19話 数十年分の涙
ここに来て一週間が過ぎた。
生活に慣れだとか、そういうのすら必要のない生活が始まって、色々分かったことがある。時間に圧倒的余裕が生まれたおかげだ。
二つ、俺の身体的な性能のことだ。一つは魔力回復。魔力もそれなりに回復したが、また回復速度が著しく低下した。魔力に余裕が出来るとそうなってしまい、恐らく最終的には止まってしまうだろう。総量マックスは、本来の二割ほどか。
二つ目は魔力適正の弱体化。魔力適正は魔術を行使するための性能だが、それがどれほど低下しているかが分かった。ここに結界があるからこそ、分かったことだ。今は俺の戦闘の中核を担っていた十八番すら出せないほどになっていた。
そして俺にあまり関係ないが、三つ目。それは、
「ねえねえ、なに小難しい顔してるのさー。もしかして、意識しちゃってるのー?」
「・・・・・・・・・」
この横にいるシャルロットのことだ。声を潜めて、囁いてくる。
「もしかして興奮しちゃってる?緊張して眠れないのかなー」
「・・・・・・・・・」
今は夜中の十二時ほど。いつも通り一つ布団を借りて、メグと一緒に寝ているわけだが。
「我慢しなくていいんだよ?ほらほらー」
「・・・・・・・・・」
「なんか反応してよ!」
「うるさい。メグが起きる」
メグを挟んだ向こう側。今日はなぜかシャルロットが俺らの布団の中に入ってきた。いつもは隣の布団なのに。
「ご、ごめん」
「出ろよ、なんで入って来たんだよ」
「いやさ、レイカにも刺激は必要かなと思って」
刺激って。誘ってるのなら、もう少し分かりやすく出来るだろうに。
「残念ながら、同衾してもなにも思うことはないな」
「え、まじ?」
「まじ」
「だってだって、私結構いいプロポーションだって思ってるんだけど?胸もそこそこ大きいし、体重とか結構気にしてるし!顔もいい方でしょ?」
自分で言うか。
「すまないが、恋愛も性欲も生まれてこの方興味持たないな」
「そんな人いる?だって王様でしょ?毎日美女と寝てる欲の権化ってイメージなんだけど?」
「・・・・・・・俺は王様向いてなかったからな」
「少しくらい傾いてくれてもいいのに」
「冗談はここらでいいか?ならはよ寝ろ」
恋愛関連は初心そうなのに、今日は妙にぐいぐいくる。まあ冗談なんだろうけど、ちょっぴり冗談じゃないようにも見えて。俺が襲えば抵抗しなさそうな危うさが・・・・・・・いや、そんなことないか。
「レイカって夜寝てるの?」
「最近は一、二時間は寝るようにしてる」
まあ起きててもすること尽きるし、メグが寝るときと起きるときは一緒にいるようにしてる。寝る必要がないだけであって、眠れないわけじゃないし。
「そのくらいしか寝てないんだ」
「逆に、シャルロットは寝すぎじゃないか?」
「人間の世界で生活してるから、人間の習慣で生きようって思ってるの」
「なるほど。にしては・・・・・・・いや、まあ俺は寝るぞ」
手を頭の下にもっていって、仰向けに。目を瞑って寝る体制に入る。
「え?ここに、いててもいいの?」
「・・・・・・・勝手にしていい」
元々ここはシャルロットの家なわけで、居候の身だし、文句は言わない。間にメグがいるので、何もしてこないだろうし。
それに俺は寝ない。今日はそうする。
そして仰向けのまま時間を待って。
シャルロットが黙ってザッと二時間が過ぎた。
目を開けてシャルロットに向ける。俺の方に顔を向けて、寝息をたてている。
「・・・・・・・・・」
少し丸まっていて、何かに怖がっているように見える。うなされてはいない、か。
夜シャルロットがうなされている日がある。悪夢を見ているのか、嫌な記憶を見ているのか。
「・・・・・・・じゃ、ちょっと失礼」
しっかり寝入っているのを確認して、右手を伸ばす。
手を通り過ぎて、胸の真ん中に手を当てる。柔らかい感触が、逆に邪魔だな。
少し集中して、シャルロットの内側を探る。
「・・・・・・・やはり、か」
薄々は分かっていたことだが、それが確定した。
