反省会
スーパー長らく大変お待たせいたしました!
PCが壊れてしまい、プロットが全部なくなって意気消沈してました(´;ω;`)
またもや少しずつになりますが更新していきますので重ね重ね気長にお待ちいただければと…
スタート地点の広場に戻って座るなり、フィリップスが恐る恐るといった感じに挙手をしながら質問をしてきた
「あの…イケル先生。僕が捕まった理由はなんとなくわかるのですが、他の3人はどうやって捕まえたんですか?」
「そうだな。捕まえた順番に種明かしをしようか」
そう俺が切り出すと、少し複雑そうにしながらも聞く姿勢をみせる4人。
最初に名前を呼ばれるであろうロベルトは相変わらず意気消沈気味だな
「まず、俺は大通りを進んだであろうロベルトを、シンプルに走って追いついて捕まえた」
種も仕掛けもない。あれだけの時間的猶予があったにも関わらず、ただ走って追いつかれた。
その事実を聞きロベルトはガクッと肩を落とした
「ロベルト。君が背負っている大剣はどれぐらいの重さだ?」
気を落として直ぐに名前を呼ばれて、ビクッと驚きながらロベルトが答える
「じゅ、12キロです…」
「12キロ!そんなに重たかったのか!せいぜい7,8キロくらいだと思っていたぜ!--んで、10キロ以上の重りを付けて、身体の出来上がっていない人間が成人男性に走って勝てると思うか?」
全員を見渡すように視線を巡らすと、皆が頭を横にフルフルと降る
「まあ、そういうことだ。対峙しようとしたタイミングで、俺も速度を上げて振り向いた瞬間に捕まえたわけだが、ロベルト。君が捕まる直前、俺を迎え撃とうと剣を構える時『この先には進ませない!』って気迫が乗ってて素晴らしかったぞ!」
最後の言葉に、皆からの拍手が起こり、予想外の称賛に照れて頭を掻くロベルト
「まあ、その気迫のおかげでその先にエリシアが居ると確信出来たんだがな」
その言葉を受けまたもや肩を落とすロベルト。「クスクス」と笑いも起きているが、エリシアの視線だけは「あなたのせいで私も捕まったのですよ?分かってます?」と、ジト目を向けている。
……エリシアさん。その目、怖いです…
「次にエリシアだが、これに関してはズルをした」
「ズル…ですか…」
エリシアの性格上、正々堂々を好みそうなので、あえて『ズル』という言葉を使うと、案の定先ほどロベルトに対して見せたようなジト目を俺にもくれる貴族令嬢。
…その目、やっぱり…あ、いえ。何でもないです!
「ん"ン"ン。そう。と、言っても半ば賭けのようなものだったが」
ただジッと次の言葉を促すようなエリシアの視線。
…そのうち目だけで魔物を追い払えそうだな。この娘…
「街の子どもたちにお小遣いを渡して、エリシアの特徴を教えて、姿が見えたら路地をリレー方式で走って、俺が向かったポイントへ誘導してもらったんだ。簡単に言えば賄賂だな」
賄賂や裏工作など、当たり前の貴族社会で育ってきたエリシア。すっかりジト目はなくなり「なるほど」とつぶやきながらメモを取りだした。
もっと質問しても…と思っていると、フィリップスから声が上がる
「なぜ2人が大通りを行くとわかったのですか?」
「そうだな。何より2人の装備と性格だな。ロベルトの装備はでかいし初動がどうしても遅くなってしまうから、立体的な動きをされやすい路地より大通りを選択するだろうと。エリシアは、そもそも大通り以外の道を知らないであろうという憶測と、レイピアという装備からスピードに自信を持っていて、追いつかれると思っていないだろうと。あと万が一ロベルトに俺が手こずってたら、さらに「フォローに入って撹乱させてやろう」とかも考えてたかもな。まあ全部俺の勘だがな」
勘といえど侮るなかれ。予測と経験から導き出される勘は『当てずっぽう』よりも遥かに的中率が高い。
冒険者は危険と隣り合わせの為か、『勘』の練度が一般人のそれとはわけが違う
「なるほど…。すごく勉強になります」
「では、次は私から」
フィリップスが関心の声を上げるや否や、今度はエリシアからの質問が
「確かに、先ほどイケルが言われた通りの判断で大通りを選択しましたが、私のスピードに子どもが追いつけるとは思わないのですが」
「そのためのリレー方式だ。いくら早い人間でも何分も走りっぱなしの状態なら、子どもでも追いつける。それを短い距離での全力疾走VS長い距離を走ってる人間なら…とそんな感じだ」
納得したのか、一つ頷いた後メモにペンを走らせるエリシア
「さて、フィリップスだが…さっきなんとなく分かると言っていたが、なぜ捕まったか分かるか?」
「始まる前から僕の居場所が分かっていたから…ですか?」
「半分正解。俺が最初に動き回ってる人間から捕まえたのには理由が2つある。わかる者はいるか?」
そう聞くと、ここまで静かにしていたレベッカが手をあげた
「一つはどんどん遠くへ行ってしまうからだよね。2つ目は意識を逸らすため?」
「ベリーグッド!!まさにその通り!俺が向かった方向から、ロベルトが帰ってきてそっち側から俺も来ると思って背後を疎かにしただろう?フィリップス?」
「―っ…確かに、大通り側だけ意識していました…」
フィリップスは自分の失態に対し悔しそうに肩を落とし、この後詳細を明かされるレベッカは逆にニコニコ
「最後にレベッカ。…は、特にないんだよなー」
「ふふふ」
