表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

森での人助け

一先ず追手に見つからないように、街とは反対の森に入っていく。

そこまで深い森ではないが、流石に日の落ち真っ暗になった森には人の気配はない。


前世では何度も家出をしているので追手を撒く事なんてお手の物である。しかも相手は私をただの令嬢と思っているからいきなり森を探捜索することはないだろう。


私は森を歩くには少々長いスカートの裾をつまみ上げ、真っ暗な森の中を優雅にも見える動きで軽やかに駆け抜ける…………うん、どうやら身体能力も上がっているみたいだ。


トーントトーンと、リズム良く跳ねたところでグニョリとした不快な感触を足の裏に感じる。

微かに眉を寄せると、素早く後方にあった岩の上へと跳び移った。

その瞬間、私が居た場所に縄のようなものが、ヒュンっと空を斬る。


ヌラヌラとした触手のようなものが、その周辺の地面を探るように動いている。

ズリ……ズリ……と引きずるように現れた本体は不思議そうに頭らしき部分を傾け周囲に首を巡らすが、何の反応も見つけられなかったのか再びズリ…ズリ…と木の根元の穴に身を潜ませた。



「……………大ナメクジ」



大ナメクジは、見た目は触手を持つ大きなナメクジだが、触手の動きは素早く表面を覆う粘液で刃が滑るため一度巻き付かれると抜け出すのに中々骨が折れる厄介な魔物だ。夜行性で日中は木の洞や地中に隠れて出てくることはまず無いので、森で野営をすることのある冒険者や行商人以外からはそれほど恐れられてはいない。

私なら魔法で問題なく大ナメクジを倒すことも出来るが、好き好んでグロテスクな触手を相手にしたくないので触手を踏まないよう注意をしながら跳び越える。


他にも何体かの大ナメクジを避けながら軽やかに走り抜けた。ちなみに大ナメクジがいる森は大ナメクジを捕食する魔物も多いと昔から言われており、潜んでいる他の魔物に出くわすのも面倒なので気配を消して注意深く進むことにする。


このまま森を抜ければ小さな町があったはず…………今日のところはその町で宿を探して………あ、換金してないからお金が無かったわ…………うーん………どうしようかしら……………どこかお店が開いてれば良いけど……………と、ぼんやり考えながら走っていると微かにうめき声が聞こえた。


…………………?



ピタリと進むのを止めて周囲の様子を窺う……………が、魔物や獣の気配はない…………でも……………僅かに血の匂いが…………


キョロキョロと血の匂いの出処を探る……………あ、この穴かしら?


イノシシなど小型の獣を捕まえる罠だろうか…………ポッカリ空いた穴に木で作った荒い格子の蓋がされている。

木の隙間から見える穴の底にはうずくまりながら小刻みに震える人のような塊……………



「………………あのぉ……………大丈夫ですか?」


「………………ひぃっ!!」



ビクンと大きく身体を震わせると頭を抱え更に小さく縮こまる。



「怪我をしているのですか? 大丈夫ですよ? 私は人間です」



私はフードを外し、落ち着かせるようにゆっくり、なるべく優しく語りかけると、穴の中の人物は恐る恐るといった感じで顔を上げた。

僅かに届く月明かりに、穴を覗き込んだ私の黄金色の髪がキラキラと輝く。



「ふぁぁ…………………め………女神さま……………?」


「??………………違いますよ?」


「じゃあ……………天使さまか……………そうか………俺は死んでしまったのかぁ……………」


「だから、違います……………私は人間ですよ?」


「あぁ……………じゃぁこれは夢だな……………」



男性はボケーっとこちらを見上げている。髪を後ろで一括に縛り、身に付けている装備からして低レベルの冒険者か、町の猟師だろうか?軽く動きやすい皮の装備は使い込まれところどころ穴が空いている。

噛み合わない会話にどこか頭でも打ってるのかもしれないと心配になり、回復呪文を唱えるとキラキラと光の粒が男に降り注いだ。



「な……何だ……………? 光が…………いったい何が…………………

っ!? 足の痛みが……………消えた!? 腕の傷も!?」



男は驚いたようにペタペタと自分の身体を触る。



「どう?…………上がってこられるかしら?」


「あ………………あぁ、これなら……………」



男は飛び出した石や木の根に掴まり、身長の倍ほどの穴をよじ登るとガバっと私の前で地面に額を擦り付けた。



「女神さま!!天使さま!!助けてくださりありがとうございますっ!!」


「…………あの……………何度も申し上げていますが、私は女神でも天使でもありませんよ?

わたくし、カテリーナと申します」


「…………へ?」



キョトンと顔を上げた男に私はスカートの裾を少し摘み上げ優雅にお辞儀をした。



読んでいただきありがとうございます。

宜しければ評価とブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