三つ目に分かったこと。それは、シャルロットの闇の理由。
・・・・・・・まあ、シャルロットには恩がある。少しは頑張ってみるか。
翌日。
午前の仕事を終えて、結界内に戻ったとき。シャルロットのテンションが少し低かった。
「レイカ、おかえり」
「ん。少し早かったか」
「ううん・・・・・・・レイカ、出来たよ。術式」
「やっとか」
長かったな。想定の二倍かかっている。ようやくって感じだ。シャルロットは優秀な魔術師だし、出来に関しても信頼している。
「ごめんね、時間かかっちゃって」
「いんや。それより、さっそく頼めるか」
「うん、まかせて」
テンションの低さは気になるが、いつもの外のテーブルに移動する。
席に座って、腕をまくってミイラの左腕を剥き出しにする。
「寝転んだほうがいいか?」
「大丈夫、このまま。じゃあ、行くよ」
「ああ」
シャルロットが俺の左腕に両手をかざす。瞬間、五つの魔法陣が展開される。
真ん中の大きな魔法陣を中心に、罰点の形で小さな魔方陣が四つ。その四つの魔法陣から白い光の線が伸びて、俺の腕に入っていく。
「・・・・・・・!」
予想以上に出来のいい術式だ。腕の痛みが引いていく。
たちまち、ミイラの腕が白く発行する。そして数分後、腕に伸びる白い線が俺の中に入り切る。そして四つの魔法陣が一気に割れて、中心の魔法陣に力が集まる。
そして。一際大きな魔法陣が、強く光って。
・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・これで、どうですか?」
「・・・・・・・ああ、完璧だな」
魔王のお墨付きをあげられるほどの出来だ。流石時間を使っただけのことはある。
俺の左腕はしっかり肉がついて、ミイラから少し瘦せた腕になった。少しだるい感じはあるがしっかり動く、関節が仕事してる。
もう少し悪い状態からのリスタートかと思っていたが、流石だ。これなら少し負荷をかければいつも通りになりそうだ。
「痛いところは?」
「ない。ありがとうな、シャルロット。これで動ける」
「そっか、それはよかった」
ぎこちない笑顔を俺に向ける。さっきから元気がない。いや、朝からなかったように思う。
でもとりあえずミッションクリアだ。これでまた前へ進める。
「レイカ、は、もうすぐ出ていくの?」
「まあそうだな。明日には行く」
「・・・・・・・そっか」
「・・・・・・・それより、メグの方はどうなんだ?」
「え?」
いきなり話を振られたメグが、少しビクッとする。何を聞かれているのか分からない様子だ。
ならはっきりと。
「魔法、習ってたんだろ?」
「え!?どうしてそれ知ってんの!?」
「・・・・・・・バレてた、の?」
「いやまあ、普通に」
そうとしか言いようがない。隠れ見てたわけじゃないし、知ろうとして知ったことでもないし。
「ご、ごめん!許可もなく、勝手に!」
シャルロットがガッと頭を下げる。今日一声出てたかもだな。
「別に。で、どんくらい出来るようになったんだ?」
「え?怒らないの?」
「別に。で?」
シャルロットに怒る理由ないし、面倒くさいのでさっさと話を進ませる。
「えっと、魔力を手元に集めるくらい、かな」
「・・・・・・・うん」
なるほど。魔力に攻撃性を付与したり、放射するにはまだ早いわけか。
まあそこまで出来るようになったなら、いいか。
「じゃあメグにプレセントだ」
「え?プレセント?」
手元に出して、メグに投げ渡す。メグに両手に収まったそれは、赤い石。
「俺の魔力結晶だ」
「魔力、けっしょう?」
「簡単に言えば魔力を凝縮させて結晶化させたもの、って言っても分からないか」
本来は自然に出来るもので、採掘されるものだ。時間経過で結晶化して魔水晶やら、魔鉱石やらが出来る。
だがこれは、俺が手ずから作ったもの。表現は少し違うが偽物、贋作だ。本来のものより品質は低いが、メグにならちょうどいいと思う。
「俺の魔力が詰まった石だ」
「レイカの・・・・・・・」
