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17話 二人のシャルロット

 開けた草原に距離を取って立ち会う。反対側には碧眼のシャルロット。武器は見えない。

 かくいう、俺も何も持っていない。お互い丸腰の状態で向かい合う。

「お前はさっきのとは随分違うんだな」

「あっちは明るい魔術師、こっちはクールな近接仕様。いい塩梅でしょ」

「そういうの気にするのな」

 ギャップを二重人格で演出するとか、聞いたことないな。

「どうでもいいんだよ。どうせ私はサブの人格なんだから、って言うと怒られるんだった。分かったから、悪かったって」

 一人芝居をしている。今内側であっちのシャルロットが喚いているのか。頭の中うるさそうだな。

「あっち私に普段出てもらってるの。これは戦闘時しか外に出ないおまけみたいなものだから」

「で、そのおまけがどうして戦いたいんだよ」

「別に。ただ気になっただけだよ。魔王の力が。本当の魔王かどうかって意味でもね」

 好奇心のおすそ分けだろうか。人格が違くともシャルロットってことだろうか。知りたいと思う気持ちは見えないだけで、内側に持っているのかもしれない。

 だが、それを言われると少し厳しい。

「だったらやっても意味ないぞ。今は魔力全然使えないし、魔王の部分一ミリも見せれないから」

「・・・・・・・・・」

「やめとくか?怪我してもアレだし」

「・・・・・・・何かないと、そっちが気にするでしょ」

「ん?」

 視線を外して、いきなり小声になった。またあっちのシャルロットが何か言ってるからか?

「ただ受け取るの嫌でしょって言ってるの!」

「・・・・・・・ああ、そういうこと」

 つまりは、俺に気を遣ったってことか。ただ何かを与えられるのは気に残るから、返す機会を与えてくれたってことだ。

 クールなのに、あっちのシャルロットの性質も残ってるのか。

「別に、戦いたいってのも半分あっただけだから。それに、仮に負けても他にもいろいろやってもらうから」

「確かに、良いキャラしてるな」

「うるさい。で、返答は」

「変わらない。受けるよ」

 剣だけでも、仮に剣がなくとも白兵戦なら勝てる自信はある。

「そう。でも、模擬戦だから」

「分かってる。流血沙汰にはしないし、させない。メグも見てるし」

 さっきのお茶会の席から、こっちの様子を窺っている。山盛りクッキーを食べながら。食事中にスプラッタはよくないからな。

「傷つきもしないから、安心して本気でくればいい」

「片腕しかないのに余裕だね」

「この怪我の痛みは全然余裕じゃないけどな」

 言葉通りの、激痛だし。

「・・・・・・・無理は、しないでね」

「優しさ出てるぞ」

「うるさい。じゃあ、行くよ」

 目に闘気が入った。蒼い威圧的な目。来る。

 腰を少し下げて、迎撃態勢に入る。と、同時に。

 シャルロットが一気に目の前に。

(速い)

 肘を出して胸の前に回した右腕。そのわし掴むような形の手から。

 光の柱が一本、形成される。

 そのまま、横一閃、俺に襲い掛かってくる。

(光剣、ね)

 態勢を低くして、回避する。頭上すれすれで通り過ぎる光剣を確認すらせずに、カウンターに入る。狙いは腹に右ストレート。

「間合いには!」

 目の前に出された左手。さっきとは違って開かれている。術式のパターンもさっきの光剣とは違う。

 そして思い出される。戦闘開始の突貫。あの直線的な速攻。シャルロットの元の位置の地面のえぐれ。

(こいつの得手は)

 衝撃波!

 攻撃を中断、咄嗟に右に跳ねて避ける。どうにか避けたが、衝撃波の余波で吹き飛ばされる。

 背中で受け身を取って、すぐさま足を地面に乗せる。

「仕切り直させない!」

 休まず攻撃が来る。今度は右腕を開いて、さっきと同じ横一閃。なら、次は。

 さらに左手からもう一本。狙いはもちろん下。膝あたりを狙って回避の空間を潰しに来た。下には避けれない。光剣は長いから、後ろも遠い。

 けど、それは悪手だ。俺もシャルロットに倣うとしよう。

(!?私の!)