「鬼ごっこと言われながらも、かくれんぼをする機転。その点はフィリップスも良かったな!んで、何より杖を使って罠を仕掛ける余裕。惜しむとすれば、罠から自分の位置が近すぎたことかな」
そう。今回の鬼ごっこは『逃げる者を追う』という普通の鬼ごっこではなく『鬼に捕まらない』を判断、行動できるかを見るものだった。
大人VS子どもで時間無制限の鬼ごっこなら4人とも隠れることを選択しただろう。
しかし、今回は5分間逃げ切れば勝ちというルールの為、逃げ切れると判断した2人が出てきた
「というわけで、残念ながら俺の勝ちだな!はっはっは」
ただの鬼ごっこで、こんな短い時間で、自分ですら気づいていなかった弱点ともいえる部分を的確に攻めた俺に対して、悔しがりながらも称賛の拍手をくれる教え子たち。
この時俺は、自分の弱さを認め、相手の強さを受け入れる素直さを持ったこいつらは強くなるだろうなと確信した。
純粋すぎるがゆえに騙されないか不安ではあるが、その辺は時間と経験が解決してくれるだろう
「さて、結果と経緯はさっき言った通りな訳だが…それを踏まえてもう一度やるとしたらどうする?ただし、今度は1週間君たち誰かが逃げ切れば勝ち。方法は皆で話し合って決めて構わないぞ」
そう言うと、真っ先にロベルトが声を発し、エリシアやフィリップスが反論をし、レベッカは必要に応じて参加する。という型がすぐに出来上がった
案外この4人でパーティーを組ませても、バランスも取れてて良いかもな
「あー。では一つ考え方というより、心構えに近いものを言おう。君たちは今パ-ティーを組んでいて、鬼ごっこという初めて受けたクエストに向かおうとしている。どうだ?俄然やる気が出てこないか?」
身震いする者。顔がほんのり紅くなる者。変化があまり見られない者。差異はあるが皆、一様に高揚しているのは見て取れる。
……結果。彼らが導き出した答えを代表してロベルトが報告してきた
「イケルさんに目隠しをした後、音をたてないようにこの場から移動して、あとはみんな別々の場所に隠れる!」
「…なるほど。この3重の手なら俺から逃げ切れると思った訳だな?」
ロベルトが何度も頷き、フィリップスは納得を見せ、女性陣二人は少々納得がいってない様子。
どうやらロベルト発案の作戦で、これ以上良い案が無くてフィリップスは納得。女性陣は無理だと分かっていながらも、代案が無く渋々…といった具合か。
目隠しは取れば終わり。消すなら音より気配。隠れるぐらいなら家に引きこもる。
せめて目隠しを取れないように工夫してくれれば及第点だったが
「では、単刀直入に言おう。半日もあれば全員捕まえれるな」
発案者であろうロベルトは、今日一番の落胆。フィリップスはさすがに半日は…と、ちょっと不満そうに。女性陣は「そりゃそうよね」と納得の表情
「どうする?もう一回考えるか?答えを聞くか?」
「回答をお願いします」
今度はエリシアが周りの意見も聞かず、ノータイムで返答してきた。
おそらく事前に決めていたのだろう
「では、答えを言う前にルールを再確認しよう。ロベルト。どんなルールだった?」
「1週間イケルさんから逃げ切る」
「やはりそこに囚われたな。では、最初のルールは?エリシア」
「…なるほど。全員がこの広場から居なくなってから1週間生き延びる。と変換できますね」
「その通り。誰か一人でもこの広場から出なければ、俺は動けない。この方法なら交代で見張るだけでいいから安全かつ効率的に、1週間どころか一生生き延びれる」
鬼ごっこだから逃げる。という発想になりがちだった頭を、隠れるということもできると知り、今度は隠れることに固執してしまった子供たち。
そう仕向けたのは俺だが、エリシア辺りならこの答えに初めにたどり着けそうと思っていたが…やはりまだ子供だったというわけか
「もう一つ、もっと簡単な方法がある。が…」
「イケルを動けなくする」
そう言って、メモを取っていた手をとめ、顔だけ上げてエリシアが答えた
「そういうことだ。俺をどこかに縛りつけて放置すればいい。そうすれば、広場から全員離れようが俺は何もできない。まあ、心優しい誰かが俺を開放してしまう危険はあるがな。より確実性を求めるなら、四肢を切り落としたり、俺を亡き者にしてしまえばいい。さすがにそうなったら俺も降参するしかない」
そう言って『二カッ』っと歯を見せ笑ってみせたが、さすがに死を連想させるような冗談は笑われず、ドン引きされた
「すまん。今の冗談はさすがに早すぎたな。だが、冒険者とは常に危険と隣り合わせ!冗談が冗談じゃなくなる可能性だってあるんだと今は頭の片隅に入れておいてくれ。特に討伐や護衛などの危険度が高いクエストの時は、お互いがお互いを。そして自分自身も身を守れる、危険を回避できる冒険者を目指してくれ!」
「「「「はい!!」」」」
こうして、新人教育の初日の最初の講義が終了した。
時間はちょうど昼頃。
「よーし!んじゃ、ちょうど昼飯時だし、ギルドの雰囲気ってやつを体感しに行くか!もちろん!奢りだぞ!(ギルドのだけどな)」
「やったぜ!実は動いたり、日頃使わない頭使ったから腹ペコなんだよ!」
ロベルトの頭を~の件で「あはは」と明るい笑い声がこぼれる中、大人をも震え上がらせるジト目を
向けてくる人が約一名。
…どうやら聞こえないように言ったはずの(ギルドのだけどな)が聞こえていたようだ…