「さっきの、魔力を集めるのと同じ要領でそれに集めれば、多分飛ばせる。ま、後でゆっくり試してみればいい」
威力は豆鉄砲だが、まあ子供なら飛ばせるだけでも優秀だろう。
「・・・・・・・レイカ、ありがとう!」
「ああ」
魔力の余裕と暇が出来たからこそ実現した思い付きだ。俺にしては珍しい気まぐれだ。
正直魔力を無駄遣いできる状況じゃないが、使う予定だったものが浮いたとなれば使ってもいいと思ってしまうものだ。大量に使ったわけでもなし、消費は気にしないでおこう。
「いいなぁメグちゃん」
「お前は自分でもっといいの作れるだろ」
魔術に関しては今はシャルロットに軍配が上がる。
「ううん、私も、レイカの魔力欲しかったなって」
「魔力て。まあ時短すると魔力食うから、我慢してくれ」
時間かけてゆっくり作れば魔力消費を抑えられるが、即席で作るとかなり使ってしまう。流石にそこまで無駄使いしたくない。どうしてもって言われたら立場上断れないが。
「うん、そうだよね」
「やけに静かだな」
「え!?そんなこと、ないよ?」
いつもならもっとぐいぐい来るところだ。二、三回断らないと引かないところだと思う。それは、今日の元気のなさと関係があるのだろう。
「迷惑は、かけたくない、か、ら・・・・・・・」
「・・・・・・・シャル、ちゃん?」
メグ、シャルちゃんって呼んでたのか。
じゃない。耐え切れなくなったように、シャルロットの頬に涙がつたった。
「あ、あれ?な、なんで・・・・・・・ごめん!目にゴミが」
「流石に無理あるんじゃないか?」
「そ、そんな、こと・・・・・・・」
シャルロットは良くも悪くも素直な性格だ。それが感情を表面に出してしまったようだ。まあ隠し事苦手そうだし。
「・・・・・・・別れるのが寂しくなったのか?」
「それは・・・・・・・そうかも。離れ離れは寂しい、けど、わがままも言ってられないから」
涙を拭いながら必死に泣き止もうとしている。声の震えも無理やり抑えて。
・・・・・・・彼女がこのまま事情を隠し通そうとして、それをやり切ったのなら、別に関わらないようにしようと思っていた。ただ、ここまで見せられて、何も思わない俺じゃない。
「・・・・・・・なんで、術式の完成を正直に白状したんだ?」
それを言わずにおけば、もう少しは俺を拘束できたはずだ。まあこいつほどのお人好しがそんなこと出来るわけないが、一応聞いておく。
「え?そんなの、当たり前、だよ。私に任せてくれたレイカに、そんなこと出来ないよ」
「俺はしても仕方ないと思うけどな」
「別れるのが寂しいくらいで、そんなこと、」
「まあ本当にそれだけならな、しょうもないとは思うけどな」
「え?どういう、」
「全部知ってるってことだよ」
別れることが寂しいのは分からなくもないが、それだけだったら流石に反応が過剰すぎる。別れる間際に涙するなら分かるが、一日前でそうはならないだろ、普通。
それに違和感の一つや二つ、気づかないわけがない。この街にシャルロットの痕跡がないこと。仕事時間の短さに寝室の件。そしてなにより、この結界の存在だ。
シャルロットが人間の生活を心がけているのなら、そもそもここを隠す必要はない。もうすでに魔族はこの街で暮らしているのだから。
人間のように暮らしたいなら、人間の街で普通に暮らせばいい。結界も、それを隠そうとする行為も必要ない。別に人間に狙われているわけじゃないのだし。
その二つの違和感と、昨夜の確認。それで確定となった。
「全部知ってるって・・・・・・・」
「・・・・・・・呪い」
「ッ!!ば、ばれて、たの?」
「まあな。忘却の呪い。かなり強力の」
忘却の呪い。高等魔術の一つで、見るのは初めてだ。
効果は名のとおり忘却。時間経過で他人の記憶から呪いを受けた人の存在だけが忘れ去られるという、質の悪い呪い。それもかなり強力な術者のものだ。
魔力は性質的に、他人に直接干渉することが難しい。発射型の魔術で間接的、物理的に攻撃を加えることは出来るが、例えば密集している人の中の一人を選択して影響を与える、直接害を与える、とかはかなり技術と消費がいる。