 足に衝撃波の術式で距離を詰め、宝剣アルスを逆手で取り出し、シャルロットの首に突き付けた。

 間合いが隙だ。手から剣が出ているのなら、そして両手を攻撃に使っているなら、腕の中はフリー、安全だ。

「まだ、やるか?」

「・・・・・・・・・降参」

 喉を鳴らして、光剣をしまった。その言葉を聞いて、俺もアルスを消す。

 そしてお互い一歩下がって、向かい合う。

「私の術式。それに障壁まで張ってたのに」

「衝撃波の術式くらい使える。障壁は貫通術式で対処したまでだ」

 シャルロットの周りに障壁があることは見えていた。だったら、障壁や防壁に有効な術式をアルスに付与すればいい。アルスは術式付与に長けているから余裕だ。

「・・・・・・・偽装したのに。それに反応遅れた」

「まあ障壁の偽装は完全には出来ないから。反応が遅れたのは気配をぼかしたからだな」

「最後の殺気も。もしかしてアサシン?」

「技術として体得してるだけだよ。ちゃんと魔王だ。それに、そっちが勝負急いだから負けたんだろ」

 通じなかった攻撃を二度目もしてくる、なんて考えにくい。回避を封じてくることはバレバレだったし、もっと安全に引いて攻撃されたらもっと厳しかった。光剣は射程が長いし。

 攻撃が通じなかったとしても、障壁で虚を突いて仕留めようと思っていたんだろう。俺が最初に見せた攻撃は右ストレートで、アイテムボックスも見せてなかったから、逆にこっちが虚を突いたってことだ。

