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ギルド長と残されたのお父様

門から町の中央広場へと続く大きな通りから少し北へ逸れた辺りに石造りの無骨な建物があった。

入り口の扉には冒険者ギルドを表す竜と剣が組み合わさった絵柄の看板が下がっている。


「ここが、この町の冒険者ギルドだが……………で、お嬢ちゃんはこんな時間に何の用なんだ?」


「オラフさんから、ギルドなら夜中でも換金してもらえると伺ったのですが………………誰もいらっしゃらないようですね?」



私が小さくため息を吐きながら真っ暗な建物を見上げると、ボンズはあちゃーといった表情で顎のあたりをポリポリと掻く。



「あーーー、そういうことか……………申し訳ないが、職員はみんな飲みに行っちまったな」



どうやら、先程飲みに繰り出した面々にはギルド職員もいたようで、留守番役もギルドに戻らず一緒に飲みに行ってしまったらしい…………。

かなりおおらかなギルドのようだ。



「本当に済まない…………俺が換金を出来れば良いんだが、一人では金庫が開けれんのだ。

換金するのは明日になってからじゃ駄目なのか?」



職員による横領や不正防止のため、ギルドの金庫は一人で鍵を開けることが出来ないらしい。



「今夜の宿代が欲しかっただけですから、野宿すれば問題ありませんわ。

では、また明日伺わせて頂きます」



実際、前世では野宿なんて当たり前だったから、今も野宿することに何ら拒否感はない。

ただ野宿するための道具をまだ持っていないので、せめて屋根があるところの方が良いのだけれど…………


優雅にお辞儀をして立ち去ろうとしたところで、焦ったようなボンズに慌てて引き止められる。



「ちょっ………ちょっとお嬢ちゃん、野宿だとっ!?

待て!!今夜の宿代だろ!?

………………これ持っていけ!!」


「あら?結構ですわ、理由もなくお金を頂くなんて……………」


「いやいやいや待て待てっ……………そうだ、治療費だ!!オラフの怪我を治してくれたんだろう?」



ジャラリと音が鳴る革袋を無理やり押し付けられる。

私は思わず革袋を受け取り、こてりと首を傾げた。



「そうだ、治療に対する報酬は正当な理由だぞ。

宿も紹介する。こっちだ」


「……………正当な報酬

……………それなら頂戴いたしますわ

ボンズさん、有難うございます」



ニッコリ微笑むとボンズさんは照れ臭そうに頬を赤くし顔を逸らすと、ズンズンと先へ歩いていった。

どうやらこの町のギルド長は見た目によらず、随分と世話焼きのようだ。





◆◆◆◆◆





「あぁ………カテリーナは見つかったか!?」


「いえ…………街道沿いや宿屋を中心に警備兵が捜索しておりますが全く手がかりもなく…………馬車乗り場にもそれらしい令嬢を見かけたという情報は出てきておりません」



カテリーナの父、キャスタリア公爵は執事から報告を受けると普段は丁重に撫で付けている髪をワシャワシャと掻き毟る。

昨夜、目の前で突然意味不明の別れを告げられバルコニーから飛び降りた愛娘…………階段から落ちて雰囲気が少し変わったような気がしたが、突然家出をする様な娘ではない…………しかもあれだけ好いていた殿下との婚約者候補を辞退までして……………。

いったい何があったのだ……………誰かに唆されたのか?

妻はカテリーナが飛び降りたのを見て、ショックで気を失ってしまい今もベッドの上である。


そこへ別の使用人が慌てて飛び込んできた。



「だ………旦那様、王宮より使いの方が!!」


「くっ……………間に合わなかったか」



カテリーナが王宮に届けさせた手紙を何とか殿下に渡る前に取り戻そうと慌てて手を回したが、どうやら間に合わず殿下が手紙を目にしてしまったらしい。


とりあえず乱れていた身なりをササッと整えると、王宮からの使いを応接間に通す。

早朝にも関わらず、キッチリと正装をした王宮の使いは貴族らしい笑みを何とか貼り付ける公爵を無表情にチラリと一瞥し、恭しく書簡を広げ朗々と読み上げる。


…………貴族特有の回りくどい言い回しが多いが、簡単に言えばカテリーナ嬢について確認したいことがあるので早急に城まで来るようにといった殿下からの呼び出しの内容だ。


突然の呼び出しだろうが、断れるはずもなく丁重に書簡を受け取った。






……………


カテリーナは幼い頃から不思議な娘だった。何より目立つのはその美しさだ。

髪の色や瞳の色は私や妻に似てると言われるが実際に見比べてみれば綿とシルク………ガラス玉と宝石ほど違いがある。

顔立ちも誰よりも愛らしく美しかった。


しかも好奇心旺盛で何にでも興味を持ち、物心付く頃には優秀な家庭教師を何人も付けた。しかし、教えられたことはすぐに吸収してしまい十歳になる前には国で一番………いや、大陸で一番の令嬢となっていた。

そしてカテリーナの求める要求は常に高く、他人へも容赦なく厳しい娘は使用人達からも同世代の令嬢令息からも恐れられていた。


実は王宮からはカテリーナが生まれたときから幼い殿下の婚約者にと何度もしつこいくらいに打診が来ていた…………カテリーナの他人に厳しすぎる性格からして心配が大きくやんわり断っていたのだが、試しに殿下と引き合わせてみればカテリーナは殿下に好意を持ったらしく、殿下の婚約者に相応しくなろうと更に自分を磨き、他人への要求も高くなっていった。



「……………旦那さま………お嬢様は殿下の寵愛に気付いておられなかったのではないでしょうか?」


「まさか……………」


「お嬢様は……………少々思い込みが激しい方でしたので、もしかしたら………と」


「…………………


………支度を済ませ、すぐに王宮に向かう。カテリーナの捜索は引き続き範囲を広め続けろ」




読んでいただきありがとうございます。

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