魔力にも感情が影響するからだ。例えば、仲間に魔力を分け与えることは出来るが、相手から魔力を奪うのは出来ない、みたいなこと。仲間に魔力を分け与えるのもかなり難しいが。
呪いも同じ。呪いなんて好きで受け入れる奴はいないから、呪うこと自体が難しい。さらには、呪いをかけるには魔力的な干渉が必要で、少なくとも近づかなければならないから、こっそりってのも不可能だ。今回の場合は触れられない限りは難しい。
こんなものどこで貰って来たのか。
「バレてたんだ」
「誰にかけられた。こんなこと出来る奴が人間界にいるとは思えないが」
「・・・・・・・多分、お母さんだよ」
「・・・・・・・なるほど、押し付けられたのか」
・・・・・・・えぐいな。
「分かっちゃうんだ。・・・・・・・子供の頃から一人だから、多分そう」
呪いを誰かに移すのは基本難しいが、血縁関係があるのなら話は別だ。魔術において、縁というものは思ったよりも重要な意味を持つ。
それに加え、子供相手だ。何も分からない子供なわけで、感情が左右することも少ない。
「・・・・・・・むかつくな」
「れ、レイカ?」
「ん、あいや、何でもない」
しまった、殺気が出てしまった。
自分が楽になりたいから、子供に押し付けて放置なんて、くそ親にも程がある。そんな親にイラつきを覚える感情はまだ持ち合わせていたらしい。
でも、子供の頃からシャルロットは一人だったのか。物心ついた頃から親もいなくて、街の人にも覚えられていない。何というか・・・・・・・悲しすぎる。
「メグすまん。何でもない、怒ってないから」
隣に座ってるメグが少し怯えているのを感じて、頭をなでなでする。
そういえば、メグも親もろくでもなさそうだったな。俺の親も。なんでこんなくそ親しか出てこないのやら。
「シャルロット、すまん。昨日触れて確かめたが、すぐには解呪は難しそうだ」
解呪の術式は持っているが、今回のはかなりレベルが高い。フェイのとはわけが違う。
フェイの呪いは魔力の性質を直接呪いの効果に乗っけたもので、呪いの術式を編むのも簡単で、ゆえに解くのも簡単だった。いや、決して簡単ではないが。
だが、今回は存在に作用する大掛かりで複雑なものだ。解くどころか、正体、全貌を明らかにするだけでも時間がかかる。
「触れて?」
「まあ、触れて」
胸に。いや、心臓に。
「分かってるよ。私だってずっと解く方法を模索してみたけど、無理だった、から?え、今レイカ、すぐにはって言った?」
「まあそうだな。今からだとつきっきりで作業しても三週間はかかる。すまんがそんなに時間とれない」
フェイのは元々知っている魔力に術式だったから解呪できただけで、初見の呪いなら一日はかかる。存在に作用するほどのものなら、そんだけかかるのも仕方ない。今は魔力適正も下がっているわけだし。
「待って。解こうと思えば解けるの?」
「まあ、解ける。期間ははっきりとはしないがな」
「・・・・・・・私が、ずっとずっと、頑張って解こうとして、それでも出来なかったことを」
「いやだから、流石に今から三週間はきついって」
「そう、だよね。そんな迷惑はかけられない、ってえ?ちょっとまっ」
「ん?どし、た」
シャルロットの様子がいきなりおかしくなったと思ったら、俺の首に刃が向けられる。シャルロットの手から伸びる光剣だ。
案の定、シャルロットの目は蒼く。
「出来るのなら、直してよ!」
「・・・・・・・今は時間的余裕がない。無理だ」
「なんでっ!たったの三週間でしょ!?」
その口調は、いつもの蒼目のシャルロットとは程遠く。それでも、本人だと分かる。
「三週間も、だ」
「なんでよ!三週間くらい・・・・・・・この子が、どれほど長い間孤独に生きて来たか分かんないの!?」
「・・・・・・・・・」
俺の喉元の光剣が、わなわな震える。苦しそうな声が、この結界内に響き渡って。
「生まれてからずっと!親に裏切られて!誰にも覚えられなくて!毎日同じ人に初めましてって挨拶しなきゃならないこの子の気持ちを一ミリでも分からないの!?」
