我は?なんで固有魔術で怪我するの?」

「魔力適正が足りてないから」

「・・・・・・・ん?」

 まあ理解できないのも仕方ないけど。

「固有魔術、なんだよね?それなのに、魔力適正が足りてない?ん?」

「恐らくだが、封印の影響で魔力適正が低下したんだ。魔力適正は不変のはずだが、前例のない事が起きれば、常識が変わってもおかしくはないな」

 これまでの歴史で百三十年眠っていた者はいない。あくまで記録上は、だが。

「ほんとに?魔力適正下がるの?」

「正確には不変じゃない。努力すれば多少は上げることも可能だ」

 それは微々たるもので、ほぼ才能が九割九分って感じだが。

「そうなんだ。それで、固有魔術がそれをオーバーしてるから」

「俺もビビった。多少の痛手は覚悟してたが、まさかあれまでとは」

 魔力適正以上の魔力は普通行使できない。なんせやり方が分からないのだから。

 魔術の特訓だって、スポーツと基本は変わらない。反復して、習得する。出来た感覚を繰り返して、自分に馴染ませていく。

 魔力適正が足りなければ、どれだけやっても出来ることはない。だから術式を知っていたとしても、使えることはない。

 俺は使い方を知っているから使えた。そしてバグった。そんなところだ。

「良かった」

「ん?」

「私、レイカに私のせいで背負わせちゃったと思ったから」

 背負わせる、か。まあ確かにシャルロットに助けを求められはしたけど。

「あ、ごめん!結局私のせいで、こんな怪我をしたのに」

「・・・・・・・シャルロットのせいじゃない」

「え?」

「全部あいつらのせいだ、お前は一ミリも悪くない。子供の恐怖も、この怪我も、お前やメグの涙も、全部あいつらのせいだ。あいつらが悪い、そこを履き違えるな」

 あの犯罪グループが悪い。悪と知りながら、そう認識しておきながら、悪いことをした。全ての責任を背負うべきはあいつらで、それ以外の者が背負っていいものじゃない。

 罪はあるべきところに。それを少しで肩代わりする考え方は、好きじゃない。

「でも、」

「俺がお前の件に関わったのは、お前に関わろうと俺が決めたからだ。俺が決めたことでこの件に関わることになり、その結果怪我しただけだ。俺の選択が招いたことだ、気にする必要はない」

 これ、どう聞いても慰めているように聞こえるな。

 ただ俺は、俺の行動の結果を、他の誰にも背負わせたくないだけだ。俺の行動の結果は俺のものでしかない。責任を強く持つ、そのために責任を分散させたくないだけだ。

 これも、言い訳に聞こえるな。

「・・・・・・・でも」

「面倒くさいな、全くお前は。じゃあこうしよう」

 もう話すのも面倒くさい。その場に立って、腰に手をやる。

「あと三日、くらいか。俺はまだここで過ごす。その間、俺に尽くしてくれればいい」

 罪の在処とか、俺の信条とか、どうでもよかった。ただこの一言だけで、きっとこいつは・・・・・・・。

「・・・・・・・うん!ありがと、レイカ!」

「ああ。ったたた」

 全身怪我してるのに、立つんじゃなかった。少しかっこつけたな。

 でも、まあいいか。

 予定は少しずれてしまって、シャルロットとはもうちょっと長くいることになる。ならま、笑顔の方が過ごしやすいからな。

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