「むう、なんか悔しい」

「でもこれでいいのか。腕の治療は」

「二言はないよ。それに元々治してあげるつもりだったし。あっちの私はお人好しだから」

「確かにな」

 人への親切を当たり前のように言葉にしている。常識のように親切を語る彼女には、裏が見えない。

「じゃあ、もう戻る。後はあっちの私と話して」

「ああ。でも、たまには出て来いよ。あいつうるさいから」

「・・・・・・・うん。頼んだよ、あの子のこと」

 それを最後に、こっちのシャルロットは目を閉じた。




「ということでっ!あなたの腕は私が治すね!」

 目を開けただけのシャルロットが手をパンッと叩いて笑顔で言った。さっきとの差がすごい。

「にしても凄いねぇ!あんなにもあっさりと私に勝っちゃうなんて!あの魔術も見たことないのだったし!」

「まあ魔王だしな」

 言うなれば初見殺しに近い戦闘だったけど。

「貫通の魔術?あれ今度教えてよ!」

「まあいいけど、情報と引き換えだが、いいか?」

「もちろん!知ってることは全部話すよ!」

 ここで色々足りない知識、常識も含めて補えそうだな。俺の正体を知っている大人が出来て良かった。遠慮なく聞ける。

 中身子供みたいで心配だが。

「・・・・・・・とりあえず落ち着くか」

「そうだね、ゆっくり話そう!お茶会の途中だしね!」

「ちょ、引っ張るなよ」

 俺の手を引いて、メグのいる席に引っ張ってくる。ゆっくりって言わなかったか。

「早く早く!疲れを癒そう!」

「それより、腕の治療出来るのか?」

「出来るよ!本で見た事あるから!再生魔術の応用で行けると思う!」

 ちゃんと分かっているようでよかった。再生魔術の応用で正解だ。魔術式を少し弄って生命力に干渉できるようにする。

「期間は四日ほどで行けそうか?」

「分かってるんだ!うん!多分そんくらい。はい座って!」

 俺の椅子を引いてくれるので、遠慮なく座る。至れり尽くせりだな。

「じゃあ、その間に仕事があれば回してくれ」

 腕の再生は術式を組むのと準備に殆ど時間を使う。俺自身は自由に動ける。

「いいの?」

「あっちのお前はそうして欲しいみたいだったからな。まあ恩は返すよ」

「そっか、ありがとう!」

 つっても、手伝いなんて簡単なものしかなさそうだけどな。お使いとか、そういうの。

「じゃあ、話を聞かせてくれ。今は情報不足なんだ」

「それもいいけど、その前に!」

 自分の席に戻ったシャルロットが身を乗り出して、俺の顔に顔を近づけてくる。

「恋バナ聞かせてよ恋バナ!」

「・・・・・・・・は?」

「恋バナ!してみたかったの!したことなかったから!」

 唐突すぎて素っ頓狂な声が出る。どうしていきなり。会話の前後が繋がらないんだが。

「・・・・・・・人選間違えてるだろ」

「いやいやいや!人選バッチリだよ!魔王の恋バナ聞く機会なんて普通に絶対ないからさ〜!好きな人は?許嫁とかいたの?」

「いるように見えるか?」

 俺は俺の望む未来のために鍛錬を惜しまず続けてきた。恋愛なんてまともに出来なかった。

 もし、いたとしても言うわけがない。いたとしても。

「いてもいいでしょ!王様の立場で許嫁を親に決められて。でも自分には心に決めた愛しい人がいて。その人と添い遂げるため、親に反発して逃避行する!みたいな!」

「小説の読みすぎだ」

 この世界にも、地球のラノベみたいな設定の物語はあるんだな。

「えー」

 不満そうにされても。・・・・・・・でも。

「・・・・・・・それが出来たら良かったんだけどな」

「え?今!」

「そんなの出来るわけがないって言ったんだよ」

「いやいや!聞いてたよちゃんと!出来たら良かったって、好きな人はいたってことじゃない?」

 ぼそっと小声で言ったのに、無駄にちゃんと聞いてやがる。まあこのテーブルひとつの距離なら、当たり前か。

「うるさいし、それ以上話は広がらない。それに、恋バナってんならお前も話すことになるぞ」

「私は・・・・・・・ないよ」

「じゃあ話は終わりだ。自分のがないなら人に振るなよ」

「そうだね。私は困った奴だね!ははは」

 無理して笑うように、頭の裏を書いて笑顔を貼り付けた。これは彼女の闇の部分らしい。それに不用意に触れるほど、彼女に踏み込む理由はない。

「じゃあもう本題に入っていいか」

「そうだね!聞きたいことじゃんじゃん聞いてよ!」

 素直に俺の言葉に従った。もうちょい粘りそうなものなのに。

 触れて欲しくないから、話題を終わらせたかったんだろう。それは逆に気づいて欲しいっていう合図かもしれない。というか、きっとそっちだ。

 それでも、俺は優しくはない。面倒事は、避けさせてもらおう。




 そして、常識と情報を整理できた。小一時間、シャルロットと話した収穫だ。

 まず、今は界歴二八四〇年、俺はきっかり百三十年封印されていたらしい。メグの言ってることドンピシャだったな。

 俺の封印後の経緯は俺の指示通り、魔王幹部の一人が話し合いに応じて、人間側の勝利で終戦。魔族への偏見も思った以上にすぐ緩和して、現在の魔族と人間の共生社会が生まれたらしい。

 あとは、めぼしい情報としては、三大怪魔の存在。数十年前、人間界におかしな魔物が出没するようになったらしい。神出鬼没で、たまに出てきては街を壊滅させるほどの怪生物だとか。

 使えるのはこれくらいだった。魔王幹部の情報はもちろん、宝具の情報は流石になかったし、他の街の情報もシャルロットは疎いらしい。

 というか、この話し合いの間のほとんどはシャルロットの無駄話だった。収穫、あんまないな。

 残った紅茶を飲み干して、一息つく。

「ねえねえところで!魔王様の話聞かせてよ!どんなことしてきたの?部下とか、出会ってきた強敵とかさー、」

「昔の話は、したくない」

「・・・・・・・嫌なこと聞いちゃった?」

「いや、別に。ただ話すのが面倒くさいだけ」

 話したくないこととか、トラウマとかは別にない。ただ、話が長くなりそうなので避けただけだ。

「そっか。まあちょっと、血生臭い話になっちゃうよね」

「まあそだな。それより、どんな仕事あるのか、聞いていいか?」

 一応聞いておく。どんな仕事でもこなせる自信はあるが、話すこともあまりなくなってしまったし。

「んー・・・・・・・正直言うと、肉体労働、かなー」

「肉体、ね。どんなだ?」

「・・・・・・・魔獣討伐と素材収集だね」

「・・・・・・・割とハードなのな」

 思ったより、だった。もっとふわふわしてると思ったが、冒険者協会の仕事貰ってるのかも。

「ごめんね!怪我人にやらせることじゃないよね!」

「いんや問題ない。いい運動だ」

 俺にとってはイージーだ。胸の傷は治ってるわけだし、危ないことはない。

 あまり魔力は使いたくないが、仕方ない。最小限に抑えれば問題ない消費量だ。

「ところで、聞いていい?」

「・・・・・・・ん?」

 クッキーを飲み込んで、シャルロットに目を向ける。

「メグってどういう経緯でレイカと旅してるの?」

「焼け落ちた村で助けて、保護した」

「へー、優しいんだ、レイカ」

「なわけ。邪魔にならないから連れてるだけだよ」

 俺に似合わない言葉ナンバーワンだな。悪の権化に優しいとか、それはそれで笑えるな。悪の権化ってほど悪くもないと思うけど。

「・・・・・・・あのさ」

「うん?」

 さっきから、なんか大人しいような気がする。気のせい、なことはないよな。

「これから私の家泊まってく、よね?」

「・・・・・・・嫌なら別に宿でもいいけど」

「いやいや!泊まってって!絶対、泊まってってね!」

「ん?あ、ああ」

 やっぱ様子がおかしい。何を気にしているのか、いまいちわからん。

「あの、でも、ね・・・・・・・」

「はっきり言え。何をそんなに気にしてんだ」

「・・・・・・・寝室、私と同じ部屋で、いい?」

「・・・・・・・別に、何でもいいけど」

 家を見た感じ、他にも部屋はたくさんありそうだ。他の部屋に物があったとしても、空いてると思う。

 それにもかかわらず、同じ部屋で寝たいと。なぜ。

 分からないが、理由は聞かない。理由が言いずらいから、さっきから様子がおかしいんだろうから。

「ま、何でもいいけど、数日、よろしく頼む」

 ここは結界が張られているし、宿でないっていうのは、結構リラックスできそうだ。しかもお風呂とかキッチンとかもあると。

 久しぶりにゆっくりできそうだ。

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