「・・・・・・・同情するよ」
「じゃあなんでっ!思ってくれるなら、どうしてこのまま立ち去ろうだなんて思えるの!?どうしてっ!」
「言ったろ。時間が惜しい」
こんなとこで三週間も無駄に出来ない。問題を先延ばしにすることは寿命を縮めることと同義だ。
安全確保、謎の解明。それらを急がないと俺に安寧は訪れない。何もかもが間に合わなくなることだってある。
「腕を治してあげたのに!」
「そう契約した覚えはないし、そっちから干渉してきたはずだ」
「じゃあその腕またぶった切って契約させる!」
その瞬間、シャルロットが動く。首につきたてていた剣を引いて、俺の左側を躊躇なく切りかかった。
地面に亀裂が入る。草が散って、宙を舞う。俺は右に転がって、シャルロットに向きなおる。初撃を外してもなお向かってくるシャルロットには怒りがあった。
アルスを取り出す。それで右から迫りくる横一閃を軽々受け止める。いや、そのまま弾き飛ばす。
光剣の光は散って、シャルロットは数歩後ずさる。それでも、まだ向かってくる。今度は悲しみの色で。
手を振り上げて、左側への攻撃。それもアルスで受け、剣の軌道を地面にずらす。と同時に、一気にシャルロットとの距離を詰めて、左手を首に伸ばす。
手は手刀。手先には、光剣。
「まだ、やるのか?」
「・・・・・・・それでも!!メグちゃんを、人質に、やめてっ!!」
言葉を遮るように、でも確かに一つの口で、結界内を静寂にした。喉が張り裂けるような、悲痛な叫び。
多分ずっと言っていたのだろう。もう一人のシャルロットに、内側からずっと。それがついに漏れて出たのだ。
(もう、やめてよ。もう)
(でも!・・・・・・・・・分かったよ)
シャルロットが膝から崩れ落ちる。その場でヘタって、顔を伏せて、目元を拭いてもなお流れ続ける涙を拭おうとしていた。
「ごめん、ごめんなさいっ!ごめん!本当に、本当にっ」
泣きながら謝り続けるシャルロットを見て、少しだけ、胸が熱くなった。
その震える肩が頼りなくて。触れたら壊れてしまいそうで。このままにしたら枯れはててしまいそうで。
・・・・・・・少しだけ、護りたいと思った。
「・・・・・・・分かってる」
アルスも光剣もしまって。何にもない自然体の俺で、治った腕を広げてシャルロットを大きく包んだ。言ってしまえば、抱きしめた。
「・・・・・・・え?」
「あいつが、本気で言ってるんじゃないってことくらい」
蒼いシャルロットの行動全部がこっちのシャルロットに対しての感情で、俺に何かするつもりはなかった。
攻撃して来たときだってそうだ。元々危害を加える気などなかったんじゃないかと思うほど、行動と意志の噛み合わない攻撃だった。
「・・・・・・・でも、」
「それに・・・・・・・シャルロットの悲しみも」
「ッ!!」
「・・・・・・・全部は分からなくとも、分かってる」
「・・・・・・・・・うぅ、ううあああああぁぁぁ―――――――」
俺の胸を掴んで、盛大に涙を流す。俺の服が濡れていくのを感じるほどの涙が、一気に流れ出てくる。
幼き体で、抱えきれない業を背負わされた。小さき身では耐え切れない孤独を余儀なくされた。ずっと星に願ってきたことは、ことごとく叶えられなかった。吐き出すことすら、難しかった。
その長い年月が、俺の胸の中で流れていく。少しも楽にならないかもしれないし、実際何も変わらないかもしれない。
それでも俺は、彼女のか弱い体を抱きしめる。体温が伝わるように。暖かさが残るように。孤独を思わせないように。
・・・・・・・記憶が、いつまでも続くように。
シャルロットが少し落ち着いたところで、口を開く。
「・・・・・・・シャルロット。安心しろ、俺は忘れない。メグも、お前をずっと覚えてる」
「・・・・・・・ほんと?」
「約束する。絶対忘れない」
「・・・・・・・うぅああああぁぁ―――――――」
子供のように泣き叫ぶピンクの美少女は、気が済むまで俺の胸で震えていた。